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≠勇者  作者: 単参院 涼
14/24

#13 午後の日永は姫君と


訓練初日、煉紅郎は昼食をとると午後の訓練をラシュナートに任せて書庫に向かう事を告げると案の定、アリステリアから文句が上がったがミリアが宥めてくれたお蔭でその場は落ち着き、午後の訓練はラシュナートの指導の下、シャルルとアリステリアが訓練に勤しむ事になった。

煉紅郎は自分の後をトントコトントコついて来て城の中まで入ってこようとするポンキーを何とか説得し訓練場まで引き帰させる事に成功すると踵を返し一路、城内にある書庫に向かって歩き出した。


「ふむ。ミリアさんに聞いた場所はこの先・・・あー、在った在った」


 書庫までの行き方を煉紅郎は既にバル爺から地図として貰ってはいたのだが、昨日の一件のせいでどうもバル爺から貰った地図は信用できなくなってしまっていた。

 かの老人からすれば久方ぶりに出会った孫に対してのちょっとした茶目っ気のつもりでやったのだろうが、まぁ、それが罷り通らない時もあるにはある。


(文句を言えない限り、流石にバル爺から受け取ったものは正直、信用ならんからな。それにしても・・・)

「う~ん。やっぱり読めんな」


 書庫の扉の上に掲げられた室名札には『書庫』『管理責任者ルー・ルー』と書かれているのだが、まだこの世界の文字が読めない煉紅郎には蚯蚓が這った様にも象形文字の様にも見えてしまっていた。

 一先ずミリアやバルボドッサから教えてもらった場所なのでとりあえずは入ってみる事にした。扉は木製の扉は金属部分が油が足りないのか、扉を開くとギーっと音を立てた。

 中に入ると幾つもの本棚がズラリと並び、本棚には大小様々な本が隙間無く収められてた。本棚の下にも収まりきらなかったのか何十冊もの本が平積みの山を作っていて、それが幾つも出来ていた。


「・・・す・・・」

「レンクロウ様?こんな所で如何されました?」

「ん?あー、姫さんかちょっとこの世界の事を知りたくてね」

「そうなのですか、レンクロウ様はこの世界の文字は・・・」

「読めません。だから、書庫の管理してる人にでも師事しようかと・・・」

「まぁ、でしたら私がレンクロウ様に教えますわ!コレでも一通りの教養は身につけているつもりです。ルー・ルーに言って場所を借りましょう」

「ん?いや、ちょっと」


 突如現れた王女エルミシリアが煉紅郎に文字を教えると宣言するとつかつかと書庫の中を進み、管理責任者のルー・ルーなる人物を呼び出し始めた。煉紅郎は、それに驚きつつも、まぁ、文字が読み書き出来る様になるんなら誰に教えを乞うても構わないか。っと思いエルミシリアの後を追い、悠然と立ち並ぶ本棚の間を通る。

 少しすると、小さく開けた所に出た。この書庫自体は城の端に位置していて塔が丸々書庫になっている。内部は外側から本棚を設置され中心部分は机と椅子があるだけという造りをしており階段もあるのだがそれ自体も立ち並ぶ本棚や平積みの本の山で少し判りにくくなっている。

 エルミシリアが呼びかけに答えず姿を現さない書庫の主に少し溜め息を漏らしながら机の上に置いてあったベルを手に取り鳴らした。ベルはガランガランっと喧しい音を立て、その音が静まる頃には一人の人物がドカドカと階段を踏み鳴らし下りて来た。


「はいはい何の御用で。ってエルミシリア様で御座いましたか。こんな所へ珍しいですね。何の御用で?」


 階段から降りてきた人物の正体は鋭く尖り立った犬耳と青色の長い髪し、髪と同じ毛色をした尻尾を生やした男性であった。


「彼がルー・ルー?」

「いえ、彼はルーガルー。ルー・ルーの補佐をしているのです。ルーガルー、この方はレンクロウ様、先日の儀式でこの世界に来て頂いた勇者様です」

「ほぅ、これはこれは、勇者様。自分の名前はルーガルー。ここで書庫管理補佐をしておりますしがない戦狼族ウェアウルフの男で御座います。以後お見知りおきを」

「あぁ、俺はレンクロウ・マダラメよろしく。それと、俺の事を勇者って呼ばないでくれ、なんかむず痒いんだ」

「ははは、かしこまりました。レンクロウ様」


 戦狼族ウェアウルフは狼の耳や鼻、尻尾などの特徴以外は狼の毛が部分部分に生やした人に良く似た種族である。優れた膂力を持ち、戦闘を好むが武器を使う事を嫌い徒手空拳で戦う。若い女性でも人間の男を捩じ伏せる事ぐらいは悠々と行なえる。


「それで、ココへはどの様なご用件で?」

「そうだ・・・」

「ねぇ、ルー・ルーは何処?」

「ルー様でしたら最上階で蔵書の整理を」

「そう。だったらココを使っても良い?それと砂版を貸して貰える?」

「ええ、構いませんよ。砂版を持ってきますので座ってお待ちください」


 そう言うとルーガルーは本棚の奥に姿を消し、その場に残された煉紅郎とエルミシリアは少し埃の積もった椅子の上を手で掃ってそれに腰を下ろして直ぐにルーガルーが手に大き目の木枠のある画板の様なものを持ってきた。画板の中には砂が入っていた。


「エルミシリア様、砂版をお持ちしました」

「ありがとう。ココに置いて」

「はい、・・・それでは自分はコレで・・・それと、お二人が着ている事をルー様にお話しておきます。それでは」

「ありがとう。ルーガルー」


 いえいえと恐縮しながらルーガルーは階段を上がり上階に居る上司の下へ向かった。

 階段を上がったルーガルーを見送るとエルミシリアは煉紅郎の方へ向き直り砂版を煉紅郎の方へ寄せた。


「レンクロウ様。コレは砂版と言いまして、読み書きの練習などに使う物です。これから私がコレを使ってレンクロウ様に文字を教えます」

「ほぉ、こんなもんがあるんだ。へぇ、面白いな。よろしくお願いします」

「はい!」


 その日の午後、煉紅郎はエルミシリアによる座学でポルモルの文字に対して一通りの理解はしたものの、理解する事とそれを自在に行なう事は違い、完全にマスターするにはまだ時間が掛かる様でエルミシリアの提案でこれから数日間、午後は書庫で子供向けの枕物語を彼女に読み聞かせる事になった。

 書庫の主たる存在のルー・ルーが姿を現したのは日が暮れかける頃だった。ルー・ルーは聡明な女性だった。背の高いほっそりとした身体に腰まで届く程の綺麗なブロンドヘアーをしている。眼鏡をかけたどこか眠たげな表情をしていた。彼女は自分の紹介を終えるとそそくさと上階に姿を消した。一緒に降りてきたルーガルーは申し訳なさそうに二人に謝ると彼女を追って階段を上っていった。

 煉紅郎はエルミシリアと書庫の前で別れて皆の居る訓練場へと向かった。



「・・・大丈夫か?」


 それが訓練場へ到着した煉紅郎の第一声であった。

 訓練場には、文字通りぐったりとした雰囲気で座ったり横になったりと思い思いの姿勢で身体を休めている妹姫、猫メイド、女騎士の三人がいた。

 目敏く煉紅郎を見つけたポンキーがトントコトントコ走って近寄ってきて顔を煉紅郎に擦り付けていた。ポンキーに遅れてラシュナートが近づいてきた。


「よう。勉強はどうだった?」

「まぁ、理解は出来たけど、修得にはまだまだ時間が掛かるな。で、コレはどういう状況だ?一体何をした?」

「いや別段、大した事はしてない。こいつ等の体力が無いだけだ」

「何をしたんだ?」

「ただ、休憩を挟みながら走っただけだ」

「・・・今日はコレでおしまいにしよう。みんな~大丈夫か~?」


 煉紅郎の声に皆、弱々しく答えた。妹姫と女騎士はミリアに任せて、煉紅郎はシャルルをおぶり、ポンキーをラシュナートに任せ帰路に着いた。



 午前中は城の訓練場でシャルルとアリステリア、マリオンの三人と訓練をし、午後は書庫でエルミシリアと座学をする。そんな日々を五日ほど経った日の朝、煉紅郎達は宿の食堂で朝食を取っていた。


「ご主人様、今日はどんな事をするんですニャ?」

「ん?今日は昨日の帰り際に言った通りギルドの仕事を請けてくるから、シャルルは・・・好きなことしてて良いぞ」

「にゃ?だったらシャルはご主人様のお供をするニャ!」

(二足歩行の猫のお供・・・なんかそんなゲームあったなぁ)

「うーん、今回は一人で行くよ。ラスト、後を頼む」


 煉紅郎はそう言うと食堂を出て宿を後にした。

 食堂に残されたラシュナートとシャルルは朝食を済ませ、煉紅郎が置いていった硬貨の入った袋を手に厩舎でのんびりしているポンキーの顔を見て街にくりだした。


「ラシュさん」

「ん?なんだ?」

「ラシュさんはどうして暗殺者なんてしていたんだニャ?」

「聞き難い事を聞くな。まぁ、よくある話だ。御家が無くなり放浪の身になった子供を暗殺を請け負う男が引き取って後継者として育てた。その子供の成れの果てが俺だ」

「・・・ごめんなさいニャ、変な事聞いたニャ」

「別に、その親代わりの男も死んで生きていくにはコレしかなかったしな、でも、今はこうしてお前と一緒に散策してる。人生何が起こるか解らないものだ」

「それは、良い事ですかニャ?」

「あぁ、そうだな、良い事だな。で、何処に行くんだ?」

「この近くで刀剣を扱ってるお店ニャ」

「なんで?」

「昨日の訓練でそろそろ格闘訓練を入れるって言っていましたニャ。だから、見るだけでもどんな物があるのか知りたいんですニャ」

「それに俺が付き合ってるって訳か」

「そうですニャ!何処かにお勧めの場所とかありますかニャ?」

「う~ん・・・」


 シャルルの問いに暫し思案するラシュナートであるが、数日前の夜に出会った窟妖族の男を思い出した。

 街中を歩きながらラシュナートとシャルルは目的地を探しながら賑わっている店や出店を覗いて見てまわって、日が真上に来た頃にようやく目的の鍛冶師ジャシュガンの営んでいる鍛冶屋『シュミラ』に到着した。

 鍛冶屋はラシュナートの想像よりも大きく立派な造りの建物だった。中に入ると至る所に様々な武器や防具が飾ってある。一つとして同じ造りの物が無かった。これは彼が窟妖族というのが起因している。窟妖族は気分屋な者も少なくない、ジャシュガンは城からの受注ですら両手で数える程しか作らない、いや、作らないのではなくて作れないのだ。同じ物を五つ越えると面倒臭くなって放り出して別の物を作り始める。それをわかった上で城からはジャシュガンには少数しか受注しないのだ。

 シャルルが店内の色々な武具を見て「凄い沢山あるニャ」なんて言って物色している。すると、店の奥からジャシュガンがやって来た。


「ん?誰だ?あぁ、夜の兄ちゃんの連れか、何の用だい?」

「いや、どんな物が有るのか知りたくてね寄ってみた・・・」

「ありゃお前さんの連れか?お前さん以外と良いトコのお嬢さんか?」

「いや、あいつは俺の連れだけど、仕えてるのはその兄ちゃんにだよ」


 そんな話をしているとシャルルが二人の下にトコトコ近づいてきた。


「初めましてニャ!シャルはシャルルって言いますニャ。よろしくお願いしますニャ・・・」

「わしはジャシュガンだ」

「ジャシュガンさんニャ!」

「お前さん。勇者の兄ちゃんに仕えてるのか?」

「はいニャ!ご主人様の事、知ってるんですかニャ!」

「アイツが勇者だって知ってたのか?」

「あぁ、わしはバルボドッサとは旧知の仲でな・・・」


 ジャシュガンは二人に自分とバルボドッサの昔の話とバルボドッサに煉紅郎の事を頼まれた事を話した。


「そうだったんですかニャ」

「ふ~ん」

「そういや、兄ちゃんは朝の早い内に来たな」

「アイツは何を買って行ったんだ?」

「わしは客の事を話す事はしないんだが、まぁ、身内だから良いか。兄ちゃんが買って行ったのは・・・ああ、コイツだ」


 そう言ってジャシュガンは一振りの剣を二人の前のテーブルに置いた。

 シャルルは顎をテーブルに置いてフシューと鼻息荒く剣を眺め、ラシュナートは腕を組みただジッと剣を眺めていた。


「コイツはファルシオンって剣だ。片手剣より少し短く重い分振り下ろして断ち切ることには適しちゃいるが、その短さと重さがネックになってすばやい取り回しや突きがし難い剣だ」

「これを買ったのか?」

「あぁ、それと・・・・・・この解体用ナイフとこいつらだ」


 ジャシュガンは一振りのナイフと幾つかの小振りの武器をテーブルに並べた。


「こんなに買ったのか?」

「まぁ、このダート(投擲矢)は十本まとめて2000ハル。ボーラは鳥用とこの鎖タイプの一つずつで鳥用が500ハル、鎖タイプが800ハルだ」

「ふニャ~沢山ニャ~」

「コレは?」


 ラシュナートは細く尖った鉄の棒を手に取り眺めながらジャシュガンに問い掛けた。


「そいつは試作品の棒手裏剣だ。兄ちゃんが何日か前に来て、作って欲しいって頼んできてな、面白そうだから作ったんだが、中々どうして難しくてな五十本作って半分位しかまともなのが出来なかった。まともと言ってもまだまだ修正が必要だ。兄ちゃんには試作品のテスト代わりにタダでやったんだ」

「ふ~ん」

「そいつは歪んでるから投げるには向かないが暗器としてはまぁ使えない訳じゃない。いるか?」

「いや、それならコイツを貰う」

「ん?そうか。1500ハルだ」


 ラシュナートは懐から財布を取り出し武器の代金を払い暗器・峨眉刺を受け取った。

 その間もシャルルは店の中を見て回っていたが、壁に掛けられた一本の長柄の武器の前で止まり、しきりに自分の身体とその武器を見比べていた。


「なんだ、嬢ちゃんそれに興味が在るのか?」

「うニャ!?はっはいニャ!」

「持ってみるか?」

「良いんですかニャ?」

「ああぁ、ほれ」


 ジャシュガンは猫メイドの見ていた武器・グレイブを彼女に手渡した。シャルルはそれを受け取ると石突を床に下ろし垂直に立てるとジッと切っ先を見つめた。

 彼女の手にしたグレイブは他の店にも有る様な平凡な拵えの物だったが、刃の強度と切れ味は他の店とは雲泥の差があった。


「カッコいいですニャ」

「そうかい、そうかい」

「俺には何処にでもあるグレイブに見えるが・・・」

「良く見ると綺麗に波打った模様があるニャ、綺麗ニャ~」

「えっ」

「ほう、良く分かったな嬢ちゃん。そいつには特殊なコーティングを施してるから分からない筈なんだが・・・嬢ちゃんの目は騙せなかったか」

「おい、それって」

「ああぁ、ダマスカス鋼だ。とは言っても、手慰みで屑鉄から作ったモンだから大したもんじゃない。コーティングしたのも気付く奴がいると面白いと思ってやったもんだしな」

「買うとしたら幾らになる?」

「そいつは売りもんじゃないんだ。気付いた奴とは作るかどうか交渉する」

「交渉ニャ?」

「本物のダマスカス鋼のグレイブ。銀貨三枚、持って来たら作ってやる。もちろんコーティングはしない」


 そう言いながらジャシュガンは金額を聞いて驚いてるシャルルからグレイブを受け取り壁に掛けなおした。


「んニャ!すっごく高いニャ・・・」

「三万ハルか。銀貨三枚じゃないと駄目なのか?」

「あぁ、駄目だ。銀貨三枚、二枚でも一枚でもなく三枚だ。まぁ、直ぐは無理でも用意出来たら来な。そしたら作ってやるから」

「はいニャ!」

「あぁ、それと・・・コイツは兄ちゃんから嬢ちゃんにだ」


 ジャシュガンはそう言うとテーブルの上に一振りの短剣を差し出し説明を始めた。


「コイツはダーク、両刃になってるが刃の根本のココが鋸状になってる。コイツ自体は細身だから刺突専用だ。柄を編み紐で組んでるからすっぽ抜ける事は無い。んでコイツが鞘だ。細身で小さめの短剣だから懐にも隠し持てる。まぁ、説明はこんなもんか。ほれ」

「でも、シャルはお金が・・・」

「代金は兄ちゃんに貰ったよ。ほら、持っていきな」

「良いんですかニャ?」

「良いんだよ。俺は兄ちゃんと約束したんだ。嬢ちゃんにそいつを渡すと」

「・・・ありがとう御座いますニャ!」

「ただの商売だ気にするな」


 シャルルは短剣をギュっと握り締めて壁に掛けられたグレイブを見つめ、意を決したようにラシュナートを見つめた。



これから少しずつ少しずつですが、冒険物っぽくなっていきます。


シャルルがこんな風になるなんて・・・

書いてる当初はちょこっと出てそれでバイバイって感じにしようと思っていたんですがねぇ


では、次話は来週火曜日正午頃になります。

誤字脱字等御座いましたら御一報ください。


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