#10 宿の決め手は豚?
大通りに出た煉紅郎一行は衣服が少ない事から服屋に向かう事にした。この世界では布を買って作った方が安上がりなのでシャルルからは布問屋で布を買って自分が作る!っという申し出があったが、正直一着を作る手間と現在の手持ちの残金を考えて安物でも良いので大量に有った方が良いということで却下した。が、一人しょげるシャルルに後々必要になったら頼むとお願いしたら「任せてくださいニャ!!」っと、胸を叩いて笑顔で煉紅郎に答えた。
っという事があり煉紅郎達は大通りに在る服屋で買い物を済ませたところだった。
「意外と買わなかったな」
「そんなに買っておいてか・・・」
煉紅郎の両手には下着に肌着、シャツやパンツなどが煉紅郎とシャルルの分が別々の風呂敷に包まれて下がっている。シャルルは消耗品のタオルなどの入った風呂敷包みを二つ両手に下げ既に城から風呂敷を背中に背負ってるので、なんか大変な事になっている気がするが、煉紅郎からの申し出も断り、鼻息荒く仁王立ちしている。
「無いより有った方が良いだろ?」
「確かにそうだが・・・」
「後は・・・宿か」
「そうですニャ何処にしますかニャ?」
「うーん、先ずはココから近い所から見てみるか。ラシュナート」
「なんだ?」
「『渡り鳥亭』と『北の旅烏亭』と『南風亭』と『流木馬亭』の中で何処が近い?」
「ココから近いのは流木馬亭。それと、北の旅烏亭、南風亭、渡り鳥亭の順で近いが、料金やサービスは宿によってまちまちで、聞いて回って情報集めて決めるのが妥当なんだけど・・・」
「何だけど?」
「物は試しでこれから言う宿に行って見ないか?其処の亭主と女将とは顔なじみだから別の宿にしたいといっても何も問題ないから」
「・・・どういう所?」
服屋の近くの往来の端で宿の相談をしているが、思いがけない方向に話が進み始めた。
「元冒険者が営んでいる宿だ。名前は『豚幌亭』」
「豚、幌、亭・・・」
煉紅郎は暫し考えると先ずはラシュナートの勧める宿に行ってみることにした。
ラシュナートの先導で宿「豚幌亭」は地図でいうと街の入り口の近くではあるが大通りを外れる為、宿に到着するのに少々時間が掛かった。宿に到着すると宿の前に服を着た豚が立っていた。
いや、豚というのは語弊がある。其処に立っていたのは豚人族だった。豚人族は豚の頭に人間の体躯をしている亜人の種族である。人間の体躯といっても筋力などは人のそれでは無く、豚のそれに近く、血筋などにもよるが男性の方が猪に似て、女性の方が豚に似ている者が多い。それと、個人個人の知性の幅が広く、会話が出来きる程度の者から流暢にしゃべったり普通の者と何ら変わらない者までいる。
それが目の前にいる。しかも、スカートを穿き、頭に被ったバンダナから茶髪かこぼれ、まるで女性の様に、いや女性の豚人族だ。シャルルが彼女を目に留めると一目散に走り出した。
「うニャー豚さんだニャーココにも大きい豚さんが居たニャー!」
「なんだいなんだい藪から棒に」
猫メイドに抱きつかれ慌てる女将風の豚人族に謝ると同時に猫メイドの頭に拳を振り下ろし引き剥がした。
「ギニャー!」
「どうしたんだい?この子は?」
「本当に申し訳なかった。実は、ココに来る少し前にコイツ、大山豚と意気投合したんで、そのノリでアンタに抱きついたんだと思う」
薄く待っているシャルルを見ながら煉紅郎がそう言うと後ろから二人に遅れてラシュナートがやってくる。
「あら、ラシュナートじゃないかい。久しぶりだねぇ」
「あぁ」
「こんな寂れた所に何の様だい?」
「ドミナ、あんたん所の宿をこいつ等に進めたんだ。それで道案内を」
「そうなのかい。お客をねぇ」
「何だその目は!」
「いやぁ、気にしないでおくれよ。お兄さんとお嬢さん。いらっしゃい!豚幌亭へ」
「一つ質問が」
「なんだい?悪いけどあたしには旦那が・・・」
「いや、そんな事は聞いてないが旦那と仲が良いのなら結構な話だ。さっきの話で出た大山豚を買ったんだ。で、ココにその大山豚を置いておける厩舎があると聞いたんだが・・・」
「あるよ。実際に見てみるかい?」
「あぁ、頼む」
「じゃあ、あんたー!!」
女将が宿の中に向かって叫ぶと玄関から「なんだい?」と返事と共に二足歩行の大牛いや、牛人族が姿を現した。
牛人族は牛頭人身で体格の大きく男女共に筋肉質な身体を持っている種族である。男女で姿大きく違い、男性は神話のミノタウロスの様な姿をしているが、女性は高身長で巨乳の人間の身体に脚と頭部に生えた角が牛の特徴が現れている姿をしている。稀に人間の上半身に牛の下半身と角という者もいる。
「お客さんかい?ラシュナート!?珍しいな」
「あぁ久しぶりだな。カポファ」
「うん。で、お前さんがお客なのか?」
「あんた。お客さんはこっちだよ。」
「おう、そうか、名前は?」
「煉紅郎だ。猫はシャルル」
「ニャ!」
「大山豚を買ったからうちの厩舎で置いておけないか見てみたいんだよ。ほら、連れてっておやりよ!」
「わかった。わかったからそう怒鳴るなって・・・ほら、こっちだ。着いて来な」
「俺と猫は中で待ってる」
「あぁ、行って来る」
「はいニャ!」
牛人族の宿の主人カポファに連れられ煉紅郎は宿の裏手にある厩舎へ向かった。
厩舎は意外と大きく6頭分のブースが大きめに取られている。
「どうだい?」
「確かにこれだけデカイけりゃアイツでも十分だろ」
「名前は?」
「ん?」
「お前さんが買ったって言う大山豚の名前」
「・・・」
「決めてねぇのか?」
「あぁ、色々あってすっかり忘れてた・・・」
「まぁ、いつ受け取りに行くんだい?」
「ココに止めてもらえるんなら明日にでも」
「ならその時までに決めとくんだな。食事は朝と夜に食堂で井戸水が、ほれ、其処にある」
カポファが顎で示すと其処に釣瓶式の井戸があった。
「好きに使ってもらって構わんよ。便所は共用が一階に一つ、風呂なんてもんは無い。いそれで一人一泊銀貨一枚一万ハルだ。んで、どうする?」
「よろしくお願いします」
「おう。で、何泊する予定で?」
「とりあえずは十日ほどお願いしたい」
「十日も、悪いが支払いは前払いだ。払えるのかい?」
「あぁ、臨時収入というか・・・いや、臨時収入があったんだ」
「そうかい深くは聞かないさ。さぁ中へ行こう」
カポファに連れられながらも買った大山豚の話をしながら宿の中に入って行く煉紅郎。宿の一階に作られた食堂でシャルルとラシュナートが紅茶を飲んでいた。シャルルが煉紅郎を見つけるとトトトっと駆け寄り抱き付こうとしたのでアイアンクローで答える煉紅郎、激痛に悶えるシャルル、それを見て顔を引きつらせるラシュナートとカポファであった。
頭を抑え悶えるシャルルを置いてカウンターで宿帳に記入しているといつの間にか復活したシャルルとラシュナートが側に立っていた。
「ココに泊まるんですかニャ?」
「そうだ」
「そうか」
「何人部屋にする?」
「何人部屋があるんだ?」
「二人部屋と四人部屋、値段とサービスは変わらん」
「う~ん・・・」
「何を悩んでいる?」
「ラスト、お前はどうする?」
「どうするって何がだ?」
「・・・一緒に泊まるのか?」
「なっ・・・」
「赤くなったニャ!?」
煉紅郎の発言に顔を赤らめて狼狽するラシュナートを驚いたように見るシャルル、そんな三人を見てフッと笑いをこぼした宿の主人であるカポファであった。
狼狽しつつも煉紅郎の発言に「仕方ない解った。一緒に泊まってやる!部屋が決まったら呼びに来い!」っと言って食堂に行ってしまった。
「じゃあ、四人部屋で・・・」
「鍵は渡すから先に食堂で飯食ってけ」
「わかった。ありがとう」
カポファと談笑しながら部屋を決める煉紅郎に瞳を細めてジィーっと冷たい視線が刺さった。
「なんだ?」
「ご主人様、意外とすけこましニャ」
「失礼な。人を女衒みたいに」
「お前さんたち仲が良いんだな。とても主従関係には見えないよ」
「そう思います?」
「あぁ、奴隷にそこまで言われたら普通は罰を与えるものだからな」
「そうなのか?」
「あぁ、普通はな・・・ほれ、お前さん等の部屋の鍵だ」
カポファから鍵を受け取ると煉紅郎とシャルルの二人は食堂に向かいラシュナート合流し、少し早めの夕食を取った。夕食は女将ドミナ自慢のシチューと焼きたての黒パンだった。
夕食を済ませると三人は自室となる部屋に向かい食堂を後にした。三人の部屋は二階の階段から一番離れた奥の角部屋であった。部屋の中には簡素だが確りとしたベットが四つ左右に二つづつ分け置かれ、各ベッドの脇にナイトテーブルが置かれている。
シャルルはせっせと窓際のベッドを煉紅郎用に決め、その隣を自分のベッドにしていた。目にも留まらぬ早業とは良く言ったものだ。ラシュナートはもとより主人である筈の煉紅郎の意見さえも聞く間も無くベッドメイキングを終わらせ今日買った服類を煉紅郎の物は煉紅郎のベッドに自分のは自分のベッドに置いて、煉紅郎と対面のベッドに大量のタオルを置いた。
「おい、俺はココか?」
「うニャ?何か問題でもあるのかニャ?・・・そうか、ラシュさんもご主人様の側で寝たいのニャ」
「ちっ、違う!断じて違う!かってに貴様が決めるのが気に食わんだけだ!」
「ニャ?ならどこで寝たいニャ?」
「えっ・・・なっ・・・ココで・・・」
「そこはシャルが決めた所ニャ」
「うっうるさいわねココで良いのよ!ココで!」
「うふふだニャ~」
「何よ!」
「何でもないニャ~」
そんな、ラシュナートとシャルルの掛け合いを自分の服を整理しながら微笑ましく思う煉紅郎であった。
(ふむ。意外と仲良くなるもんだ。最初は険悪と言うほどでは無かったが、中々どうして壁があるように見えたが何がきっかけか・・・そういや、服を買っている時には二人一緒に見てたな。・・・吊り橋効果、か?まぁ、仲が良いの良い事だ)
「ご主人様!」
「ん?」
「たすけてニャ~!」
「えっ!?」
シャルルがピョーンと煉紅郎の胸元に跳び付こうとするが空中で煉紅郎にキャッチされ横に置かれるとシャルルの後を追っていたラシュナートが煉紅郎に突っ込んできた。ドサッという音を立ててベッドの上で煉紅郎に胸元に圧し掛かるように倒れこんだラシュナートの姿を見てシャルルが「フッー!」っと威嚇音を立てると次の瞬間にはラシュナートを引き剥がしてあわよくば自分が擦り寄ろうとするので、煉紅郎は慌てるラシュナートをよそにシャルルにアイアンクローを見舞う。
「ふぎニャー!痛いニャー!何でニャー!」
「また匂いを嗅ぐ気だろう?」
「違うニャ!」
「じゃあ何だ?」
「ご主人様のお胸はシャルの場所ニャ!ご主人様にいい人が見つかってもそこはシャルの場所なギニャー!」
煉紅郎は無言で緩めていたアイアンクローに力を込め猫メイドの頭をしめた。
暫くはシャルルももがいていたが、観念したのか謝ってきたのでアイアンクローを緩めるとスルリと煉紅郎の手を離れ頭を撫でつつ煉紅郎の隣に落ち着いた。
「お前なぁ・・・」
「ニャ~」
「ふぅー悪いなラスト。こんなメイドで」
「いや、正直、君の彼女への処罰でそんな気分はどっかへ行ったよ」
「そうか、じゃあ・・・少しまじめな話を」
「あぁ」
「はいニャ!」
「ラストも城での事は前に話して知ってると思うが明日から俺自身の訓練を始めるがそれに妹姫が参加する。それに、ラスト」
「ん?」
「君に参加して欲しい」
「何で?」
「んーん。簡単に言うと日銭を稼ぐ為だ」
「詳しく言うと?」
「・・・今まで城の中で何不自由なく過してきてすぐさま俺と同じ事が出来るわけが無い。それに俺が付き合っていると俺の訓練にならん。だから彼女の教官兼見張りとして参加して欲しい。それと俺はこれから午前なり午後なり日銭を稼ぐ為にギルドの仕事を請けるから尚の事、君には参加して欲しいんだ」
「なるほど・・・」
「それと・・・」
「はいニャー---!!」
「うわっ、何だよシャルル」
「はい!シャルも強くなりたいですニャ!」
「突然なんだよ?」
「シャルもご主人様やラシュさんみたいに強くなりたいんですニャ!そしてご主人様をお守りするんですニャ!」
「んん~ん・・・」
「良いんじゃないか?訓練なら俺が見てやるからさ。まぁ、少しは使える様になるとは思うんだが・・・」
「ん~・・・・・・」
「ご主人様・・・」
「まぁ、良いんじゃないか?その代わり、確りとメイドの仕事もするって誓えるか?」
「はいニャ!ご主人様!大好きニャー!」
「はいはい」
感激の余り煉紅郎に跳び付こうとするシャルルを軽くあしらいながら煉紅郎はラシュナートの方に顔を向ける。
「なっ何だ?」
「返事を聞いてなかったが、引き受けて貰えると思っていいのかな?」
「あぁ、猫にあんな事言われたんじゃ引き受けるしかないだろう」
「ありがとう。感謝ついでに明日、城の演習場に行く前に大山豚を受け取ってそのまま演習場に来てくれ」
「はぁ?なんで俺が?」
「豚さんニャ!?」
大山豚の話になり、興奮したのか尻尾をピーンと伸ばして煉紅郎とラシュナートの間に入ろうとするので、煉紅郎がガシッとシャルルを掴むを自分の膝上に置いた。話にも参加したかったが、滅多に来ないチャンスに思う存分主人の膝の上を楽しむ事にしたシャルルであった。
「ふニャ~」
「俺は城に行かなきゃならない、シャルルだと不安だ、残るは・・・」
「・・・俺か・・・」
「そういう事、頼むね」
「はぁ~、解ったよ。パウルマンのとこで豚受け取って・・・城に来いって言ったか?」
「あぁ、言ったよ」
「なんで?」
「どうやら宿の主人のカポファさんの話によると大山豚は凶暴で危険だが食肉としては超が付くほどの高級食材なんだそうだ。なので、目の届く場所に置いて置けば盗まれる心配も無いし、その豚の所有者として多少は顔が知れるだろう?」
「顔が知れた方が良いのか?」
「まぁ、ギルドで仕事をして行くには丁度良いかも知れないからな。(どうなるかは知らんが・・・)あぁ、それとシャルル」
「はいニャ~♪」
「お前が買えって言ったんだから豚の名前をお前が付けろ」
「はいニャ!んん・・・ニャ!?ポンキーニャ!ポンキーが良いニャ!?」
「何でポンキー?他にも有ったんじゃないのか?」
「まぁ、良いんじゃないか?我等がメイド、シャルル嬢の決定だ。良いじゃないか」
「ご主人様~」
煉紅郎は擦り寄るシャルルの頭をよしよしと撫でながらラシュナートに一言「明日の事、頼む」と言うと窓の外の景色を眺めた。
外の景色は夜の帳が下りて行き徐々に闇が世界を覆い始め、酒場に灯りが点り出し、少し賑わいの声をを宿『豚幌亭』に伝えた。
次話は来週火曜日正午頃になります。
誤字脱字とう御座いましたら御一報ください。




