第五十三話 焼かれた証拠
第五十三話 焼かれた証拠
カザンパースへ続く街道を進むにつれて、人の往来は目に見えて増えていった。
遠くには大きな街並みが見え、その手前を何台もの荷車や商隊が行き交っている。
「カザンパースってどんなとこなんでしょうね?」
サンキチが前方を眺めながら尋ねる。
「私も初めてです」
クリフトスが答えた。
「交易の街だとは聞いたことがありますが」
街へ近づくほど、旅人や商人の姿も増えていく。荷車の車輪が土を鳴らし、行商人たちの声が飛び交っていた。
シルフィエは早くも少しうんざりした顔をしている。
「騒々しい街だ。あまり好きじゃない」
トルムが笑った。
「良くも悪くも商人の街だからな。たしかに騒がしい」
少し間を置いて続ける。
「だが、いいところもある」
「いいところ?」
「風呂があるんだ」
「お風呂!」
ミルキーが即座に反応した。
「あるんですか?」
「ああ。旅の疲れを癒すために作られたんだが、それ自体が、もはや名所になってる」
「行きたいです!!」
「僕も行きたいです!」
ミルキーとサンキチがほぼ同時に声を上げる。
シルフィエは真顔だった。
「いや、調査は?」
「あ」
二人の声が重なった。
*
カザンパースへ入った一行は、まず市場を回った。
武器、防具、保存食、馬具。
軍勢が動けば大量に必要になる品を扱う店を中心に、トルムの知り合いや行商人から話を聞いていく。
「かなり上の方で、何か動きがあったんじゃないか?」
ある商人はそう言った。
「そんな話は前から出てたな」
別の商人も似たようなことを話す。
それも、リュナの毒殺未遂事件が起こる前からだった。
店を離れたところで、サンキチが声を潜める。
「これ、読みどおりじゃないですか?」
「ですが、証拠がありません」
クリフトスは慎重だった。
「どうします?」
サンキチが尋ねると、トルムは少し考え込んだ。
「……商会長に相談してみるか」
*
カザンパースの一角に、ノーム商工会という組織があった。
ノームの商人や職人たちが集まり、互いの商売を助けたり情報を交換したりするための場所である。
「聞いてくれそうですか?」
サンキチが尋ねる。
「同じ村の出身で昔から知ってるからな」
トルムはうなずいた。
「信用できる人だ」
商工会へ入ると、トルムはそのまま商会長の執務室へ通された。
「おお! トルム、久しぶりだな」
「お久しぶりです」
「親父さんは元気にしてるか?」
「はい、元気すぎて困るぐらいです」
トルムは苦笑した。
「質の良い革を持って来いとうるさいです」
商会長が笑う。
「ははは、相変わらずだな。革職人としては超一流で、材料には昔からうるさいからな」
「良いもの出来たら、またお持ちします」
「それはありがたい。よろしく頼む」
昔からの付き合いらしい気安いやり取りを終えてから、トルムは本題へ入った。
*
事情を聞き終えた商会長は、腕を組んだ。
「なるほどな。ここ最近の大商会の動きはおかしいと、うちでも話題になっていたんだが……」
表情が少し険しくなる。
「妙な動きをしてるやつがいそうだな」
「証明する方法が何かないでしょうか?」
サンキチが聞く。
「仲間を助けるのには証拠が必要なんです」
「……噂を流してみるか?」
「噂?」
ミルキーが首を傾げた。
商会長は机に肘をついた。
「『自由都市派の王女毒殺未遂事件の犯人が判明したらしい』」
一同が黙って聞く。
「『内部からの告発で、すでに二大勢力は真相究明に動き出しているらしい』とな」
トルムが意図に気づいた。
「……動き始める者が出るかもしれない?」
「そういうことだ」
*
噂は商工会の人間を通じて流されることになった。
あとは、誰かが動くかどうかを待つしかない。
そして待っている間、一行はカザンパース名物の大浴場へ向かった。
巨大な石造りの浴場だった。
内部にはいくつもの浴槽が設けられ、旅人や商人たちが湯につかっている。
「湯を沸かしてるのは蓄熱式の魔石だ」
トルムが設備を見ながら説明する。
「温度や蒸気を調整してるのは、ドワーフ製の魔導制御式蒸気ボイラー」
「こんなところにもドワーフの技術が」
サンキチが感心する。
「ドワーフも、たまには役に立つ」
トルムが当然のように言う。
シルフィエが横を見る。
「たまには、なのか?」
*
「はぁ~~……」
男湯では、サンキチが湯船に深く沈み込んでいた。
「生き返る……」
「旅人に人気が出るのも分かるだろ?」
トルムも満足そうに湯につかっている。
「これは確かに良いですね」
クリフトスも珍しく力の抜けた表情をしていた。
サンキチは天井を見上げる。
「……フミタロウさん、こういうの、一番好きそうなのにな」
「そうですね」
クリフトスもうなずく。
「いたら、一番最後まで出ないでしょうね」
一方、女湯。
ミルキーも湯につかりながら同じ人物のことを思い出していた。
「フミタロウさん、かわいそうですね」
「自分だけ連れて行かれたからな」
シルフィエも湯につかりながら答えた。
*
「いやー、よかったですね」
風呂から出たサンキチは、すっかり満足していた。
「最高でした!」
ミルキーも上機嫌である。
シルフィエだけが呆れた顔をしていた。
「お前たち、調査に来たこと忘れてないか?」
「忘れてませんよ」
「ちょっと忘れそうでした」
そこへ商工会の職員が駆けてきた。
「トルムさん!」
「どうした?」
「商会長からです」
職員は息を整える。
「噂を流したあと、妙な動きをした商人がいるそうです」
「どこの商人だ?」
「大商会のひとつです」
職員の表情が険しくなる。
「急に帳簿と荷を別の倉庫へ移し始めたと」
クリフトスが静かに言った。
「……当たりかもしれませんね」
*
一行は商会長とともに、その倉庫を離れた場所から監視した。
倉庫の前にも裏手にも、複数の警備員が立っている。
「厳重に警備されていますね」
ミルキーが小声で言う。
「やましいものがあるように見えますけど、どうなんでしょう?」
サンキチが尋ねると、商会長はすぐには決めつけなかった。
「高額な商品があるなら、警備が厳しいこと自体は普通だ」
だが、しばらく観察してから続ける。
「だが、このあたりの倉庫に、こんな警備は普段見ないな」
目を細める。
「怪しいぞ」
やがて倉庫から、身なりの良い男が出てきた。
見るからに大商人だった。
「誰も近づけさせるな」
警備員へ何かを指示している。
「何か指示してますね」
サンキチが言う。
「ここからでは内容までは分かりません」
クリフトスが答えた。
商人はそのまま馬車へ乗り込み、倉庫を離れていく。
「あの人が黒幕なんですかね?」
ミルキーが尋ねる。
商会長は去っていく馬車を見つめた。
「……かなりの大物だな」
その時だった。
「……あれ?」
ミルキーが倉庫を見た。
黒い煙が上がっている。
商会長の顔色が変わった。
「あいつら、まさか……!」
「火を放ちやがった!」
トルムが叫ぶ。
「燃やしてしまう気だ!」
サンキチも立ち上がった。
*
一行は倉庫へ走った。
「止まれ!」
警備員たちが前へ出る。
「近づくな!」
シルフィエが倉庫を指す。
「中が燃えてるのにか?」
「関係ない! 下がれ!」
警備員は道を開けようとしない。
「もう時間がないです!」
サンキチが叫んだ。
クリフトスはフルートを構える。
「少し休んでていただきましょうか」
旋律が鳴った。
「ライトニング!」
電撃が走る。
「バチィッ!!」
警備員たちが次々と身体を震わせ、その場へ倒れた。
「威力は落としてありますから、ご安心を」
クリフトスは倒れた者たちを横目に倉庫へ向かう。
「しばらく寝ててください」
「相変わらず容赦ないですね……」
サンキチが引き気味に言う。
「急ぐぞ!」
シルフィエが先を促した。
*
倉庫の入口はすでに炎に包まれていた。
「かなり燃えてますね……」
サンキチが熱気に顔をしかめる。
「このまま入るのは危険ですね」
クリフトスがフルートを吹いた。
「水の守り」
淡い水の魔力が一行を包み込む。
炎の熱が一気に和らいだ。
「わ……涼しい」
ミルキーが驚く。
「これなら中に入れるか」
トルムが前を見る。
「長くは持ちません」
クリフトスはすぐに言った。
「急ぎましょう」
一行は燃え始めた倉庫の中へ入った。
すでに炎は商品棚や木箱へ広がっていた。
「火が広がってます!」
「僕が抑えます!」
サンキチが炎へ向けて魔力を放つ。
火を消すのではない。
流れを変え、燃え広がろうとする炎を押さえ込む。
「消すことはできないですけど――これ以上、広がらないようにはできます!」
「助かります」
クリフトスが答えた。
「急げ!」
シルフィエが奥へ走る。
「帳簿か、取引の記録を探す!」
トルムも商品の間を見回す。
「長くは無理です!」
サンキチの声が飛ぶ。
*
「こっちは商品ばかりだ!」
トルムが木箱を開きながら叫ぶ。
「帳簿は奥でしょう」
クリフトスがさらに奥へ進む。
「こっちだ!」
シルフィエの声が上がった。
「何かある!」
トルムが駆け寄る。
「取引記録だ!」
棚には帳簿や書類がまとめて置かれていた。
「まだ読めるものがある!」
「これも持っていきます!」
ミルキーが焼けていない書類を抱える。
「頼む!」
その時、頭上から嫌な音がした。
ミシ……ミシミシ……。
梁が大きく軋む。
「まずいです!」
サンキチが叫んだ。
「もう建物がもちません!」
「十分です!」
クリフトスが周囲を見る。
「全員、外へ!」
トルム、ミルキー、クリフトスが先に出口へ向かう。
サンキチも炎を抑えながら後退した。
だが、その分だけ遅れた。
焼けた梁が頭上から落ちる。
「危ない!」
シルフィエが駆け戻った。
サンキチの身体を抱え、そのまま横へ跳ぶ。
「ドガァン!!」
直後、梁が床へ叩きつけられた。
間一髪だった。
*
外へ出たサンキチは、少し呆然としていた。
「……助かりました」
「ぼーっとするな」
シルフィエはそれだけ言った。
トルムは抱えてきた帳簿を確認する。
「……なんとかこれだけ確保できた」
全員が安全な場所へ移動すると、すぐに焼け残った記録を調べ始めた。
「取引記録全部ではないだろうが……」
トルムが慎重にページを開く。
「読めるところはある」
商会長も横から確認した。
「武器、防具、馬具、保存食……」
次々と項目を追う。
「やはり軍需品ばかりだな」
「買い始めた時期は?」
サンキチが聞く。
トルムは記録を指した。
「今回の騒ぎより前だ」
クリフトスの表情が険しくなる。
「では、偶然に値上がりを見越して買ったという説明では弱いですね」
「ああ」
商会長はさらに帳簿を調べた。
「しかも、かなり大きな金が動いている」
別の記録にも目を通す。
「これは、一商人が思いつきでやった規模じゃない」
「……やっぱり、上で誰か動いてるな」
トルムがつぶやく。
サンキチが商会長を見る。
「これなら、証拠になりますか?」
「少なくとも」
商会長は帳簿を閉じた。
「何も知らなかったでは済まんな」
*
一行はノーム商工会へ戻った。
「とにかく」
クリフトスが口を開く。
「二大勢力の戦を止めなければなりません」
「このままだと、本当にぶつかります」
サンキチも続ける。
「使者を出す」
商会長は即座に決めた。
「自由都市派と統一王家派、両方へ?」
「ああ」
間もなく商工会の前に複数の馬が用意された。
「急げ!」
商会長が使者たちへ声を飛ばす。
「戦が始まってからでは遅い!」
使者たちはそれぞれ別の方向へ駆け出していった。
*
一方、大商館では商人たちの会議が紛糾していた。
「傭兵を増やして商館を固めるべきだ!」
「そんなことをすれば、余計に疑われる!」
「なら金で黙らせればいい!」
「帳簿が持ち出されているなら、そんな段階ではない!」
怒鳴り声が飛び交う。
その中で、以前の会議で構想を持ち出した男だけは冷静だった。
「……まずは落ち着きましょう」
周囲が少し静まる。
「まず、帳簿を狙った者たちが誰なのか調べる」
男は机へ手を置いた。
「何を知っているのかもだ」
そして静かに続ける。
「下手に動き回られると、こちらも次の手が打てなくなる」
その言葉を、一人の商人が黙って聞いていた。
*
その商人は会議を終えたあと、人目のない場所で部下と話していた。
「帳簿を持ち出したのは、ノーム商工会に出入りしている旅人たちのようです」
「ノーム商工会?」
商人は眉を寄せた。
「どういう繋がりだ?」
「詳しい繋がりまでは分かりません。ただ、旅人たちは商工会に出入りしています」
「それで、その後の動きは?」
「それが……」
部下が少し言いよどむ。
「なんだ?」
「ノーム商工会から、複数の使者と思われる者たちが、すでに街を出ています」
「……どこへ?」
「そこまでは。別々の方向へ向かったようです」
商人は黙った。
部下が去ったあとも、しばらくその場を動かなかった。
「……これは、手遅れか」
小さくつぶやく。
「このままでは、俺まで巻き込まれる」
*
しばらくして、その商人はノーム商工会の前に立っていた。
「……ここまで来たら」
扉へ手をかける。
「もう戻れんな」
ゆっくりと扉を開いた。
*
同じ頃。
フミタロウたちは草原の街道を進んでいた。
統一王家派の兵たちに加え、捕らえた襲撃者も同行している。
「まずは戻って報告します」
使者――ラシードが言った。
「襲撃を受けたことも、奴らがカザンパースで仕事を受けたという証言も」
「それが先だな」
ユリクがうなずく。
フミタロウはラシードを見る。
「勝手にカザンパースまで行かない判断」
少し感心したように続ける。
「あんた、なかなか仕事ができるタイプやろ?」
「職務に忠実なだけですよ……」
ラシードは少し疲れたように答えた。
*
やがて一行は統一王家派の王都へ到着した。
「戻りました。まず報告を――」
ラシードが城兵へ声をかけた、その瞬間だった。
複数の兵士がフミタロウを取り囲む。
「……え?」
何が起きたのか理解する前に腕を取られ、そのまま縄をかけられた。
「ちょ、ちょっと待って!」
フミタロウが慌てる。
「縛るの!?」
「待て!」
ラシードが止めに入った。
「話が変わっている! この者については、私から報告がある!」
兵士は表情を変えなかった。
「ラシード様、国王命令です」
「何?」
「旅人の男を直ちに陛下の前へ連行せよ、と」
「待て!」
今度はユリクが前へ出る。
「この者は、我らの客人だぞ!」
「申し訳ありません」
兵士は頭を下げた。
「我々は命令に従うだけです」
そのままフミタロウは謁見室へ連れて行かれた。
*
玉座には一人の大柄な男が座っていた。
統一王家派の中心となる王――バルガン・アルディハーン。
その傍らで高官が巻物を開く。
「自由都市派の王女毒殺未遂事件への関与」
高官は読み上げる。
「エルフ王国、ノームと結託し、自由都市派を扇動し、騎馬王国連合を戦乱に陥れようとした罪」
フミタロウは縄で縛られたまま、思わず顔をしかめた。
話が、自分の知らないところでどんどん大きくなっている。
高官が巻物を閉じる。
バルガン王が低い声で尋ねた。
「何か言いたいことはあるか?」
「言いたいことだらけや!」
フミタロウは即答した。
「俺らは、巻き込まれただけやぞ!」
「無礼者!」
衛兵がフミタロウを殴り、そのまま床へ押さえつけた。
「ぐっ……!」
「陛下、お待ち下さい!」
ラシードがすぐに声を上げた。
「この者について、まず私からご報告があります!」
*
フミタロウは床へ押さえられたまま、ラシードの報告を聞くことになった。
「陛下」
「なんだ」
「道中で、我々は襲撃を受けました」
バルガン王の目が細くなる。
「襲撃?」
「はい。複数の兵が矢を受けています」
ラシードは続ける。
「襲撃者は、我々を皆殺しにするつもりでした」
「俺もその場にいた」
ユリクが補足する。
「フミタロウも一緒に戦っている」
「襲撃者は捕らえました」
ラシードの声が一段低くなる。
「そして尋問したところ――」
一拍置く。
「仕事を受けた場所は、カザンパースだと証言しました」
「カザンパース……?」
高官がつぶやく。
床に押さえられたままのフミタロウが、小声で言った。
「いいぞ、もっと言うたれ」
*
「……カザンパースだと?そういう事か」
バルガン王の表情が変わった。
次の瞬間、勢いよく立ち上がる。
「あの、腐れ商人ども……!」
そして大声で命じた。
「兵を集めよ!!」
「へ、陛下!?」
高官が慌てる。
「自由都市派へ、すぐに使者を出せ!」
バルガン王は止まらない。
「今回の黒幕は、カザンパースの商人どもの可能性が高い」
さらに言葉を続ける。
「こちらは自由都市派と争う意思はない。そのことも伝えろ!」
「はっ!」
「我らはカザンパースへ向かうとも伝えよ!」
「決断はやっ……」
フミタロウが嫌な予感を覚える。
「貴様も来い!」
「やっぱり俺も!?」
*
城の中庭では、すぐに騎馬兵が集められ始めた。
バルガン王はまだ怒りが収まっていない。
「まったく……!」
馬へ向かいながら大声で言う。
「わしは昔から、あいつらが嫌いなのだ!」
「陛下……」
ラシードが困った顔をする。
「いつもこそこそと、悪だくみばかりしよる!」
「陛下……まだ何も確定しておりませんので」
「分かっておる!」
バルガン王は即座に言い返した。
「だから直接確かめに行くのだ!」
フミタロウは少し離れたところで、ユリクへ小声で聞く。
「絶対、前から嫌いやっただけやろ」
ユリクは少しだけ間を置いた。
「……うん。否定はできんな」
*
出発の準備が整いかけた頃。
バルガン王が、ふとフミタロウの左腕を見た。
「ところで、その左腕の装備」
「はい?」
「それはなんなのだ?」
「フ式パイルバンカーです」
バルガン王の目が一気に輝いた。
「何か動くのか?」
フミタロウは小さくつぶやく。
「またこの流れか……」
自分の左腕を見る。
「絶対みんな食いつくよな」
「なんだ?」
「いや、なんでもないです」
フミタロウは答え直した。
「はい。近接攻撃用の杭が出ます」
「威力は?」
「やってみましょうか?」
「よし!」
返事が早かった。
バルガン王は近くにいた戦士を呼ぶ。
「お前、盾を構えよ!」
「はっ!」
戦士は頑丈そうな盾を構えた。
フミタロウも左腕を前へ出す。
「いきますよ」
フ式パイルバンカーを盾へ密着させる。
そして――。
「ドゴンッ!!」
衝撃音とともに杭が撃ち出された。
次の瞬間、盾には大きな穴が開き、構えていた戦士ごと後方へ吹き飛ばされた。
「うわああっ!」
「おお!!」
バルガン王が大喜びする。
フミタロウは左腕を下ろした。
撃ち出された杭は内部へ戻り、盾の中には残っていない。
*
吹き飛ばされた戦士の横で、盾には大きな穴が開いていた。
バルガン王はそれを見て、ますます興奮している。
「すごいな!」
そして当然のように言った。
「それ、わしに譲ってくれんか?」
「嫌です」
フミタロウは即答した。
バルガン王が目を丸くする。
「国王の命令でも?」
「無理です」
一瞬の沈黙。
フミタロウは少し考えて付け加えた。
「製造場所なら教えます」
バルガン王は数秒黙ったあと、突然大声で笑い始めた。
「がはははは!」
周囲の者たちが驚く。
「面白いやつだな、貴様!」
バルガン王はフミタロウの肩を叩いた。
「気に入った!」
そして、いかにも褒美でも与えるように言う。
「特別に、余の隣を進むことを許す!」
「陛下!」
高官が慌てた。
「このような得体の知れない者を!」
バルガン王は平然としている。
「何か起こせば、お前が防げ」
「はい……」
高官は力なく答えた。




