第3章 トライス城
第3章 トライス城
エルゾン大陸、カシミア王国。
王国の北にあるトライス城は、とある少女の統治下にあった。その少女は王女、ルリア・カシミア。十六歳。金髪長髪が印象的な、肌は白く、とても可愛らしくも高貴な王女だった。母は彼女が十二の時に病で命を落とし、父は幼くして亡くなっていた。今、このカシミア王国を統べるのは、王女ルリアだった。彼女は子供の頃からチェスが好きで、よく側近のクチカット・コーザーという男と遊んだものだ。相手の王を取ることが大好きだったルリアは、顔に幼さを残しながらもチェスには本気で挑み、チェックメイトと言うのに満足げな顔だった。実際、彼女はチェスが強かった。
ルリアが玉座に座ることはあまりなかった。
ほとんどがチェス部屋で、クチカットとチェスをしていた。
「チェックメイト」
ナイトのコマを黒いマスに置いて、ルリアは言った。
ヤレヤレという顔をするクチカット。
「またですかな。これで386勝152敗ですな」
「へへっ、またわたしの勝ちね!」
「ルリア様には敵いませんな」
「でも、わたしを相手に手を抜かずに対戦してくれるあなたのことも、わたしは尊敬してるわ」
「そんな、滅相もない」
「あなたはわたしの良き理解者。そして側近にして、相談役。そしてチェスの相手!」
「どうも」
「今日はもう、この辺にしましょうか?」
「そうですな。ルリア様も朝からお着替えになっておられないでしょう?着替えてきたらどうですか?」
「そうね。じゃあ、お母様の服と下着を持ってきて」
「またですか。何度も言ってますが、わたしとしてはもう、下着はちょっと・・・」
「かまわないのよ。あなたの前で堂々と着替えるし。わたしの美しい裸を見られるのはあなただけよ、クチカット」
「まったく、ルリア様はいつになってもはしたない」
「わたしはそんなに気品のある気ではない。それは幼少の頃からのわたしを知っているあなたも分かっていることでしょう?」
「そうですな、ヤレヤレです」
「じゃ、着替えを!」
「かしこまりました」
ルリアは朝から着ていた服を脱ぎ、下着も脱いで裸になると純白のパンティを穿き、ブラをすると、その上にピンクのドレスを着た。
「どう?」
「よくお似合いで」
クチカットはうなづいて言った。
「ありがとう。では政治の話をするわね。会議室に行きましょう」
「では、参謀たちを集めます」
「お願いね」
ルリアは笑顔でウィンクした。
トライス城内・会議室
「さて、お集まりの皆さん」
クチカットは立って話し始める。
円卓には六人の参謀や軍司令部の男たちなどが座っていた。そして、ルリアも。
「ウール皇国の中部には軍を多く送り込みましたが、やはりあの辺りからはなかなか・・・」
「戦車隊を送り込むのにどれだけ苦労したと思ってるんだ?」
「あそこはもう激戦区だ。もう一押ししなければ動きますわい」
「統治しているメンカ共和国の軍備の増強もしなければ牽制は出来ないとも思われます。いかがでしょう、ウール皇国の軍事侵攻はいったん止められては?」
「いや、そうすればせっかくの進軍が水の泡に・・・」
「ルリア様、いかがですか?」
ルリアは黙って聞いていたが、口を開いた。
「ウール皇国の制圧は、亡き母の願望でもありました。メンカ共和国の軍備をウール皇国の軍事侵攻に少し回しなさい。何としてもあと一年以内にはウール皇国を陥落させるのよ」
「しかし、それではメンカ共和国は・・・」
「メンカ共和国の国民を収容所へ。大人を送り込んで、子供は皆、殺しなさい。そうすれば統治している兵の数も少しは減らせると思うわ。どう?」
円卓にはざわめきが起こる。
「しかし、ルリア様。それは・・・」
「収容所の数を増やし、捕虜の数を減らす。簡単な計算よ」
「分かりました。では、そのように」
「軍艦も多く回して。それで海上を封鎖するのよ」
「軍艦は、トカレ海峡にてウール皇国海軍艦隊との衝突が重なっています。まずは敵の艦隊を崩さないと・・・」
「では、それを優先にしてもいいわ」
「御意!」
「ウール皇国は雪国よ。食糧の補給も滞らせてはダメよ。補給船も多数送り込みなさい」
「はい」
「とにかく今は敵陣に入り込んでいる状態よ。そのまま進軍することを最優先にして。これはチェスと同じよ。敵の首都を落として勝つのよ。一気に叩き込みなさい!わたしからは以上よ」
「いつもながら、的確な作戦です、ルリア様」
「では、会議はこれで終わり。皆さん夕食にしましょう」
ルリアはそう言って締めた。
夕食はルリアとクチカット、そしてトライス城のお偉方たちによってテーブルを囲んで行われた。
「ルリア様、今日もお美しい」
「そうですな。母君もお美しい方でしたゆえ」
ルリアは食事をしながらフフッと笑った。
「もう聞き飽きました。それに参謀の娘さんもロゼッタって言いましたっけ?彼女ももう12歳。良いお年頃なのでは?ね、参謀」
「いやいや、あの子はもうただのじゃじゃ馬で。ルリア様のような気品はまるでまるで」
「あら、わたしにそんなに気品があるとでも?」
そう言うと、ルリアはクチカットの方を見る。二人で笑いあった。
「どうされましたかな?」
「いいえ、わたしには先代女王の母君のような気品はありません。父のようにも・・・」
「そうですかな」
「わたしは誰かに甘えるといったことが少ないだけです。それだけです」
そう言うと、ルリアに近づいてくる女の子が一人いた。付き人のリッサ・ドーワーズだった。
「ルリア様、肉料理が来ましたよ」
「ありがとう」
「リッサはもう13歳だっけ?ここに生まれてからずっと仕えてるわね」
「ええ、身寄りのないわたしを先代女王様がひろってくださいました。感謝しています」
「あなたにも苦労をかけてるわね。あなたの方がわたしより気品があるのかもしれませんね」
「そんな・・・」
「でも、今日は肉はあまり食べたいとは思わないわ。参謀、あなたにあげるわ」
「よろしいのですか?」
「ええ、民の血税の肉料理、あなたも食してみるといいわ」
「では遠慮なく」
参謀はリッサから肉料理の皿を受け取った。
「では、さっそく・・・」
「カシミア産の子ヤギ肉は絶品よ」
参謀は肉をナイフとフォークで細かく切り、口に入れた。
「なるほど、いい肉を使われていますな」
「でしょう?わたしは魚をもらうわ。お願いね」
ルリアがそう言った途端、参謀は急に苦しみ始めた。
「ぐわっ!」
参謀はそのまま上半身ごとテーブルに打ちつけ、けいれんを起こし、口から血を吐いて動かなくなった。
その場にいた全員がテーブルを離れた。
「こ、これは・・・」
「まさか、毒?」
「さ、参謀・・・」
「すぐに医者を呼べ!」
すぐさま城内にいた医者が呼ばれた。
「これは・・・」
「参謀は・・・?」
医者が確認した。
「もう亡くなってます。青酸性の毒でしょう。料理に入っていたものと思われます」
「料理に・・・」
「さっきの肉料理か?」
医者が料理を確かめた。
「そうですね、これに入っていたのでしょう」
「それはルリア様が食べられるはずだった料理・・・」
ざわつく食事の席。
「わたしを狙ったですって?」
ルリアは表情一つ変えなかった。さすがに肝が据わっていた。
「つまりわたしを暗殺しようとしたと?」
クチカットは前に出る。
「誰かが女王を狙ったのですな」
「いったい誰が?」
「料理を作ったのは?」
「調理人です。コック長が・・・」
「では、ここに呼べ!」
数分後、この城のコック長のヒゲ面の男が、近衛兵二人にはがいじめにされ、連れてこられた。
「お前がこの料理を作ったのだな?」
「そ、そうですが、いったいこれは何事ですか?」
「料理に毒が入っていた」
「な、何ですと?」
「お前がルリア様の料理を作ったのだな?」
「はい。しかし、わたしは毒など・・・」
「どうなさいますか、ルリア様」
ルリアは目の前のコック長の男を見た。
犯人は別にいる・・・。しかし・・・。
「分かったわ。でも仕方がない。参謀の娘のロゼッタは父親を失った。これは責任問題よ。料理を運んだのはリッサ、あなただったわよね?」
リッサは急にふられてハッとなる。
「は、はい」
「あなたも仕方ない。二人して責任を取りなさい」
「え?」
「銃を持ってきて。大きなやつを」
クチカットは驚く。
「ルリア様!」
「さぁ、早く!」
「は、はい」
近衛兵の持つ筒の長い銃をクチカットは持ってきた。
「ルリア様・・・・・。これを」
「それでいいわ。リッサ。あなたがその銃でコック長を撃ちなさい」
「そんな!」
リッサは体がこわばった。
「さぁ、銃を持ちなさい」
リッサは震える手で銃を受け取る。
コック長は怯える顔で言った。
「女王!やめてください!わたしはやっておりません」
「そうかもね。でも、わたしに料理を振る舞ったのには責任がある。死刑よ」
「おやめください!」
「リッサ、あなたもよ。わたしに料理を運んだ。おかげでわたしは命を落とすところだった。そして参謀を失い、その娘を父親無しにした。その責任を取って、その銃でコック長を処刑しなさい。あなたがやるのよ」
「そんな、できません・・・」
「やりなさい!」
リッサは仕方なく胸の前で銃を構えた。銃口が震える。
「さあ、処刑しなさい!」
一瞬、時間が止まったかの思えた。しかし、次の瞬間、リッサが発砲した弾丸がコック長の胸部を貫き、コック長は血を流して倒れる。
「ああ・・・」
リッサは銃を離した。
銃は床に落ちる。
「そう、それでいいのよ」
ルリアはため息をつくと、
「まだ、他の暗殺者の可能性はゼロじゃない。引き続いて捜査するように!」
黙っていたお偉方たちは固まっていた体を動かし始める。
「ルリア様・・・」
「もう、何も言うな。言ってはダメです」
「はい、ルリア様」
そばで泣き崩れるリッサ。
それを見るルリア。そして長い金髪をひるがえすと、部屋へと戻っていった。
ルリアは世間では実はこう呼ばれていた。
〝暴君〟と・・・・・・。




