特別SS シルフィエの日記
○月○日
族長に呼ばれた。
あの人間たちを、東の国ヤーナマトまで案内することになった。
ヤーナマトまで連れていき、用が済めばダークエルフの村へ戻ってくる。
それが私の役目だ。
私は案内人。
それ以上でも、それ以下でもない。
フミタロウが小さな声で、
「めんどくさいの来たなぁー」
と言った。
聞こえている。
---
### 本日のフミタロウ
左腕が臭い。
金属と機械油の臭いがする。
ドワーフ臭い。
近くにいるとすぐわかる。
本人に言ったら布で一生懸命拭いていた。
少しだけましになった。
最初からやればいいのに。
---
### ○月○日
ミルキーと話した。
セリアのことを聞かれた。
あの子は、
「妹さんのこと、大好きなんですね」
と言った。
悪いか、と答えた。
すると、
「素敵だと思います」
と言われた。
変な子だ。
普通なら、甘やかしすぎだと馬鹿にされることが多い。
でも笑わなかった。
……悪い気はしなかった。
---
### ○月○日
旅の途中、フミタロウが魚を食べたいと言い出した。
仕方がないので場所を教えた。
サンキチが十匹以上釣った。
意味がわからない。
フミタロウは、
「さすが、うちの漁協」
と言った。
サンキチに意味を聞いたら、
「漁業協同組合です」
と答えた。
もっと意味がわからなくなった。
魚はおいしかった。
---
### 本日のフミタロウ
私が甘いフルーツを好きなのを知って、
余計なことを言った。
腹が立った。
向こうも何か腹を立てた。
クリフトスに止められた。
あとで、お互い謝った。
意外と普通に謝る。
もっと面倒な男だと思っていた。
面倒なのは間違いない。
---
### ○月○日
いつの間にか、ミルキーと一緒に物を選ぶことが増えた。
薬。
旅の道具。
装備。
あの子は何かあると、すぐ私に聞いてくる。
自分で決めればいいと思う。
でも聞かれると答えてしまう。
最近は、それが普通になってきた。
---
### ○月○日
フミタロウが安い雨よけの布を買おうとしていた。
やめておけと言った。
ああいうものは、安ければいいというものではない。
あとで困るのは自分だ。
私は案内人なので、当然の助言だ。
別にフミタロウの心配をしたわけではない。
---
### 本日のフミタロウ
言うことを聞いた。
珍しい。
---
### ○月○日
みんなでおそろいのマントを持つことになった。
私は、こういうのは少し苦手だ。
同じものを身につける必要なんてないと思う。
でも実際に全員で着てみると、
……悪くなかった。
ミルキーは嬉しそうだった。
サンキチも似合っていた。
クリフトスは何を着てもそれなりに見えるので腹が立つ。
フミタロウはフミタロウだった。
---
### 本日のフミタロウ
おそろいのマントを着ている。
私も着ている。
つまり私も、この集団の一員に見える。
少し納得がいかない。
---
### ○月○日
結婚式に出た。
旅の途中で結婚式に出るとは思っていなかった。
まして、あの人間たちと一緒に。
私はヤーナマトまでの案内人のはずなのに、
どうしてこんなところまで一緒にいるのだろう。
でも、
悪くなかった。
みんな楽しそうだった。
私もたぶん、楽しんでいたと思う。
---
### ○月○日
馬での移動が続く。
ミルキーは意外と上手い。
サンキチは馬に遊ばれている。
フミタロウは尻が痛いと言って、変な乗り方を始めた。
「そんな乗り方で一日乗れるわけない」
と言った。
当然のことを言っただけだ。
---
### 本日のフミタロウ
尻が痛いらしい。
知らない。
---
### ○月○日
湖の街で、生の魚を出された。
私は無理だと思った。
クリフトスも同じだった。
ところがフミタロウ、サンキチ、ミルキーは普通に食べている。
ミルキーまで。
少し裏切られた気分になった。
なぜだろう。
---
### ○月○日
ミルキーが髪飾りを選んでくれた。
似合うと言われた。
鏡を見る。
悪くない。
もう少し角度を変えて見る。
やっぱり悪くない。
フミタロウが、
「女の子やん」
と言った。
睨んだ。
すると、
「何も言ってないのになんで怒られんねん」
と言った。
言っていた。
ちゃんと聞いた。
---
### 本日のフミタロウ
うるさい。
---
### ○月○日
最近、少しおかしい。
私はこいつらをヤーナマトまで案内して、
そのあと村へ帰る。
それだけだったはずだ。
なのに、
一緒に食事をして、
一緒に戦って、
一緒に馬に乗って、
結婚式に出て、
同じマントまで着ている。
ただの案内人とは、普通ここまでやるものなのだろうか。
……考えないことにする。
---
### ○月○日
竜に乗った。
正確には、
**竜の背中に乗って、海を泳いで渡った。**
もう一度書く。
竜に乗って海を渡った。
ありえない。
私が村でこんな話を聞かされたら、
まず嘘だと思う。
その背中に今、自分が乗っている。
海しか見えない。
陸がどんどん遠くなる。
これで本当にヤーナマトまで行くらしい。
私は案内人だ。
道を案内する側だったはずだ。
ここまで来ると、
もう誰が誰を案内しているのかわからない。
---
### 本日のフミタロウ
竜の背中でも普通に喋っている。
この男は何をしても慣れるのが早い。
少し腹が立つ。
---
### ○月○日
ヤーナマトに着いた。
目的地だ。
長かった。
本来なら、
「無事に連れてこられた」
と安心するところなのだと思う。
ところが、あまり終わった感じがしない。
これからこの国で何をするのか。
何が起きるのか。
普通に気になっている。
案内人の仕事には関係ない。
……たぶん。
---
### ○月○日
フミタロウに、
「お前、もう普通に仲間やろ」
と言われた。
違う、と答えようとした。
私は案内人だ。
ヤーナマトまで連れてきて、
最後は村へ帰る。
それが仕事だ。
だから違う。
そう言おうとした。
でも、
少し考えた。
結局、
「うるさい」
とだけ言った。
---
### 本日のフミタロウ
たまに、
反論しづらいことを言う。
腹が立つ。
---
### ○月○日
セリア。
帰ったら、話すことがたくさんある。
人間の国のこと。
エルフの国のこと。
騎馬王国のこと。
結婚式のこと。
おそろいのマントのこと。
竜に乗って海を渡ったこと。
きっと全部、
一度には信じてもらえない。
それから、
一緒に旅をした人たちの話もする。
真面目で、変なところで大人びているサンキチ。
顔が良くて、女に人気のあるクリフトス。
優しくて、距離の近いミルキー。
そして――
機械油臭くて、
うるさくて、
余計なことばかり言う、
フミタロウ。
……
気づいた。
この日記、
フミタロウのことを書きすぎている。
---
### 本日のフミタロウ
今日もいる。
というか、
**「本日のフミタロウ」なんて毎回書いている私の方が、おかしいのではないだろうか。**
……
やめよう。
明日からは書かない。
---
### 翌日
**本日のフミタロウ**
朝からうるさい。
---
**シルフィエの日記 終*




