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≠勇者  作者: 単参院 涼
13/24

#12 訓練開始

 時間は、街中の人が朝食を取り、各々の仕事に取り掛かり始めた頃、訓練場には煉紅郎以外の人影が見当たらず、騎士団の連中がやって来たのは妹姫と猫メイドが着替えに向かった後、マリオン・デリュー率いる第三師団の連中がぞろぞろとやって来た。

 煉紅郎はというと入り口に腰を下ろし着替えに向かった三人の到着を待っていた。すると騎士団の一員らしき男が煉紅郎の元にやって来た。


「貴様、何をしている?」

「ん?」

「貴様だ!ココで何をしている!ココは王国騎士団の訓練場だ!」

「俺も訓練だ。えーっと、あっ居た」

「貴様!今は俺が話を・・・」

「マリオン!マリオン・デリュー!」


 騎士の男の怒声に顔を顰めつつ、煉紅郎が離れた所にいたマリオンの名を呼ぶと騎士の男は更に声を荒げたが、直ぐに彼の上司にあたる師団長マリオン・デリューがやって来た。


「何のようだ勇者!?」

「ゆっ勇者!?コイツが?」

「その勇者ってのは止めてくれ。一つ質問がある」

「考えておく。でなんだ?」

「この訓練場は騎士団専用なのか?」

「いや、別段、専用と言う訳ではないが?まぁ、我々以外に訓練場を使うものはそうは居ないからな。何でそんな事を聞く?」

「いや、こいつがココは騎士団専用だと言うんでな」

「・・・なに?」

「いや、じっ自分は・・・」

「そうなると城の外でやればいいだけの話何だが・・・」

「それは姫様も・・・」

「まぁ、条件の範囲内だからな。連れ出す事になるが・・・良いのか?」


 煉紅郎の言葉が出てくるたびにマリオンの顔は険しくなっていき「連れ出す」の言葉で先ほどから煉紅郎に絡んでいた騎士の男を睨みつけ頭を掴み強引に頭を下げさせ謝罪した。

 彼女からすれば、たとえ召喚した勇者と一緒であったとしても一国の姫が街中を歩き回るなど危険極まりない自体は絶対に回避しなければならない事だ。それが回避できるなら頭を下げるのは安いものだ。そう彼女は思っている。彼女にとって一番は王族の命の安全と幸福な生活なのだからだ。

 煉紅郎がマリオン達騎士団と対応していると妹姫たち三人が城から着替えて戻ってきた。


「何してるのよ、あんた達?」

「あっ、アリステリア様。いや、コレは・・・」

「アンタに聞いて埒が明かないわ。マリー、コレはどういう事?」

「姫様、実は・・・」


 マリオンはアリステリアに一連の経緯を伝えると、溜め息と共に一言「なによそれ」と言って煉紅郎に向き合い、手を自分の腰にあて胸を張り仁王立ちし・・・


「どうよ!コレで良い!」

「あぁ、似合ってるよ。」

「馬鹿にしてるの!あんた!」

(一体何が正解なんだ?)


 アリステリアが煉紅郎と話をしている内にミリアがマリオンと話をし、煉紅郎に聞こうと彼女が煉紅郎に視線を向けるとアリステリアを相手しながらも視線を度々彼女達に向け表情のみの会話であったが、事は穏便に済みマリオン達、第三騎士団は訓練場に入っていった。


「あぁ、はいはい。解った解った。じゃあ、稽古を始めるぞぉ」

「はいニャ!」

「何!?この子も一緒にやるの?」

「あぁ、コイツも参加する。別に問題は無いだろう?」

「えぇまぁいいけど・・・」

「んじゃ、まぁ、先ずは準備体操するから俺の真似してやって見て」


 煉紅郎の先導でアリステリアとシャルルの三人で準備体操をし始め、それを侍女のミリアは少し離れた所で眺めている。

 三人はあーだこーだと言いながら準備体操を終えた。


「んじゃ、行くか。・・・行くぞ!」

「はいニャ!」

「行くって何処によ!?」

「良いからついて来い。行くぞ」


 そう言うと煉紅郎はスタスタと一人で歩いて行ってしまう。シャルルは慌てながらもトコトコ後を追い、アリステリアはブツブツ文句を言いながらも二人の後を追った。


(姫様、何だかんだ文句を言いながらも勇者様の言う事を聞かれて、フフッ、少しは心を許しているのでしょうか?)

「行かれてしまいました。さて、私は如何しましょう?勇者様からは何も言われませんでしたし・・・そうだ!さっき姫様が脱ぎ散らかした服の整理をしてしまいましょう!そうしましょう!」


 ミリアは一人ごちながら城の方へ足を向け、そして、城内へ姿が消えていった。




 時は少し遡り、煉紅郎達と別れパウルマン商会に到着したラシュナートは応接間に通されパウルマン商会の会頭パウルマンと対面していた。


「そうですか。レンクロウ様は来られませんか。まぁ、ご自身を鍛える為なら致し方ありませんなぁ」

「あんた本当にそう思ってるのかい?」

「はい、思っておりますよ。こんな商売をしてはおりますが、お客様には誠実に対応しさて頂いております。ところでラシュナート様」

「なんだ?」

「ラシュナート様はレンクロウ様とはどの様なご関係で?」

「大した関係じゃない。何故そんな事を聞く?」

「出すぎた好奇心でした申し訳ありません」


 こんな風に二人が会話をしていると商会の番頭の一人、アルゼンムスがやって来て大山豚の準備が出来た事を伝えにきた。


「ラシュナート様、準備が整いましたので此方へ・・・」

「あぁ」


 アルゼンムスの先導でラシュナートとパウルマンの二人は獣舎の動物用の出入り口で向かうと其処には、鞍に鐙、そして鞍下を身に着けた大山豚が居た。

 煌びやかではないが確りとした作りの蔵や鐙をその身に乗せた大山豚はどこか誇らしげに尻尾をピョコピョコ振って、やって来たラシュナートを見てすぐさま尻尾をダランと垂らして暗い雰囲気を纏い地面に伏せてしまった。


「ん!?何だ!?俺じゃ不満か?ああ!」

「プゴ・・・」


 ラシュナートが溜め息を吐く大山豚にイライラして地団駄を踏んでいるとズザグが赤い首輪と首綱を持ってやって来てパウルマンに手渡し屋敷に戻っていった。

 パウルマンは受け取った首輪を大山豚に取り付けながらラシュナートに話しかけてきた。


「ラシュナート様」

「ん?なんだ?」

「このこの名前はお決まりですか?」

「ああぁ、確か・・・ポンキー・・・だったかな?」

「確かでしょうか?」

「うん、大丈夫。確かだ!」

「では、アルゼンムス、おねがいします」

「はい。旦那様」


 そう言うとアルゼンムスはその場に座りポケットから金属のプレート、腰から小型のノミとハンマーを取り出し、それを使って金属プレートに刻印をし始めた。

 唐突に始められたせいか、場の雰囲気に完全に飲まれてしまったラシュナートはその場で行なわれる事をパウルマンから声を掛けられるまでただ見続けた。


「旦那様。終わりました。此方でございます」

「アルゼンムスありがとう。ラシュナート様」

「ん?ん?ああぁ、なんだ?」

「このこの名前でよろしいですか?」


 パウルマンの手には金属のプレートが乗っていた。それには、『ポンキー』と彫られていた。


「ああぁ、大丈夫だ」

「それでは・・・」


 そう言うとパウルマンは大山豚の首輪に先程の金属プレートを取り付けて自身の服をぱっぱっと叩きながらラシュナートに向き直り首綱をラシュナートに差し出した。


「はい。コレでこの大山豚ポンキーはレンクロウ様のモノとなりました。レンクロウ様の代理人としてラシュナート様、貴方様に御渡しします。どうぞ」

「確かに・・・」

「レンクロウ様にこの子をどうかよろしくお願いしますと・・・」

「解った。それじゃあ」

「はい」

「プゴプゴ♪」


 ラシュナートはプゴプゴと楽しそうに鳴き、煉紅郎に会える事に心を高ぶらせて尻尾をピョコピョコ振っている大山豚のポンキーを連れて城の訓練場に向かった。




 煉紅郎達が訓練場から立ち去ってからある程度時間の経った頃

訓練場の入り口で王国騎士団第三師団師団長マリオン・デリューは悩んでいた。

 今朝方の師団副師団長以上を交えた会議で騎士団団長のダリオン・ダグラムから『偽勇者レンクロウ・マダラメが第二王女のアリステリア様と訓練の名目で行動を共にするのが今日から始まる!奴が訓練と言う名目で如何わしい事をしないとも限らん!各位、自身の行動の範囲内で奴が可笑しな行動させない為、監視を怠るな!分かったな!』っと御達しが合ったからだ。

 では、今の現状は如何するべきか?自分の率いる第三師団は訓練の為、現在訓練場に居る。レンクロウは猫侍女と現れ、姫様と侍女のミリアが合流したかと思ったら、何処かへ行ってしまった。奴の話し振りからは城の外に出る事はないだろうが、私は後を追った方が良かったのだろうか?私自身、師団長と言う立場から軽はずみな行動は出来ない、然しだからといってこのまま見過すのも出来ない・・・

 如何したものかと思案しているマリオンに声が掛けられる。

 声のした方に振り向くと其処には、第三師団副師団長のガウ・ジャスミンであった。


「如何しました?マリオンさん」

「いや、今朝の会議の事もあって奴の後を追うべきだったかと思ってね」

「うーん、自分には判りかねますが、別段、終始監視しろと言われたわけでは無かったので構わないのかと、それに、既に別の師団の者が監視していると思われます」

「何故そう思う?」

「はい、ぎ、いや、あー、んー、申し訳ありません。流石に、自分はあの方が偽者とは思えません。なので、レンクロウ様と呼ばせてもらいます。レンクロウ様は、訓練場が使えない場合は城外で訓練を行なう事を匂わせていました。現在は訓練場が使えますので、城外に向かう事は無いと思われます」

「あぁ、私もそう思う」

「でしたら、そう気に病む事もないかと思われますが?」

「そうだな」

「はい・・・ん?!あれは・・・」

「どうし・・・た・・・」


 二人の視線の先には全身を黒色の衣服に身を包んだ麗人と麗人に連れられプゴプゴ楽しそうに鳴いている大山豚が其処に居て、此方に向かってくる。

 何事かと思っていると、二人の後方から声がしたかと思ったら二人の横を走りぬける影があって声が後からついて来た。


「ポンキーーー!!」

「ぷぎーー!」


 お互いの名前を呼び合って嬉しかったのか、シャルルはそのまま大山豚の顔に飛びつき楽しそうにじゃれ合っている。

 黒衣の麗人は半ば飽きれた様に顔に猫メイドを乗せたままの大山豚の首綱を引き訓練場の前までやって来た。

それに少し遅れて煉紅郎が妹姫を連れて戻って来た。煉紅郎は平気な顔をしていたがアリステリアの方は肩でぜぃぜぃと息を荒げていた。


「姫様!大丈夫ですか!?」

「貴様!アリステリア様に何をした!?」

「・・・何も、ただ城をグルッと歩いただけだ。・・・お疲れラスト」

「いや、其処まで疲れてない。お前の方は・・・大変そうだな」

「うーん。どうだろう?まだ始めたばかりだからな・・・」

「おい!」

「ん?」


 振り返るとマリオンがアリステリアを支えるように立ち側にはガウも控えていた。


「姫様に何をした!」

「何も・・・」

「そんな訳があるかこんなにも疲れきっていらっしゃる」

「本当にただ城壁の中をぐるっと一周散歩しただけだ」

「そうですニャ!」

「そんな嘘を!」

「・・・いいえ、本当よ・・・」

「姫様!」

「あたし達はただ歩いてただけ、もう大丈夫。で、次は?」


 強がって見せたいのかアリステリアは腰に手を当て胸を張って煉紅郎に主張した。

 しかし、心情は違った。たかが城壁に沿って歩いただけなのに煉紅郎や侍女のシャルルはケロッとした顔をしているのに自分は息を切らしてしまい劣等感を感じていた。


「んー、もう一周回って来い。今度は駆け足で」

「えっ・・・」

「はい、ほらほら行った!」

「行ってきますニャ!」

「ちょっちょっと押さないでよ。一人でも歩けるから!」

「姫様!」


 シャルルがアリステリアの背中を押して進もうとするので抗議の声を上げながらも城壁を一周する為に駆け足で行ってしまった。


「ガウ」

「はい」

「後を頼んだ。私も行ってくる」

「かしこまりました行ってらっしゃいませ」

「・・・それじゃあ、俺も付いて行くよ」

「あぁ、頼む」


 先に駆け出した侍女と王女を追って女騎士が行ってしまい、その後をラシュナートが追いかけて行った。そんな四人の背中を見送っているとミリアが城から戻ってきた。


「これは勇者様、その大きな豚は何ですか?それと姫様はどちらに?」

「コイツは昨日買っぎゃっ!」


 シャルルから解放されたポンキーが煉紅郎に文字通りの熱烈なアタックをかまして、倒れ込んだ煉紅郎の顔に自分の顔、いや、鼻を押し付けている。

 ポンキーは離れ離れの恋人に再会したかのように目を細め小さく「うー」と唸っていた。


「ゆ、勇者様大丈夫ですか!?」

「んんっ!ああぁ、大丈夫だ。んで、こいつは大山豚のポンキー、命名したのはシャルルだ。姫さんはシャルルと一緒にまた行かせたよ。・・・わかったからもう放せって、は・な・せ!」


 そう言うと煉紅郎はポンキーを巴投げの要領で空中に放り投げた。が、空中に放られたポンキーは空中でくるりと体勢を変えて危なげなく地面にストンと着地しトントコトントコ歩いて立ち上がった煉紅郎に近づいて顔を擦り付けていた。


「お前、猫みたいに身軽だな。よしよし。っと、そうだ。ミリアさん」

「はい」

「あいつらが戻ってくる頃には喉が渇いてると思うから水を多めに貰えるかな?」

「はい。直ぐに準備いたします」


 そう言うとミリアは再び城へ向かって行ってしまい、煉紅郎は彼女を見送るとポンキーの方に向き直り座り込むと、ポンキーの顔をガシッと掴み同じ目線にして何度も何度も教え込むように話しかけていた。

 そんな煉紅郎の行動を見て副師団長のガウは、一抹の不安を感じるもののそれと同等の彼への興味を感じていた。



人や物の名前を決めるのって凄い労力がいると思うんですよ。

実際、パウルマン商会にはアルゼンムス君がいるしね・・・


次話は来週火曜日正午頃になります。

誤字脱字とう御座いましたら御一報ください。

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