第4章 シャンドル鉄道
第4章 シャンドル鉄道
雪の街、ブライフ。雪原地帯の先は、雪の積もった街があった。
パーティルとロザは、30キロの道のりを徒歩で歩き切った。三日かかったが、それでもここまでたどり着いたのだ。
「寒いか?」
ロザがパーティルに尋ねる。
「いえ、こう見えてもわたしが着ているコートとマフラーと手袋は暖かいんです。防寒着には手を抜いていません」
「しかし、この街はけっこう寒い。鉄道のために慢性的な燃料不足に陥っているのだ。暖房用の燃料も戦争で軍に持っていかれている」
「そうなんですか?」
「ああ」
パーティルは辺りをキョロキョロする。あまり人はいなかった。
「ここは人口が少ないんでしょうか?」
「いや、そうでもなかったさ。俺も時々、この街には買い出しには来ていたが、戦争前は賑わっていた。今は男たちは兵士として出兵しているんだ。だから人が少なく見えるのさ。いや、実際少なくはなっているが・・・」
「戦火は迫っているんですね?」
「ああ」
「それで、これからどうします?」
「ここはシャンドル鉄道の終着駅だ。ブライフ駅から列車に乗る」
「お金ならあります」
「まぁ、急ぐな。この三日の旅で食料も尽きたことだし、買い出しを済ませよう」
「はい」
ブライフの街の雑貨店で食料を調達したパーティルたちは、カフェに入り、奥の席に座ってそこで、話しながら食事を取った。
「この街には雪祭りがあってな。この冬の季節、暖を取るために街のみんなで踊るんだが、戦争が始まってからはもうやってないようだ」
「そういう風習があったんですか」
「思ったんだが、あんたはあまり俗世間のことは知らないようだな」
「すみません、疎くて・・・」
「豆茶を飲め」
「はい」
パーティルはカップに入った豆茶を飲んだ。
「あー、温かい」
「この店の暖房も気休め程度にしか効いてないな」
「でもマシな方です」
「さてと、駅まで歩くか」
「もう行きます?」
「ああ。しかし、この雪だ。列車は動くかな」
「動いてもらわないと・・・」
「そうだな。ウール皇国の唯一の国鉄だしな」
二人はカフェを出た。
駅ではなにやら多くの女性たちが押しかけて、憲兵たちに抗議をしているのが見えた。ものすごくざわついている。
「あれはどうしたんでしょうか?」
「ウール皇国軍の陸軍が、この街の燃料や食糧を列車に積んでいるんだろう」
「はぁ・・・」
「前線に送るためだ。それを民から徴収したために怒った女性たちが抗議活動に押し寄せてきているといったところか・・・」
「列車は軍が管理しているんでしょうか?」
「普通の客車の前後に装甲列車をつないでいるんだろう。ショーリカス軍港駅まで行くからな」
そう言うと、ロザは切符売り場のレンガの建物へと向かった。それに続くパーティル。
切符売り場は空いていた。
「いらっしゃいませ、どちらまで?」
駅員が尋ねる。
「ショーリカス軍港駅まで、二人だ」
「お二人分で520クリクになります」
「わかった」
ロザは金貨の袋から550クリクのコインを出した。
「お釣り、30クリクです」
「列車は何時に出る?」
「最近の時刻表はアテになりませんからな。一応、三時発の予定ですが、今、列車の車輪が凍っていまして、それを溶かすのにとまどっているんです。四十分の遅れです」
「それは仕方がないな。待つとするか」
切符を受け取ると、ロザはパーティルに彼女の分を渡した。
「列車に乗るぞ」
「ええ」
二人は抗議する女性たちの前を通った。女性たちが憲兵たちに叫んでいる。
「軍はなんで、何もかも持っていくの?」
「夫や息子は戦場に出され、食糧や燃料まで持っていく気?」
「積み荷を降ろしなさい!」
黙ってそのそばを通り過ぎるパーティルたち。
駅のホームに来ると、武装列車がつながれていて、その次に戦車二台を乗せた荷台車があり、その先に客車が二両つながれていた。そして先頭にまた装甲列車と機関車。列車というにはその姿は禍々しかった。
「本当に戦場に行くんですね」
「俺たちの行く先もそうさ」
「そうでしたね」
「ここからは南下する。ショーリカス軍港駅まで二日はかかるだろう」
「でも、歩かなくて済むなら楽ですね」
「動けばな」
「え?」
パーティルは目を丸くした。
「列車の車輪がこの寒さで凍って、動かないそうだ。しばらく待つことになる」
「そうですか・・・」
そう言うと二人は客車に乗った。
二人は向かい合わせに座る。
少しの間、パーティルは座ったまま眠った。疲れが出たのだろう。そのまま三時の列車が出る時刻を過ぎた。
駅の表から、数発の銃声が聞こえた。そのせいで、パーティルは目を覚ました。
「今のは?」
「外からだ。憲兵が威嚇射撃をしたんだろう」
「あの抗議していた女性たちにですか?」
「多分な。あるいは・・・」
「あるいは?まさか・・・」
「まぁ、暴動にでもなれば鎮圧のために発砲することもあるだろう」
「でも・・・」
「俺たちに出来ることは何もない」
次の瞬間、パンパンパーンという銃声が聞こえた。そして騒ぎの声が聞こえてきた。
「始まったかもな」
「みたいですね・・・」
「仕方がないことだ。戦争なんだ。現にカシミア王国軍が軍隊を送り込んでいる。戦わないといけないし、戦争をするための食糧や燃料、兵力は必要不可欠なのが優先なのだ」
「それが現実なんですね」
「そうだ」
ため息をつくパーティル。
「戦争を始めたのはカシミア王国です」
「ああ。カシミア王国の王女ルリアって話だな」
「戦争は政治だと・・・。でも、彼女は領土拡大を狙っているんです」
「それが戦争だろう。カシミア王国も長年、他国からの圧制に苦しんできた。戦争を起こした原因も少なからず、他国にもあるのだろう」
「でも、今はカシミア王国はやりすぎだと思います。メンカ共和国では虐殺が行われてるとも聞きます」
「それも含めて戦争なのさ」
「わかってます。でも、わたしはそんな戦争を終わらせたい」
「そんなめどがあるのか?」
「多分・・・」
「あんたの言っていた使命というやつか。ならいい」
「わたしには会わなければならない方です。そしてその他にも・・・」
「そうか」
ついに列車が動いた。車輪が回るようになったのだ。
「発車しますよー」
「オーライ」
ゴットンゴットンと、列車がホームから動き出す。重量がギリギリなのか、列車は重かった。ゆっくりとだが列車は南へと走り出した。
「カシミア王国軍は迫ってるぞ。油断するな。いいな?」
装甲列車の指揮官は部下たちに命令する。この列車には三十人の兵士と機関士二人とパーティルとロザだけが乗っていた。
「さて、これからどうなることやら」
ロザは窓の外を見ながら言った。
「鉄道は便利だな」
「ええ」
パーティルが相槌を打つ。
「でも、さっきの女性たち・・・」
「なんだ、まだ気にしていたのか?」
「だって・・・」
「これからどんどん犠牲になるものが増えるさ。気に病んでもしょうがない。俺達には目的があるんだ。いちいち気に留めても仕方がないさ」
「わかってます」
「しかし、他に心配なことはある」
「え、何です?」
「この鉄道だよ。さっきも言ったが便利だ。だから敵もそう思うに違いない。そう思わないか?」
「ええ、そうですね」
「ということは、このシャンドル鉄道がカシミア王国軍に狙われる可能性もあるということだ」
「確かに・・・」
「杞憂ならいいが、戦時下ではどんなことでも考慮しておかなければならないものだ」
それから一日が過ぎ、列車は南へと進んでいった。
夜中には遠くで轟音が聞こえた。
翌日には半日列車は南下していった。そして突然、雪の積もる田園地帯の真ん中で、列車は止まった。線路が破壊されていたのだ。いつの戦闘の時によるものなのか分からないが、機関士にも軍の司令官にもこの情報は伝わってはいなかった。
列車を降りて状況を確認するウール皇国軍の指揮官とその部下たち。
「どうします?」
「これではもう進めない」
「今、ここはどこだ?」
「パーラ駅の近くです。でもあと二十五キロは進まないとたどり着けません」
「この状況を司令部に伝えるんだ。電話は使えるか?」
「いいえ、無理です」
「なら伝令を出せ!」
「はい」
その時、列車の手前で爆発が起きた。
西の方を見て、大砲が飛んできた方に目をやる。
「見ろ!来たぞ」
「カシミア王国軍だ」
見ると、戦車が七台、横並びになって装甲列車を狙っていた。
「全員、戦闘配置に着け!」




