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漏洩の加護  作者: なつみかん
第十六章 ヤーナマト
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特別SS シルフィエの日記

○月○日


族長に呼ばれた。


あの人間たちを、東の国ヤーナマトまで案内することになった。


ヤーナマトまで連れていき、用が済めばダークエルフの村へ戻ってくる。


それが私の役目だ。


私は案内人。


それ以上でも、それ以下でもない。


フミタロウが小さな声で、


「めんどくさいの来たなぁー」


と言った。


聞こえている。


---


### 本日のフミタロウ


左腕が臭い。


金属と機械油の臭いがする。


ドワーフ臭い。


近くにいるとすぐわかる。


本人に言ったら布で一生懸命拭いていた。


少しだけましになった。


最初からやればいいのに。


---


### ○月○日


ミルキーと話した。


セリアのことを聞かれた。


あの子は、


「妹さんのこと、大好きなんですね」


と言った。


悪いか、と答えた。


すると、


「素敵だと思います」


と言われた。


変な子だ。


普通なら、甘やかしすぎだと馬鹿にされることが多い。


でも笑わなかった。


……悪い気はしなかった。


---


### ○月○日


旅の途中、フミタロウが魚を食べたいと言い出した。


仕方がないので場所を教えた。


サンキチが十匹以上釣った。


意味がわからない。


フミタロウは、


「さすが、うちの漁協」


と言った。


サンキチに意味を聞いたら、


「漁業協同組合です」


と答えた。


もっと意味がわからなくなった。


魚はおいしかった。


---


### 本日のフミタロウ


私が甘いフルーツを好きなのを知って、


余計なことを言った。


腹が立った。


向こうも何か腹を立てた。


クリフトスに止められた。


あとで、お互い謝った。


意外と普通に謝る。


もっと面倒な男だと思っていた。


面倒なのは間違いない。


---


### ○月○日


いつの間にか、ミルキーと一緒に物を選ぶことが増えた。


薬。


旅の道具。


装備。


あの子は何かあると、すぐ私に聞いてくる。


自分で決めればいいと思う。


でも聞かれると答えてしまう。


最近は、それが普通になってきた。


---


### ○月○日


フミタロウが安い雨よけの布を買おうとしていた。


やめておけと言った。


ああいうものは、安ければいいというものではない。


あとで困るのは自分だ。


私は案内人なので、当然の助言だ。


別にフミタロウの心配をしたわけではない。


---


### 本日のフミタロウ


言うことを聞いた。


珍しい。


---


### ○月○日


みんなでおそろいのマントを持つことになった。


私は、こういうのは少し苦手だ。


同じものを身につける必要なんてないと思う。


でも実際に全員で着てみると、


……悪くなかった。


ミルキーは嬉しそうだった。


サンキチも似合っていた。


クリフトスは何を着てもそれなりに見えるので腹が立つ。


フミタロウはフミタロウだった。


---


### 本日のフミタロウ


おそろいのマントを着ている。


私も着ている。


つまり私も、この集団の一員に見える。


少し納得がいかない。


---


### ○月○日


結婚式に出た。


旅の途中で結婚式に出るとは思っていなかった。


まして、あの人間たちと一緒に。


私はヤーナマトまでの案内人のはずなのに、


どうしてこんなところまで一緒にいるのだろう。


でも、


悪くなかった。


みんな楽しそうだった。


私もたぶん、楽しんでいたと思う。


---


### ○月○日


馬での移動が続く。


ミルキーは意外と上手い。


サンキチは馬に遊ばれている。


フミタロウは尻が痛いと言って、変な乗り方を始めた。


「そんな乗り方で一日乗れるわけない」


と言った。


当然のことを言っただけだ。


---


### 本日のフミタロウ


尻が痛いらしい。


知らない。


---


### ○月○日


湖の街で、生の魚を出された。


私は無理だと思った。


クリフトスも同じだった。


ところがフミタロウ、サンキチ、ミルキーは普通に食べている。


ミルキーまで。


少し裏切られた気分になった。


なぜだろう。


---


### ○月○日


ミルキーが髪飾りを選んでくれた。


似合うと言われた。


鏡を見る。


悪くない。


もう少し角度を変えて見る。


やっぱり悪くない。


フミタロウが、


「女の子やん」


と言った。


睨んだ。


すると、


「何も言ってないのになんで怒られんねん」


と言った。


言っていた。


ちゃんと聞いた。


---


### 本日のフミタロウ


うるさい。


---


### ○月○日


最近、少しおかしい。


私はこいつらをヤーナマトまで案内して、


そのあと村へ帰る。


それだけだったはずだ。


なのに、


一緒に食事をして、


一緒に戦って、


一緒に馬に乗って、


結婚式に出て、


同じマントまで着ている。


ただの案内人とは、普通ここまでやるものなのだろうか。


……考えないことにする。


---


### ○月○日


竜に乗った。


正確には、


**竜の背中に乗って、海を泳いで渡った。**


もう一度書く。


竜に乗って海を渡った。


ありえない。


私が村でこんな話を聞かされたら、


まず嘘だと思う。


その背中に今、自分が乗っている。


海しか見えない。


陸がどんどん遠くなる。


これで本当にヤーナマトまで行くらしい。


私は案内人だ。


道を案内する側だったはずだ。


ここまで来ると、


もう誰が誰を案内しているのかわからない。


---


### 本日のフミタロウ


竜の背中でも普通に喋っている。


この男は何をしても慣れるのが早い。


少し腹が立つ。


---


### ○月○日


ヤーナマトに着いた。


目的地だ。


長かった。


本来なら、


「無事に連れてこられた」


と安心するところなのだと思う。


ところが、あまり終わった感じがしない。


これからこの国で何をするのか。


何が起きるのか。


普通に気になっている。


案内人の仕事には関係ない。


……たぶん。


---


### ○月○日


フミタロウに、


「お前、もう普通に仲間やろ」


と言われた。


違う、と答えようとした。


私は案内人だ。


ヤーナマトまで連れてきて、


最後は村へ帰る。


それが仕事だ。


だから違う。


そう言おうとした。


でも、


少し考えた。


結局、


「うるさい」


とだけ言った。


---


### 本日のフミタロウ


たまに、


反論しづらいことを言う。


腹が立つ。


---


### ○月○日


セリア。


帰ったら、話すことがたくさんある。


人間の国のこと。


エルフの国のこと。


騎馬王国のこと。


結婚式のこと。


おそろいのマントのこと。


竜に乗って海を渡ったこと。


きっと全部、


一度には信じてもらえない。


それから、


一緒に旅をした人たちの話もする。


真面目で、変なところで大人びているサンキチ。


顔が良くて、女に人気のあるクリフトス。


優しくて、距離の近いミルキー。


そして――


機械油臭くて、


うるさくて、


余計なことばかり言う、


フミタロウ。


……


気づいた。


この日記、


フミタロウのことを書きすぎている。


---


### 本日のフミタロウ


今日もいる。


というか、


**「本日のフミタロウ」なんて毎回書いている私の方が、おかしいのではないだろうか。**


……


やめよう。


明日からは書かない。


---


### 翌日


**本日のフミタロウ**


朝からうるさい。


---


**シルフィエの日記 終*


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