#11 夜に散歩しないかね
大山豚の名前も決まり翌日の行動が決まり部屋の明かりを消し、三人は床に就いた。外は民家や宿に商店などは明かりが消え静まり返り、その代わり酒場は回りが静かになったのに比例するように賑わいが増している。
そんな街の賑わいを眺める様にギルドの屋根の上に一つの人影あった。その影に街の明かりが当たり影が緩やかに消え去り影の中から煉紅郎が姿を現した。彼は宿を抜け出し屋根伝いに街を巡り見晴らしの良いギルドの屋根に辿り着き、街の繁華街を眺めていた。
酒場には今日の成果を称え酒を酌み交わす冒険者や日頃の鬱憤を晴らすように飲む職人達、娼館の前では娼婦達が道行く男達に露出の多い服で誘惑している。
その風景を煉紅郎はただ眺めている。そんな彼の後ろに人影がユラリと現れた。
「こんな所に居たのか」
「嘘付け、最初からついて来たくせに、なぁ」
人影が煉紅郎に近づくと街の明かりに照らされ影が消え去りその姿、ラシュナートが姿を現す。ラシュナートはため息交じりで煉紅郎が眺めているモノに目を向ける。
「酒場や娼館を眺めて何か面白いことでもあったのか?」
「いや、別に」
煉紅郎はラシュナートに返事はするもののその視線は繁華街に向いたままだった。
「ただ・・・」
「ただ?」
「ただ、ココには色んなものが見れる」
「例えば?」
「あそこ・・・」
煉紅郎はそう言うと酒場の一つを指差す。
「あそこの一番手前に居る男。賭け事で相当勝ったんだろうな。酒の飲み方がやたら豪快だ」
「何で賭けで買ったって思う?豪快に飲む奴もいるだろう?」
「入って直ぐ歓声が上がった。きっと酒場の中の人間に酒を奢ったんだろう。完成があげってから酒場を出てくる奴が男女関係なく笑顔だ。飲み代丸々奢りだったんだろうな」
「ふ~ん。なるほど」
「そこの娼婦は、結構な時間、道に立っているけど一人も捕まらないくて焦っている。きっと家に子供が腹を空かせて待っている。もしくは、穀潰しの旦那でもいるんだろう」
「うーん、何でそこまで分かるんだ?」
「立っていた時間は彼女の仕草で何と無くかな。彼女、頻りに足を摩ってる長い時間を立ち続けたから筋肉が張り出したんだ。捕まらないのは、彼女の足元の砂が少し整ってる。きっと癖なんだろうけど、足遊びをしたんだろうね」
「家に待ってる人が居るってのは?」
「彼女の表情、あんまり表情に出てないけど相当焦ってる。他の娼婦と違って一人外れた所に立っているからきっと初めてか数えるほどしか身体を売った事が無いんだろう。そういうのは大概、家が食べて生けないほど貧窮してるか、暴力的な恋人か旦那がいる」
「なるほど、で、それを助ける気は無いと」
「助けて何になる?悪いが一時の感傷で助ける何て事は俺には出来ない芸当だよ」
「何故?」
「今日、っと言うか明日は食べれるだろう。だが、次は?また俺が面倒を見なくちゃいけ無いのか?ちっぽけな正義感で如何こう出来る問題ではないだろう。コレは彼女自身の問題だ、彼女一人だけなら生きて生けるかもしれない・・・家族か屑の伴侶を切り捨てられればの話だが・・・」
「意外と冷酷なんだなお前は・・・」
「俺は正義の味方でも何でもない唯の男だ。そんなのに期待してどうする?」
「でも、お前は世界を救う為に魔王を倒すんだろう?」
「まあね。でも、魔王がどうこうって話はどうもしっくり来ない」
「何故?」
「魔人が現れ、人間や亜人に被害が出ている。それは分かる。だけど、それで魔王を倒すに直結するのはどうかと思う。何が原因で魔人というモノが現れ、何を思って人に仇なすのか、それが解らない内には何も出来ないな。だから」
「だから?」
「だから、今は何事も身体が資本!って事で訓練をするわけだ。理解した?」
「えぇ、貴方が勇者と程遠い人間だと言う事がね」
「だから俺を勇者と呼ぶんじゃない。じゃあ、今度は下を歩いて帰ろうかね」
そう言うと煉紅郎はスルリと屋根から下りて雨樋や窓枠を足場にして地面に落ち着いた。
「猿みたいな奴だ・・・」
ラシュナートはそう言って煉紅郎の後を追って下に下りた。彼女が地面に降り立って煉紅郎の側に近づくと煉紅郎の隣に見た事の無い男が立っていた。
男は窟妖族だった。窟妖族は、身長が低く体毛が濃く腕っ節が強い種族である。彼らは高い鉄工技術を持ち、彼ら窟妖族の作った武具は高値で取引されている。彼ら自身も武具を作り身に着け戦う。しかし、窟妖族という種族は偏屈な者が多い種族でも在り、仕事を頼んでも中々請けなかったり、納得できる物でなければ納品しない、半ば無理やり仕事をさせると適当な物を納品しるなど意外と扱いに困る種族でもあるが、その突出した鉄工技術はそれすらも帳消しにするほどの魅力を持っている証拠なのだろう。
「どうした?」
「ん?連れか?」
「まぁな」
「ど・う・し・た・ん・だ・?」
「ん?こちら、窟妖族のジャシュガンさん。ジャシュガンさん、こちら、連れのラシュナート」
「ど、どうも、ラシュナートです」
「うむ。わしの名はジャシュガン。この近くで鍛冶屋をしている」
「で、コイツにどんな御用が?」
ジャシュガンと名乗る窟妖族の男の威風堂々たる雰囲気に気圧されたのか、煉紅郎には使わない丁寧な口調で喋ってしまうラシュナートであった。
このジャシュガンという男、ギルドのある通りで小さいながらも自分の店を構えていて、城からの受注を受ける数少ない男でもある。
そのジャシュガン、実は、バルボドッサと旧知の仲だそうだ。まだお互い若く修業の身の上での出会いであった。何かお互いに感じるモノがあったんだろう二人は直ぐに気の知れた友人になった。バルボドッサが国に仕える事になった頃にはジャシュガンも一人立ちし、自分の店を構えて実力を付け城からの受注も受けるほどになった。これには友人のバルボドッサも一枚噛んではいるが受注を決めるの彼ではないので切欠は彼ではあったが決め手はジャシュガンの実力にある。
そんな古くからの友人であるバルボドッサから久しぶりに手紙が届いた。それには勇者召喚の儀式を行なう簡単な経緯とそれを行なった事、勇者の名前がレンクロウ・マダラメである事、彼が城を出て生活する事が書いてあった。そして、出来れば彼に手を貸して欲しい、君の御眼鏡に適うのであれば・・・っと書き記されていた。
そして、今偶然に酒場に顔を出したらギルドの屋根の上に人が居ると思ったら降りて来た所を声を掛けたらその勇者だったというのだから、ジャシュガンは「世の中わからん事もあるもんだ」っと思った。
まぁ、そんな事があったものだから気にもなるの人の心情というものだ。「近くに来たらわしの店に顔を出せ。『シュミラ』って名の店だ」っと言ってジャシュガンは酒瓶を片手に立ち去った。
「・・・なんなんだ?あの男は?」
「まぁいいさ、帰るとしようラスト」
「あぁ・・・」
何か言いたげなラシュナートを連れて煉紅郎は宿へと戻った。
宿へと戻るとカポファが受付でゆったりと紅茶を飲んでいた。
「・・・おかえり・・・」
「何か言いたげだな」
「あぁ、ラシュナート。君が出て行って直ぐ子猫のメイドが泣きながらやって来たんで、かみさんが今、食堂で対応してるよ」
「あっ・・・」
「・・・行って来る」
煉紅郎は泣く猫メイドを想像し、少し悪い事をしたと思いながら食堂に入っていった。
食堂の中には椅子に座るドミナの膝の上で愚図りながらカップに入ったミルクを飲んでいるシャルルが居た。シャルルは煉紅郎を見つけ、煉紅郎は、また跳び抱えられるのかと少し身構えたが、当のシャルルは愚図りながらカップをテーブルに置いてドミナの膝からゆっくりと降りてよろよろと煉紅郎の元へ彼の顔を見ながら近づいてくる。
「ご、ごじゅ、ごじゅびんざま~~じどりばいばニャ~いばんだニャ~」
涙を流し、鼻水を垂らしてしゃくり上げ泣きながらやって来るシャルルを煉紅郎は避けず、近づいたシャルルを優しく抱きしめ、「ごめんな」と一言優しく語りかけた。
それを聞いたシャルルは泣くのを止めただただしゃくり上げながらひしっと煉紅郎に抱き付いて離れなかった。少ししたらラシュナートも来て謝りながら猫メイドの頭や背中を優しく摩った。それから暫くしたら冷静さを取り戻したシャルルと共に部屋に戻る事をドミナとカポファに告げつつ感謝と謝罪の言葉を送り部屋に戻った三人。
その後はシャルルに頭が上がらず、なんだかんだで三人同じベッドで寝る事になった。ラシュナートが何か文句を言っていたがシャルルは知った事では無かったので、強引にベッドに彼女を連れ込んだが、ラシュナートも満更でもなかった。
彼女自身の事を何も知らない煉紅郎であったが、彼女の過去に似たような事をした妹か年下の友人が居たのだろうか?っと思ったが決して口には出さなかった。
そんな事があった翌日、今日は大山豚のポンキーの受け取り、妹姫を含めての訓練などやる事が多い、そんな朝、煉紅郎が目覚めると・・・
(うーむ、予想の斜め上を行かれると対応に困るな・・・)
それは、煉紅郎も含めたベッドの上の現状にある。確かに昨日の夜、寝る時には右から煉紅郎、シャルル、ラシュナートの順で横になった筈であった。しかし、今はラシュナート、煉紅郎、シャルルと何時の間にか女性二人にサンドイッチにされガッチリ前と後ろから抱きつかれる状態であった。
内心驚いていた煉紅郎であったが、これ以上は寝ていられないのでまとわり付く腕を引き剥がしながらベッドから降りて、欠伸をしながら身支度を軽く済ませ、階下の食堂へと向かった。
食堂に到着し中に入ると他の宿泊客が数人、朝食を取っていた。煉紅郎も適当に席を見つけ席に座るとドミナが朝食をトレイに乗せてやって来た。
「おはよう」
「おはようございます」
「シャルルちゃん、大丈夫かい?」
「えぇ、まぁ、なんとか」
「アンタ、あの子に慕われてるんだから確りしな。あの子を泣かせるんじゃないよ」
「はい」
「ふふっ、ほら、冷めない内に食べちゃいな。ん?」
ドミナの視線の先にはシャルルと彼女に起こされたのだろういまだ眠たそうな顔をしたラシュナートが居た。
「おはよう御座いますニャ!」
「はい、おはよう。アンタ達の分も持ってくるから早く座って待ってな」
「んーん」
「はいニャ!ご主人様、おはよう御座いますニャ!」
「おはよう。朝から元気だな」
「はいニャ!昨日は恥ずかしい所を御見せしたニャ・・・」
「まぁ、昨日は俺も悪かったよ」
「そんな事無いニャ。昨日は目を覚ましたら誰も居なくて、つい嫌な事を想像してしまってニャ」
「嫌な事?」
「はいニャ。ご主人様に捨てられるって思、ふニャ」
シャルルの過去を聞いていた煉紅郎には、彼女の気持ちが痛いほど伝わってきた。あっと言う間に親や友人を失い、奴隷になり、やっと見つけた希望の光とも言える人物から見捨てられたらと思うと煉紅郎はすまない気持ちでいっぱいになった。
そのせいか、気が付くと彼女の頭を優しく撫でていた。
「それは、悪いかった」
「そ、そんな事無いニャ。昨日の事はシャルが悪かったんですニャ。ご主人様は悪くないニャ」
「仲が良いわね。貴方達」
ドミナが二人分の朝食をトレイに乗せてやって来るとシャルルがドミナからトレイを受け取りテーブルに並べると煉紅郎の隣の席に座った。ラシュナートはというと寝ぼけ眼のまま煉紅郎達の対面に座り並べられた朝食を食べている。
「おかわりはあるからたんと食べるんだよ」
「はいニャ!」
「うん!元気が良いね」
「女将さーん、パンのおかわり下さーい!」
「あいよ。ちょっと待ってな」
宿泊客に快活に答えるとドミナは厨房に姿を消した。
三人が朝食を取り終わるとシャルルが厨房に飲み物を取りに向かい、煉紅郎とラシュナートの二人は今日の予定の確認をし始めた。
「それで、俺は豚を受け取って城に行けばいいんだな?」
「あぁ、衛兵には言っておくから何か言われたら俺の名前を出してくれ」
シャルルがティーポットとカップ、水の入ったグラスの乗ったトレイを持って厨房から戻ってきた。
「お待たせしましたニャ」
「ありがとうシャルル」
「うニャ~そんニャ事ありませんニャ」
「何照れてんだ?この猫は?」
「ニャ!?なんニャ!シャルが折角ラシュさんの分も紅茶貰って来たのになんニャ、ニャんでそんニャ事言われるニャ!?」
「悪かった悪かったよ。だから落ち着けって」
「うニャ~」
「シャルル、水、貰って良いか?」
「はいニャ!ご主人様!?」
そんな事がありながらも時間は過ぎてゆき、三人は宿の通りで二手に別れ、煉紅郎とシャルルは城の演習場へ、ラシュナートはパウルマン商会へと向かった。
場所は変わり、王都マリンシュカの城の一室では・・・第二王女アリステリア・ファルシムが側使えの侍女ミリアとメイド長のマグナカルと揉めていた。
揉め事の内容というのは、『服』である。今日から始まる煉紅郎との訓練の為に着てゆく服の選定で王女と侍女の意見が真っ向からぶつかり合っているようだ。妹姫アリステリアの言い分は例えどんな状況であっても王族としての威厳と風格を重んじる為に運動するのだからドレスとは言わないけれど上等な服を身に纏うべきだと主張したが、侍女であるミリアとマグナカルの意見は違った。運動程度と甘く見ない方が良いと言いながら二人が差し出したのは男の使用人たちが着るズボンとシャツであった。
上等な物を望む妹姫とボロになるのだから使用人の使う物で良いじゃないかと言う侍女、二つの意見は平行線を辿っていた。そこに部屋の扉にノックの音が響く。
ドアを開け入って来たのはバルボドッサであった。
「バル爺、何の様よ」
「姫様、コレは手厳しい。なに、今日は勇者様との初の訓練。お心は方はどうかと思いましてな」
「別に、どうという事は無いわ。ただ、あの男には負けないわ!」
「姫様・・・」
「う~む。しかし、その格好は・・・」
「なに?運動するんでしょ?コレぐらいで良いんじゃない?」
アリステリアの格好は乗馬服であった。
「まぁ、後は勇者様にお任せしますかな」
「それで良いのでしょうか?バルボドッサ」
「ん?可笑しな事を言うのぅマグナカル。姫様は、わし等の言葉を聞き入れてはくれぬ様じゃし、ここは勇者様にお任せするのが、最善の策じゃないかのぉ」
「・・・そう言われてしまうとそう従うしかありませんね。ふぅ」
「何をブツブツ言ってるのよ!?」
「いえ、何でも御座いません。そろそろ勇者様が来られるお時間ですので訓練場の方へ向かいましょう」
「えっ、もうそんな時間?まぁ良いわ。じゃあ、行ってくるわ!バル爺、マグナ」
「行ってらっしゃいませ」
「頑張ってきなされ」
アリステリアは自室を扉を開け広げ颯爽と出て行った。その後を追う様に侍女のミリアも出て行った。
部屋に残されたバルボドッサとマグナカルの心には「何も問題が起こりません様に」っという思いでいっぱいだった。
アルステリアとミリアが訓練場に到着した時には既に煉紅郎と猫メイドのシャルルが準備運動をしていた。まぁ、シャルルは、煉紅郎のしている事を聞きながらの見よう見まねのモノではあったが。
シャルルはいつものメイド服を着ているが、煉紅郎は拳法着の様なゆったりとした服を着ている。そして、煉紅郎はアリステリアとミリアがやって来たことに気づいた様で二人に視線を向ける。
「ん?意外と早かった・・・な・・・」
「んニャ?おはよう御座いますニャ!アリステリア様!」
「ええぇおはよう。ん?何か顔についてる?」
アリステリアは、煉紅郎が彼女の姿を見て固まっているのを不思議に思って声を掛けるが、しばしの間、煉紅郎は硬直したままだった。
硬直から復帰した煉紅郎はシャルルを見つめ、それからアリステリアを見た。そして、溜め息をついた。
「なによ!?何であたしを見て溜め息なんかつくのよ!」
「いや、別に他意はない。シャルル」
「はいニャ」
「ラスト用に買っておいた稽古着があったろう?あれ持ってきてるか?」
「う~んと・・・有りますニャ!」
「なら、丁度良い。それを持って一緒に着替えて来い。シャルルお前、その格好のままする気だったのか?」
「ニャ~・・・お着替えニャ?」
「はぁ・・・ミリア、さんで良いよな?この二人連れてって着替えさせてくれ」
「あっはい」
ミリアは自分の名前が憶えられていた事に驚きつつも煉紅郎からシャルルが持ってきた稽古着が入った風呂敷を受け取って、シャルルと嫌がるアリステリアを引っ張りながら城の中にある一番近い侍女の部屋に向かった。
煉紅郎は三人の後姿を城の中に消えるのを見届けると空を見上げながらこの先、起きるかも知れない事に一抹の不安を感じられずには入れなかった。
次話は来週火曜日正午頃になります。
誤字脱字とう御座いましたら御一報ください。




