第六話 おっさん、魚をどうするか考える
商隊の護衛は、拍子抜けするほど平穏に終わろうとしていた。
ゴブリンに襲われたあの日以来、危険らしい危険には出会っていない。ミルムへ近づくにつれて街道を行き交う旅人や荷馬車の数も増え、道沿いには小さな宿場や休憩所まで見られるようになっていた。
「この辺りまで来れば、もう安心です」
御者台からナミアが振り返る。
「東の諸国へつながる街道に入りましたから。あと少し進めば、ミルムの町が見えてきますよ」
「なるほどな」
フミタロウは荷台の縁から身を乗り出し、前方を眺めた。
すれ違う馬車の数は、アーリアンを出た頃とは比べものにならない。大きな荷物を背負った商人や、杖を手にした旅人の姿も多かった。
「ところで、ミルムってどんな町なんですか?」
ミルキーが尋ねた。
「大きいんですか?」
「町自体は、それほど大きくありません」
ナミアは答えた。
「ただ、東西を結ぶ街道沿いにありますから、商人や旅人は多いですね。それに、旅の安全祈願で有名な聖堂があります」
「旅人と商人が多い……」
フミタロウは、荷台の隅に置かれた大きな樽へ目を向けた。
中には大量の魚が塩漬けにされている。
サンキチが魚釣りの加護を試した結果、川の魚を根こそぎにしかねない勢いで釣り上げてしまったものだ。とてもその場で食べ切れる量ではなかったため、ナミアたちに教えてもらい、とりあえず塩漬けにしてここまで運んできた。
「そうや」
フミタロウは顔を上げた。
「旅人や商人が多いんなら、この魚も売れるんちゃう?」
ミルキーも樽を覗き込み、少し考える。
「保存食にできれば、買ってくださる方がいるかもしれませんね」
「保存食か」
「干物にするのはどうでしょう?」
「それや!」
フミタロウは思わず指を鳴らした。
「日持ちする、持ち運びやすい、栄養もある。旅の食料にはちょうどええやん」
サンキチも身を乗り出した。
「魚の干物に白いご飯と味噌汁があれば最高ですね」
「分かってるな、サンキチくん」
フミタロウは深く頷いた。
「この世界に米と味噌があるか知らんけど、日本人としては譲れんところや」
三人はしばらく、焼いた干物と白い飯について熱く語った。
脂の乗った魚を炙って、熱い飯に乗せる。そこに味噌汁と漬物でもあれば完璧だ。
完全に話が異世界から離れ始めた頃、ミルキーが首を傾げた。
「ところで、干物ってどうやって作るんですか?」
三人の会話が止まった。
フミタロウはサンキチを見る。
サンキチもこちらを見る。
最後に二人でミルキーを見た。
「……知らん」
「僕も知りません」
「私もです」
企画は、始まって一分ほどで行き詰まった。
「誰も作り方知らんのかい」
フミタロウは樽へ背中を預けた。
干物なら何度も食べたことがある。味も知っているし、焼き方もなんとなく分かる。
しかし、自分で作った経験など一度もない。
「魚を開いて塩振って、干すんじゃないですか?」
サンキチが言う。
「たぶんそうやと思うけど、塩の量とか干す時間とか分からんやろ」
「適当にやったら腐りそうですね」
「怖いこと言うな」
せっかく異世界へ召喚されたのに、食中毒で死ぬなどあまりにも情けない。
困った末、フミタロウはナミアへ相談した。
「ナミアさん、魚の干物って知ってます?」
「干物、ですか?」
ナミアは少し考えた。
「その名前は聞いたことがありませんね」
「やっぱり無理か」
「でも、保存食にするのでしたら、燻製にしてみてはどうでしょう?」
「燻製?」
それは思いつかなかった。
煙で燻して水分を抜き、保存しやすくする。詳しい仕組みまでは知らないが、フミタロウも酒のつまみとして何度か食べたことがある。
「魚でもできるん?」
「旅人向けの保存食として、肉を燻製にすることはよくあります。魚でも同じようにできると思いますよ」
ナミアは樽の中を確認しながら答えた。
「よし、それにしよう」
フミタロウの決断は早かった。
「ミルム着いたら、魚の燻製作りや」
「私にもできることがあれば、お手伝いします」
「お願いします、ナミア先生」
「先生だなんて」
ナミアは楽しそうに笑った。
こうして三人は、魔王討伐より先に、大量の魚をどう加工するかという問題へ取り組むことになった。
*
ミルムの町は、大きな聖堂を中心に広がっていた。
町へ近づくにつれて、石造りの建物が少しずつ姿を現す。中でも目を引くのは町の中央に建つ聖堂だった。高い塔と丸みを帯びた大きな屋根を持ち、フミタロウが元の世界で見たヨーロッパの教会とは少し違う、どこか異国の神殿を思わせる姿をしている。
その周囲には宿屋や食堂、商店、工房が集まり、旅装の者たちが絶えず行き交っていた。
「立派な建物ですね」
ミルキーが聖堂を見上げる。
「あれが、旅人に有名な聖堂ですか?」
「そうです」
ナミアが答えた。
「この町には、天使の笛にまつわる伝承があるんですよ」
「天使の笛?」
ミルキーが反応した。
荷馬車が町の門へ向かう間、ナミアはミルムに伝わる話を教えてくれた。
まだこの地に町すらなかった遥かな昔、一人の旅人がこの辺りを通りかかった。
旅人は道中で重い病に倒れたという。周囲には薬を求められる村もなければ、助けを求める相手もいない。体は高熱に侵され、とうとう男が死を覚悟した時、空から一人の天使が舞い降りた。
天使は倒れた旅人の傍らへ座り、一本の笛を取り出した。
そして、美しい音色を奏でた。
その音を聞いているうちに旅人の熱は下がり、苦しんでいた病も嘘のように癒えていったという。
やがて天使は、自らが使っていた笛を旅人へ差し出した。
「伝承では、その時に天使がこう言ったそうです」
ナミアが少し声を落とす。
「この笛は、大いなる魔を祓う力を持つ。聖なる力を持つ者が現れるその時まで、受け継ぎ、守り続けなさい――と」
命を救われた旅人はその言葉を守り、この地に小さな聖堂を建てた。
その後も訪れる病人や傷ついた旅人を助け続け、やがて人々から聖クラウドと呼ばれるようになった。
彼のもとには少しずつ人が集まり、聖堂の周囲には宿ができ、店ができ、いつしか一つの町になった。
それがミルムの始まりだという。
「天使から授けられた笛は、今も聖クラウドの子孫によって守られているそうです」
「本物が残ってるんですか?」
サンキチが驚いた。
「伝承が本当なら、ですが」
ナミアは笑った。
「それに、この町には笛を作る職人もたくさんいます。天使の笛を模した楽器を作ろうと、昔から多くの職人が集まってきたんです」
職人たちはギルドを作り、互いに腕を競い合っているという。
ミルムで作られる上質な笛は『天使の吐息』と呼ばれ、遠い国の音楽家にも知られる高級品らしい。
「へえ」
フミタロウは改めて聖堂を眺めた。
天使の奏でた音楽。
音楽の知識などほとんどないが、一度くらい聞いてみたいと思う。
「タイラーさんたちも、笛を売りに来たんですか?」
サンキチが尋ねる。
「笛そのものではありませんよ」
御者台のタイラーが振り返った。
「笛に使われる木材や金属部品を仕入れて、職人たちへ届けに来たんです」
「なるほどなあ」
荷馬車が町へ入る。
商人や旅人だけでなく、楽器を背負った者の姿も多かった。店先には大小さまざまな笛や弦楽器、太鼓などが並び、通りのあちこちから演奏する音が聞こえてくる。
「ここまで来れば、護衛の仕事も終わりですね」
ミルキーが言った。
タイラーは馬車を止め、ナミアや子供たちとともに荷台から降りた。
「無事にミルムまで来られました。本当にありがとうございました」
夫婦が揃って三人へ頭を下げる。
「いやいや」
フミタロウは照れくさそうに頭を掻いた。
「護衛言うても、最初のゴブリン以外なんも起きへんかったし。ほとんどタダで馬車に乗せてもろたようなもんやから」
「何も起きないことが、一番なんですよ」
タイラーは穏やかに笑った。
「報酬は、積み荷の取引が終わってからお渡しします。二、三日かかると思いますので、その間の宿はこちらで手配しておきます」
「そこまでしてくれるんですか」
「もちろんです」
ずいぶん気の利く男だった。
「取引、うまくいくといいですね」
ミルキーが言う。
「ありがとうございます。皆さんも、魚の燻製がうまくできるといいですね」
「そっちも頑張ります」
フミタロウたちは夫婦と握手を交わし、いったん別れることになった。
*
「げほっ、げほっ!」
フミタロウは目を押さえながら、煙の中から転がり出た。
「無理や。目ぇ開かん」
その隣では、サンキチも涙と鼻水でひどい顔になっている。
「煙が全部こっちに来るんですけど!」
「風向き読めよ、魔法使いやろ!」
「火の魔法使いです!」
二人が魚を燻しているのは、ミルムの町外れにある空き地だった。
ナミアに教えてもらいながら木材で簡単な枠を作り、その上へ毛皮を被せて小さな燻製小屋を作った。中には開いた魚を何匹も吊るし、その下で香りのよい木をくすぶらせて煙を送っている。
魚をさばき、内臓を取って、塩と香草で味をつける作業はナミアとミルキーが担当した。
フミタロウとサンキチは火と煙の管理担当である。
言葉だけなら簡単そうだった。
だが実際にやってみると、煙が少なければ魚に香りがつかず、多くすれば目と喉がやられる。
「大丈夫ですか、二人とも?」
少し離れた場所で魚を並べていたミルキーが声をかけた。
「もう駄目かも」
フミタロウはそのまま地面へ仰向けに倒れた。
「ミルキーちゃん、膝枕して」
「目が痛いのと全然関係ないじゃないですか!」
「人生最後のお願いや」
「燻製作りぐらいで死なないでくださいよ、まったく」
サンキチが目をこすりながら、呆れたように言った。
「軽い冗談やって」
ミルキーとナミアは顔を見合わせ、困ったように笑っていた。
「しかし、燻製って結構大変なんやな」
フミタロウは体を起こし、煙を吐き続ける小さな燻製小屋を見る。
「魚釣るより、こっちの方が時間かかってるやん」
「下ごしらえだけで一日半かかりましたからね」
サンキチが言った。
魚を開き、内臓を取り、洗う。
塩と香草へ漬け込み、水分を抜く。そのあと風に当てて乾かし、ようやく今日になって燻す段階まで来た。
ここからさらに半日ほどかかる予定だった。
「魔王もびっくりやろな」
「何がです?」
「自分倒すために召喚された連中が、町の外で二日がかりで魚燻してんねんで」
サンキチは燻製小屋を見る。
「たしかに、想像はしていないでしょうね」
そんな話をしていると、街道の方から一人の青年が歩いてきた。
旅装の上から質のよいマントを羽織り、背中には細長い楽器入れを背負っている。腰にも、小さな笛を入れるためらしいケースが下がっていた。
「何を作っていらっしゃるんですか?」
青年は、煙を上げる小さな小屋を興味深そうに眺めた。
「魚の燻製です」
サンキチが答える。
「まあ、趣味みたいなもんですけど」
フミタロウも肩をすくめた。
「魚の燻製ですか」
青年は香りを確かめるように、わずかに鼻を動かした。
「この辺りには大きな川がありませんから、魚は珍しいんですよ」
「初めて作ってるから、味は保証できへんけど」
「それはそれで楽しみではありませんか」
青年は穏やかに笑った。
「申し遅れました。私はクリフトス。旅の楽士をしています」
胸へ手を当て、丁寧に一礼する。
「完成したら、少し譲っていただけませんか?」
「別にええけど、ほんま味分からんよ?」
「その点は、あまり心配していません」
クリフトスは燻製小屋から漂う煙へ顔を向けた。
「先ほどから、とてもよい香りがしていますから」
「夕方くらいにはできると思うで」
「では、それまで町で笛を見てきます」
クリフトスはミルムの聖堂がある方角へ視線を向けた。
「よい笛が売りに出されていると聞きまして」
「ほな、また後で」
「ええ。楽しみにしています」
軽く頭を下げると、クリフトスは町へ向かって歩いていった。
*
魚の燻製は、思っていた以上の出来になった。
表面はきれいな飴色に変わり、身には煙と香草の香りが染み込んでいる。
ナミアが火で軽く炙り、一口大に切り分けた。
「では……」
最初に手を伸ばしたのはミルキーだった。
一切れ口に入れ、しばらく噛む。
「おいしい!」
ぱっと表情が明るくなった。
「こんなおいしい魚、初めて食べました」
「ほんまに?」
フミタロウも一切れ口へ入れる。
ほどよい塩気の中に、魚の旨味がしっかり残っている。香草の香りと煙の風味が重なり、噛むほどに味が出てきた。
「うまいな、これ」
そして非常に酒が欲しくなる味だった。
「よかったです」
ナミアもほっとしたように息をついた。
「失敗したらどうしようかと思っていましたけど、これなら十分売れると思います」
「大成功やな」
タイラーや子供たちにも好評だった。
子供たちは炙った魚を少しずつちぎりながら、嬉しそうに食べている。
そうして味見を続けているところへ、約束どおりクリフトスが戻ってきた。
「完成したようですね」
「ちょうどええところや。食べてみて」
フミタロウは炙った燻製を一切れ差し出した。
「いただきます」
クリフトスはそれを口へ運び、ゆっくり噛んだ。
すぐに目を見開く。
「これは……」
「どう?」
「うまいですね」
さらに一口。
今度は確かめるように慎重に味わう。
「驚きました。煙の香りがしっかり付いているのに、魚そのものの味を邪魔していない」
「ナミアさんの味付けがええんです」
「これがミルムで売られていたら、旅人は放っておかないでしょう」
クリフトスは約束どおり必要な分を買い取り、その場で代金を支払った。
さらに鞄の中を探り、小さな酒瓶を取り出す。
「よいものを譲っていただいたお礼というわけではありませんが」
酒瓶を軽く掲げた。
「一杯いかがです?」
「気が利くなあ」
フミタロウの返事は早かった。
「飲もう飲もう」
*
日が沈む頃には、町の外れに小さな焚き火ができていた。
焼いた燻製を囲みながら、フミタロウとクリフトスが酒を飲む。ナミアも少しだけ付き合い、ミルキーとサンキチは酒を断って香草茶を飲んでいた。
焚き火の向こうでは、ミルムの町に少しずつ灯りがともっている。
昼間まで旅人で騒がしかった街道も静かになり、時折、遠くから荷馬車の鈴が聞こえる程度だった。
「最高やな」
フミタロウは酒を一口飲んだ。
異世界へ召喚され、魔王を倒せと言われた。
それなのに今やっていることは、魚の燻製をつまみに、知り合ったばかりの旅の楽士と酒を飲むことだった。
何をしにこの世界へ来たのか、少し分からなくなる。
それでも、悪い時間ではなかった。
「せっかくですから、一曲いかがですか」
クリフトスが腰のケースから横笛を取り出した。
「お、ええね」
クリフトスは姿勢を整え、静かに笛へ息を吹き込んだ。
澄んだ音が、夜の空気へ伸びていく。
知らない曲だった。派手な旋律ではないが、一日の疲れが少しずつほどけていくような穏やかな曲だった。
焚き火の炎が揺れる。
子供たちもいつの間にか話すのをやめ、笛の音へ耳を傾けている。
なるほど。
旅の楽士を名乗るだけのことはある。
演奏が終わると、誰からともなく拍手が起きた。
「すごいですね」
ミルキーは特に目を輝かせていた。
しばらくクリフトスの笛を見つめていたが、やがて遠慮がちに声をかける。
「クリフトスさん」
「はい?」
「あの……少し、その笛をお借りしてもいいですか?」
クリフトスは一瞬驚いたものの、すぐに笑顔を見せた。
「もちろんです」
笛をミルキーへ渡し、簡単に指の位置や息の入れ方を説明する。
「ミルキーさん、笛を吹けるんですか?」
サンキチが尋ねた。
「フルートなら、小さい頃から習っていました」
「へえ」
フミタロウは感心した。
話し方や雰囲気から育ちのよい子なのだろうとは思っていたが、楽器まで習っていたらしい。
ミルキーは何度か試しに音を出した。
この世界の笛は、彼女が知っているフルートとは少し形が違う。それでも指の位置と音の関係を一つずつ確かめるうちに、驚くほど早く扱い方を覚えていった。
やがて姿勢を整え、笛を口元へ運ぶ。
最初の一音が鳴った。
フミタロウは何気なく酒を口へ運びながら聞いていた。
曲そのものには聞き覚えがある。名前までは出てこないが、元の世界のクラシック音楽だということは分かった。
ミルキーは上手かった。
単に音を外さないというだけではない。強弱も滑らかで、旋律に自然な感情が乗っている。
だが、少し聞いているうちにフミタロウは妙な感覚を覚えた。
同じ笛だったはずだ。
先ほどまでクリフトスが吹いていたものと、何も変わっていない。
それなのにミルキーが吹き始めてから、周囲の空気までわずかに違って感じられる。
風が止んだわけでもない。
急に暖かくなったわけでもない。
うまく説明できない。
ただ、音が耳から入るだけではなく、そのまま体の中へ染み込んでくるような感覚があった。
クリフトスだけは、もっとはっきりと何かに気づいたらしい。
先ほどまで浮かべていた穏やかな笑みが消え、演奏するミルキーを真剣な表情で見つめている。
やがて懐へ手を入れ、小さな透明の宝石を取り出した。
それを、ミルキーの方へかざす。
「ん?」
フミタロウは酒瓶を持ったまま目を細めた。
宝石の内部に、小さな光が灯っている。
最初は見間違いかと思うほど弱かった。
しかしミルキーの演奏が続くにつれ、光は少しずつ強くなっていく。
「何や、あれ」
サンキチも気づいた。
「光ってますね」
淡い光は、笛の音へ合わせるように脈打っていた。
やがて曲が終わる。
最後の音が夜の中へ消え、ミルキーは静かに笛を下ろした。
「これは……?」
自分の前で光っている宝石に気づき、不思議そうな顔をする。
クリフトスはしばらく宝石を確認していた。
「驚きました」
やがて静かに口を開く。
「あなたの演奏には、魔力が含まれています」
「魔力?」
「ええ」
クリフトスは宝石をしまった。
「ただ上手に演奏しているだけではありません。音そのものが魔力を帯びています。それが人や、周囲に存在する魔力へ働きかけている」
ミルキーは、自分が持っている笛を見つめた。
「私、何もしてません」
「だからこそ驚いているんです」
クリフトスの表情には、先ほどまでの気さくな旅人とは違う、楽士としての強い関心が浮かんでいた。
「おそらく、あなた自身も今まで気づいていなかったのでしょう」
音感の加護。
判定された時には、音楽が得意になる程度のものだと思っていた。
だが、どうやらそれだけではないらしい。
「皆さん」
クリフトスは三人を見回した。
「明日、私と一緒にミルムの聖堂へ来ていただけませんか?」
「聖堂へ?」
「はい」
そしてミルキーへ視線を戻した。
「そこなら、あなたの力について、もっと詳しく調べられると思います」
フミタロウもミルキーを見る。
当の本人が、一番戸惑っていた。
戦力外と判断された三人。
最初に役立つところを見せたのは、サンキチの魚釣りの加護だった。
そして今度は、ミルキーの音感にも、判定された名前だけでは分からなかった力があるらしい。
となると、残る一人は。
フミタロウは自分の手を見る。
漏洩の加護。
こちらは相変わらず、何が漏れるのかすら分からない。
「……まあ、ええか」
フミタロウは酒を一口飲んだ。
今日は魚もうまかった。
今すぐ考えたところで、答えが出るわけでもない。
焚き火は静かに燃え続け、その向こうにはミルムの町の灯りが揺れていた。
魚をどうするか考えるところから始まった一日は、思いがけず、ミルキーの新しい力へつながることになった




