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漏洩の加護  作者: なつみかん
第十三章 騎馬王国連合
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第五十二話おっさん連行される  

セルディアの町の外に、騎馬の一団が姿を現した。


 城門付近にいた衛兵が、遠くから近づいてくる旗を見て声を上げる。


「騎馬隊だ!」


 続いて、旗印を見分けた別の衛兵の顔が強張った。


「統一王家派の旗です!」


 その報せはすぐに館へ届けられた。


 リュナの父王とユリク、それに家臣たちが集まる部屋へ、一人の家臣が足早に入ってくる。


「先方より使者が来ています」


「通せ」


 父王の言葉を受け、間もなく統一王家派の使者が会談室へ案内された。


 向かいには父王とユリク。


 使者は礼を済ませると、まずは落ち着いた声で口を開いた。


「我々は、セルディアと争うために来たのではありません」


 父王は黙って続きを待つ。


「要求は一つです」


 使者はそこで一度言葉を切った。


「姫君の周囲にいる旅人一行――」


 呼ばれていたフミタロウたちへ視線が向く。


 フミタロウ、サンキチ、ミルキー、クリフトス、シルフィエ、そしてトルム。


「この者たちの身柄を、我々に引き渡していただきたい」


「……はあ?」


 フミタロウが間の抜けた声を出した。


 一拍遅れて、自分を指さす。


「俺ら!?」


          *


「いやいや、ちょっと待って」


 フミタロウは両手を上げるような仕草をした。


「なんで俺らなん?」


 使者は用意していた報告書を開いた。


「毒殺未遂が起きる直前から、あなた方は姫君の周囲にいた」


「いや、それはそうやけど」


「ダークエルフが一名」


 使者がシルフィエを見る。


「複数の魔法使い」


 次に、サンキチとミルキーへ視線を移す。


「ベヒーモスを倒したという、正体不明の魔法」


 そして最後に、フミタロウの左腕へ目を向けた。


「そして――ドワーフ製と思われる、見たことのない武器」


 フミタロウも自分の左腕を見る。


「……これ?」


「さらに、エルフとの接触まで疑われている」


 使者は淡々と続けた。


「これだけ揃っていて、ただの旅人だと言われても、信じるのは難しい」


 サンキチが小声でつぶやく。


「……並べると、すごく怪しいですね」


「お前まで言うな」


 フミタロウはげんなりした顔をした。


          *


 フミタロウは腕を組み、首を傾げた。


「なんか最近、どこ行っても疑われてるな」


 しばらく考える。


「なんでなん?」


 サンキチが真顔で答えた。


「すぐにフラグ回収するからじゃないですか?」


「なんやねんそれ」


「フミタロウさんが『俺、戻ったら結婚するんだ』とか言い出したら――」


 サンキチは表情を変えない。


「確実に死にそうですからね」


「ぶっ……!」


 ミルキーが思わず吹き出した。


 フミタロウは微妙な顔になる。


「……俺、そんな扱いなん?」


「実績がありますから」


「うーむ……」


 統一王家派の使者だけが、何の話をしているのか分からない顔をしていた。


 サンキチはそんな使者を見てから、フミタロウへ言う。


「フミタロウさんがしゃべると、ろくなことにならないから」


「おい」


「ここはクリフトスさんにまかせましょう」


「ひどない!」


 ミルキーがまた笑いそうになる。


 クリフトスは小さく息をつき、一歩前へ出た。


「……では、私から説明しましょう」


「お願いします」


 使者も姿勢を正す。


「あなた方は何者で、なぜこの地へ?」


「我々は北大陸から旅をしてきました」


 クリフトスは落ち着いて答えた。


「魔王と魔族に関する手掛かりを追っています」


 使者側の表情は、明らかに疑わしそうだった。


 後ろでフミタロウが小声で言う。


「全然信用してない顔やな」


「ですね」


          *


 使者は今度はシルフィエを見る。


「では、そのダークエルフが同行している理由は?」


「ヤーナマトへ向かうための道案内です」


 クリフトスは即答した。


「エルフ王国とは、どのような関係を?」


「特別な関係はありません」


 クリフトスは首を横に振る。


「むしろ、できるだけ関わらずに通ってきました」


 使者の視線が、再びフミタロウの左腕へ移る。


「その武器は?」


「ミルドカンドへ立ち寄った際に、工房で制作してもらったものです」


「ベヒーモス討伐については?」


「偶然、その場に居合わせました」


 クリフトスは少しだけユリクの方を見る。


「そちらのユリク殿下に加勢を頼まれたので、手伝っただけです」


 使者がユリクを見る。


「その件は事実だ」


 ユリクはすぐに認めた。


「私が彼らに加勢を頼んだ」


 使者は少し黙った。


 後ろでフミタロウが小声を漏らす。


「クリフトスさんが、いてくれてよかったな」


「ええ、ほんとに」


          *


「では、毒殺未遂については?」


 使者の問いに、クリフトスは表情を変えなかった。


「我々は無関係です」


「そう言い切れる根拠は?」


 その問いに答えたのはトルムだった。


「それは私が証明できます」


 使者が見る。


「この方たちは、私に同行してくださっただけです」


 トルムは続ける。


「毒入りの菓子が届けられた時、彼らは王宮にはいませんでした」


 その瞬間、父王が机を強く叩いた。


「いい加減にせよ!」


 部屋が静まり返る。


 父王は怒りを隠そうともしなかった。


「我らの客人を疑うより――ライゼン家の調査が先であろう!」


 使者は少し黙ったあと、落ち着いて答えた。


「ライゼン家には、すでに確認しております」


「何?」


「彼らは婚礼の菓子など送っていない、と」


 父王の表情が変わった。


「……何?」


 使者の言葉を受け、保管されていた毒入りの菓子が運ばれてくる。


 使者はその品を見て、目を細めた。


「……待ってください」


 菓子を手に取り、しばらく確認する。


「これは……ライゼン領の菓子店のものです」


「ライゼン家は送っていないと言ったのではないのか?」


「……そのはずです」


 使者自身も困惑していた。


「どうなっている……?」


 クリフトスの表情も険しくなる。


          *


 トルムが菓子を見つめる。


「ライゼン家が送っていないのに、ライゼン領の菓子が届いた……」


 少し考えてから、トルムは口を開いた。


「それなら、菓子そのものは普通に買ったんじゃないですか?」


「普通に?」


「店にしてみれば、ただの注文です」


 トルムは商人らしい視点で説明を続ける。


「誰が何に使うかまで知る必要はありません」


 クリフトスがそこへ続いた。


「そして出来上がった菓子を受け取った後で毒を入れ――」


 ユリクの表情が険しくなる。


「ライゼン家の使者を装って届けた……?」


 使者は黙って考え込んだ。


「……だとすれば」


 少し間を置く。


「我々も、セルディアも、誰かに踊らされていることになる」


 トルムも険しい顔をした。


          *


「……ひとつ、気になる話があります」


 トルムの言葉に、父王が顔を向けた。


「気になる話?」


「カザンパースで聞いた噂です」


 トルムは少し前の記憶を思い出す。


 カザンパースの酒場。


 商人たちが酒を飲みながら、何気なく話していた。


「これから面白いことが起きるらしいぞ」


 その時は、ただの商人同士の噂話にしか聞こえなかった。


「それだけではありません」


 トルムは続ける。


「大商人たちが、そのころから武器や防具、保存食を買いあつめ始めていると」


 クリフトスが反応する。


「この騒ぎが起きる前から?」


「はい」


 フミタロウが腕を組む。


「戦争が起きそうやから買ったんやなくて……」


 サンキチが言葉を引き取った。


「起きることを知ってた?」


「……もしくは」


 トルムは低い声で続けた。


「起こそうとしていた」


 部屋の空気が変わった。


          *


 使者はしばらく考え込んでいたが、やがて口を開いた。


「……興味深い話ではあります」


 しかし、その表情は変わらない。


「ですが、それは私が判断することではありません」


 使者はフミタロウたちを見る。


「私が受けている命令は一つ。この旅人たちを引き渡していただくことです」


 父王の顔が険しくなる。


「我らの客人を連れて行くというのか」


「はい」


 使者は静かに、しかし強く続けた。


「身柄を引き渡していただきます」


 一拍置く。


「拒まれるのであれば――こちらも相応の対応を行う用意があります」


 部屋に緊張が走った。


「客人を引き渡すなどできん!」


 父王が即座に言い返す。


 使者は片手を軽く上げた。


「落ち着いてください。我々も戦をしたいわけではありません」


 それから、少し考えるように間を取った。


「それでは、こうしましょう」


 使者はフミタロウたちへ視線を向ける。


「この者共のリーダーから話を聞くために、同行してもらいます」


「リーダー?」


 フミタロウが首を傾げた。


 次の瞬間。


 全員がフミタロウを見た。


「そうなん?」


 フミタロウは自分を指さした。


「俺も行ってやる」


 ユリクが言った。


「え、ほんまに?」


 フミタロウが振り返る。


 そこへサンキチが真顔で言った。


「フミタロウさん」


「なんや」


「帰ってきたら結婚するんですよね?」


「俺を殺そうとすんな!」


「ぷっ……!」


 ミルキーがまた笑う。


 父王は使者を見た。


「まあ、わしの客人だ。殺されはしないだろ」


 そして念を押す。


「くれぐれも酷い扱いなどないように頼むぞ」


「わかりました」


          *


 館の外では、統一王家派の部隊が出発の準備を進めていた。


 フミタロウも自分の荷物をまとめる。


「なんで俺だけ連れていかれるんやろな……」


 サンキチが答える。


「リーダーだからじゃないですか?」


「その設定、今日初めて聞いたわ」


 フミタロウは残る仲間たちを見る。


「ほな、そっちは頼むわ」


「フミタロウさんも、無事に帰ってきてくださいね」


「ああ」


 少し間を置いて、サンキチが続ける。


「帰ってきたら結婚するんですから」


「まだ言うんか」


 そのやり取りを聞いていたシルフィエが、不思議そうに聞く。


「誰と結婚するんだ?」


 フミタロウが振り返る。


「そんな相手いたのか」


「いねーよ!」


 ユリクも出発の準備を終えている。


 フミタロウは大型馬へ向かい、残る一行がそれを見送った。


          *


 フミタロウたちが遠ざかっていくのを眺めながら、シルフィエは腕を組んだ。


「そうか、やっとわかった」


 サンキチとミルキーが振り向く。


「あいつは結婚願望があるのだな」


「へ?」


「なるほどな」


 シルフィエは妙に納得した顔をする。


「そういうことか」


「……?」


 ミルキーも首を傾げた。


 トルムはそんな三人を横目に、自分の荷物を背負い直す。


「では、私たちも行こう」


 クリフトス、サンキチ、ミルキー、シルフィエ、そしてトルム。


 残った五人は、カザンパースへ向かうことになった。


          *


 統一王家派の騎馬部隊は、草原の街道を進んでいた。


 ただし。


 隊列の後方だけ、少しずつ間隔が開いている。


「……しかし、遅い」


 兵士の一人が後ろを振り返る。


 ずっと後方には、フミタロウと大型馬がいた。


 馬自身は懸命に走っている。


 それでも、他の騎馬には追いつけない。


 使者がフミタロウを見た。


「貴殿は、なぜそんな馬に乗っているんだ?」


「愛馬なんで」


 フミタロウは平然と答えた。


「だが、このままでは時間がかかりすぎる」


 使者は少し困った顔をする。


「途中で馬を乗り換えたらどうだ?」


 その瞬間。


 大型馬が耳を伏せ、使者を睨むように顔を向けた。


「ブルルルルッ!」


 使者が少し身を引く。


「悪口言うと噛まれるで」


「……なんなんだ、この馬は……」


          *


 道中、一行は街道沿いの泉で休息を取った。


 馬たちが水を飲み、兵士たちも木陰で身体を休めている。


 フミタロウ、ユリク、そして統一王家派の使者も、泉のそばに座っていた。


「実際、今回の事件」


 フミタロウが口を開く。


「どう思ってんの?」


 ユリクの表情が険しくなる。


「リュナの命を狙うなど、絶対に許せん」


 その声音には、怒りが滲んでいた。


 使者は少し考えてから答える。


「私は命令に従うだけだが……」


 そして正直に続けた。


「来る前には、自由都市派が自作自演で戦争を引き起こそうとしているかもしれないと聞かされていた」


 ユリクが低い声で言う。


「それが真相なら――そいつを殺す」


 フミタロウは少し困ったような顔をした。


「俺はなんとなく」


 遠くの草原を見る。


「みんなが誰かの掌の上で転がされてるような気がするけどな」


 使者も考え込んだ。


「うーん……」


 しばらくして、ゆっくりとうなずく。


「確かに今は、全員が巻き込まれているような気も、私もしている」


 静かな泉のほとりに、一瞬だけ穏やかな時間が戻った。


 その時だった。


 ヒュッ――。


 鋭い風切り音。


 次の瞬間、一本の矢が飛び込んできた。


「ぐっ!」


「うわっ!」


 統一王家派の兵士たちが次々に倒れる。


「敵襲!!」


 使者が即座に立ち上がった。


「伏せろ!」


 ユリクも剣へ手を伸ばす。


 さらに矢が飛来し、兵士たちは岩や木陰へ散った。


 フミタロウも身を低くする。


「なんやなんや!」


 また一本、頭上を矢が通り過ぎる。


「いきなりやな!」


 泉を囲む林の中から、武装した者たちが姿を現した。


 弓兵だけではない。


 剣や槍を持った者たちが次々と木々の間から出てくる。


 所属を示すような目立つ印は、どこにもない。


 ユリクが剣を抜いた。


「何者だ!」


 返事はなかった。


          *


「一人も逃がすな!」


 襲撃者たちが一斉に斬り込んできた。


 ユリクは正面から振り下ろされた剣を受け止め、そのまま力で押し返す。


「それはこちらのセリフだ!」


 使者もすぐに戦闘へ加わった。


 襲撃者の攻撃を払い、体勢を崩したところへ一撃を入れる。


 統一王家派の兵たちも、最初の奇襲から立ち直り始めていた。


 フミタロウの前にも一人が飛び込んでくる。


 剣が振り下ろされた。


 フミタロウはわずかに身体をずらす。


 刃が鼻先を通り過ぎる。


 二撃目。


 今度は横薙ぎ。


 それも紙一重でかわした。


 かつてバサルスとの特訓で、何度も何度も攻撃を避けさせられた。


 あの時は、避けるだけで精一杯だった。


 だが今は違う。


 相手の動きが、見える。


 フミタロウは一気に懐へ入った。


「遅い!」


 襲撃者の目が見開かれる。


 フミタロウは、昔自分が散々言われた言葉を、そのまま返した。


「ハエが止まるぞ!」


 右拳が、襲撃者の腹へ突き刺さる。


「ぐっ……!」


 身体が折れ曲がり、そのまま地面へ倒れた。


 フミタロウは拳を見下ろす。


 別の場所でも、ユリクと使者が次々と襲撃者を押し返していた。


「手ごわいぞ!」


「話が違う!」


 襲撃者たちに焦りが広がる。


 逃げ腰になる者も出始めた。


「全員捕らえよ!!」


 使者が声を張った。


          *


「退け!」


「ここは無理だ!」


 襲撃者たちが逃走を始める。


 その一人の前へ、ユリクが回り込んだ。


 剣を突きつける。


「逃がすと思うか?」


 別方向へ走った男の背後には、フミタロウが追いついていた。


 襲撃者が振り向きざまに剣を振る。


 フミタロウは軽く身をかわした。


 そのまま懐へ入り、相手の腕を取る。


「ぐっ!」


 体勢を崩し、地面へ押さえ込む。


「はい、終わり」


 戦闘は長く続かなかった。


 やがて襲撃者たちは武器を取り上げられ、縄で拘束された。


 矢を受けた統一王家派の兵士たちも、すぐに手当てを受けている。


 使者は捕らえた男たちの前へ立った。


「さて――」


 相手を見下ろす。


「誰に雇われた?」


 襲撃者は黙ったままだった。


          *


 使者はもう一度尋ねた。


「誰に雇われた?」


 男は顔を背ける。


「……知らねえよ」


 ユリクの目が険しくなる。


「知らないで人を殺しに来たのか?」


「仕事を受けただけだ」


 襲撃者は吐き捨てるように言った。


「依頼主の顔なんか知らねえ」


「どこで受けた?」


 使者の問いに、男はしばらく黙っていた。


 やがて、諦めたように口を開く。


「……カザンパースだ」


 三人の表情が変わった。


「カザンパース……」


 使者がつぶやく。


 ユリクも険しい顔をした。


「偶然ではなさそうだな」


 フミタロウは拘束された襲撃者を見下ろした。


「やっぱり」


 少し間を置く。


「なんかおるな、その街」


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