悪魔の島唄
事件も無事解決し、いよいよ明日は帰宅となった。
俺の仕事としては連続殺人事件のルポを書くことになったわけだが、はたしてそれでいいのだろうか、本来の目的は金塊探しだったのだ。一応、副編に確認しないとならない。
朝食前にそんなことを考えながら、部屋でまったりとしていたら、唐突に扉が開いた。
舞蘭だった。
「舞蘭、おはよう、どうしたんだ?」
「長谷川、何をまったりしているんだ」
「まったりって、もうすべて解決しただろう」
舞蘭は俺を指さしながら言う。
「まだ大事な仕事をしてないだろ」
「大事な仕事……」
「お前は何しに来たんだ?」
「金塊探しのルポライター……」
「そう、それだ」
「え、あてがあるのか?」
「当たり前だろ、朝食を食べたら出かけるぞ」
「出かけるってどこに」
「金塊のある場所にだよ」
そう言うとどんどん食堂に向かっていく。俺は唖然とするばかりだった。
ダイビングインストラクターの鵜飼には、江南から連絡がいったようで、朝食を食べ終わる頃に鵜飼が来た。彼の車で出かけるという。
俺はどこか狐につままれたような気分だった。舞蘭は金塊探しをあきらめてなかったのか、それにしてもこれまで何も話さなかったので何もわからない。
江南は槇原医師と今後のことを話すというので、行くのは俺と舞蘭だけだ。
舞蘭は鵜飼の前では金塊の話をするなという。鵜飼にはダイビングをするとだけ言ってあった。さらに場所は黄金港だ。
舞蘭は本当に金塊の在りかがわかっているのだろうか、確かに何回か黄金港付近の難破船周辺に潜っていた。俺はクラゲにさされたり、鵜飼に絞られたりとろくな思い出はないが……。
ただ、ここで気が付くことがある。舞蘭が俺にライセンスを取れとあれだけ言った理由がこれだったということだ。おそらくだが、こうなることをすべて予測していたのだ。江南は最後の金塊探しには参加できない事態が来る、それ故、俺にライセンスを取得させ、一緒に潜らせる必要があったのだ。舞蘭はすべてを理詰めに考えていたことになる。まったく恐ろしいほどの天才児である。
黄金港につくと、舞蘭は鵜飼に我々だけで潜ってみると言う。舞蘭はレスキューダイビングのライセンスも持っているので鵜飼は了承した。
俺たちはウェットスーツにボンベを担いで、ボートには乗らず、海岸から海に入って行く。波も穏やかで絶好のダイビング日和なのだが、海というやつはどこか落ち着かない。海の底から得体の知れない怪物のようなものが出てこないかと、要らない心配をしてしまう。クラゲに刺されたせいもあって余計にそう思うのだ。
陸地を見ると、鵜飼は呑気に岩場で煙草をふかしていた。まったくうらやましい限りだ。
鵜飼には聞こえない場所まで来たので聞いてみる。
「おい、舞蘭、どこまで行くんだよ」
「金塊のある場所だよ」
俺は目を丸くする。
「もうわかってるのか?」
「もちろんだ。最初からわかっていた」
俺は愕然とする。
「だったら最初から、そこに行けばよかったじゃないか」
舞蘭は泳ぎを止めて振り返ると、俺の顔の前で、たらこのような指を左右に振る。
「ちっちっち、それではミステリーにならないだろ」
「はあ、何だ。ミステリーって?」
「殺人事件が起きるんだから、まずはそれを解決するのが先だろ」
「ちょっと待て、じゃあ、舞蘭は最初から殺人事件が起きるとわかっていたのか?」
「最初はなんとなくだがな。江南が神照島に行くと言った時から、島のことを調べてみたんだ。それで島に何かあることはわかっていた、それと江南だ。彼女の素性や島に行く動機やらを考えると事件が起きそうな予感はした」
俺は唖然とする。やはりこのギフテッドはそんなことまで予測したと言うのか。
「それで最初の中村の事件ですべてが見えてきたんだ。これはこの島にある因縁のようなものが背景にあるなと。それで古文書を調べてみた」
「マジか……」
ここで俺ははっと気が付く。
「ひょっとして、俺にクラゲをけしかけたのもそういう理由なのか?」
舞蘭はにやりとする。
「今頃気付いたのか」
「槇原先生のところに行くためにクラゲを使ったのか……」
「意味もなく診療所に行くと怪しまれるからな」
「あんなに痛かったのに……」
舞蘭はにやりとする。
「事実を元にデータを積み上げると事件が見えてくるんだ。ロジカルシンキングだ。それに長谷川もこれでミステリーが一本書けるだろう」
舞蘭は何を言っているのか、ミステリーだって……。
「え、じゃあ俺のためか?」
舞蘭はいつもの悪魔の笑みを見せる。
「じゃあ、行くぞ」
「ああ、ちょっと待ってくれ、まだ深くは潜れないぞ」
「大丈夫だ。30mまで行かない」
いやいや、それでも大変だ。俺は初心者なんだぞ。
俺を無視して子豚のような少女は、口にマウスピースを付けて潜り始める。俺も急いで同じ行動を取る。
とにかく不安しかない。これまで潜ったのは3回で、一度はクラゲに刺される始末だ。まだ色々なことがまだうろ覚えなのだ。ボンベの残量確認だとかマウスピースの加え方、浮き上がる時や潜る時の注意事項など、頭に残っていない気がする。はっきりいって俺は馬鹿なんだよ。
とにかく必死で舞蘭についていくしかない。
舞蘭は沖には出ずに島の磯沿いを進んで行く。海上に頭を出さないのは鵜飼に場所を悟られたくないからだろう。普通はサンゴ礁の周辺を潜っていくはずなのだが、味気ない黒々とした水中の岩場を見ながら進んで行く。
いったい、どこまで行くのかと思っていたら、ある場所で指をさす。そこを見ると水没した岩の間に隙間のようなものが見えた。舞蘭はそこに進んで行く。
近づくにつれて暗い海底に、やはり穴みたいなものが見える。穴と言っても人一人が入るのがやっとの大きさだ。すると驚くことに、その隙間に舞蘭が入って行くではないか。いやいや、そんなところに入って大丈夫なのか。抜け出せなくなるかもしれないんだぞ。
俺は生来の臆病さから常に最悪の事態を考える。いや、最悪の事態しか考えられない。ただ舞蘭を一人には出来ないので俺も追従するしかない。
その穴は舞蘭が通るのもやっとの大きさで、入口は歪な形をしていた。ギザギザになっている。ああ、よく見ると星形とも言えそうな形だ。これが目印なのか……。
舞蘭はその細い水中洞窟をどんどん進んで行く。俺は恐怖しか感じない。こんな穴に入って出られるのか、いやそれどころかどこかで詰まったりしないのか、はたまた壊れるんじゃないのか。とにかく怖くて怖くて仕方ないのだが、舞蘭は俺に構わずどんどん奥まで進んで行く。もうやめてくれと叫びたい。俺は閉所恐怖症なんだ。
暗い洞窟を死ぬ思いで100mぐらい進んだ気がするが、ようやく穴が上方に向かっていく。上に上がるのか、じゃあ出口があるのか、いやいや無かったらどうするんだ。た、助けてくれ。
そうして舞蘭が消えた。
え、どういうことだ。と思ったら俺の周囲の水が無くなった。
どうやら海から抜け出たようだ。ただ、周囲は暗い。
舞蘭が照らすライトで、周辺が浮かび上がった。そこは鍾乳洞の入り口だった。
俺はマウスピースを外して叫ぶ。
「何だ。ここは?」
声が洞窟内を反響する。
「金塊のある場所だよ」
「マジか、ここにあるのか?」
俺のライトと舞蘭のライトが周囲を照らす。そこには山側にあった鍾乳洞と同じような岩柱が連なっている。やはりここもひんやりとする。そして洞窟は思ったより広い。俺の部屋、6畳間だが、それぐらいの広さがさらに奥まで続いている。あんな狭い海洞からここに出るのが信じられないぐらいだ。
舞蘭が周囲を見ながら言う。
「この島に鍾乳洞があるのはわかっていた。ただ例の献花があった鍾乳洞とここがつながっているかを知りたかったんだ。つながっているなら、あそこから行った方が安全だからな。でも先日の潜水でここが単独だとわかった」
なるほど、これで山の鍾乳洞で地底湖に潜った理由がわかった。
「でもどうしてここがわかった。島唄にはそんなことは書いて無かっただろ」
突然、舞蘭が島唄を歌いだした。鍾乳洞内に歌声が響く。まるで怨霊が歌っているかのようだ。
「わかったか?」
「いや、だから何のことだよ」
舞蘭は腹の底からため息をつく。はあああああああ、いや、だから反響するから怖いんだって。
「いいか、この唄はジョン助が自分の子孫のために作った歌でもあるんだ。子孫に金を残すために、金塊の在りかを明示しているんだ」
「それはそうだと思うけど、歌のどこにそんな文句がある?」
「ジョン助は英国人だろ。何語を話すんだ」
「そりゃ英語だろ」
舞蘭は何を言っているのか、俺にはさっぱりわからない。
「仕方ないな。じゃあ種明かしだ。あの唄には英語の部分があるんだよ。言い換えれば英語だと思って聞いてみるんだ」
英語の部分だって、いやいや完璧な日本語の歌詞だったろ、舞蘭は何を言ってるんだ。俺がきょとんとしていると舞蘭が言う。
「あの唄の歌詞の最後の二節が英語に置き換えられるんだ」
再び舞蘭が歌いだす。ただ、一番の最後の部分だ。
這ひ出るな(Hide yellow)
幸を刈り取れ(Serchin,Carry treasure)
「ハイドイエロー、つまり黄金を隠すだな。それとさーちんきゃりとれじゃ、運んだ宝を探す」
俺は日本語も苦手だが、英語はもっと苦手だ。そう言われてもよくわからない。とにかく歌詞の後ろの方に英語にできる部分があるということのようだ。
「すべての歌詞がそうなってるのか?」
「そういうことだ。次に2番だ」
明日巻く(A star Mark)
絶えぬ業問ふ(Tide goes to)
「ア・スターマーク、星の形。タイドゴーズトゥ、潮が引いて」
「ああ、さっきの隙間か、確かに星型だった」
「そういうことだ。昔は干潮時にはあの隙間が見えたらしい。近年は水位が上がってきたから今は干潮でも見えなくなっている。あの穴に行けと言うことだ。じゃあ奥に行くぞ」
スキューバの器具をそこに置いて、ウェットスーツだけになると、舞蘭は洞窟の奥に向かっていく。俺は次の歌詞を思い出そうとするが、何も出てこない。なんだっけか。
前を歩く舞蘭が3番の歌詞を歌う。
編んだ綿(underwater)
兜を捨てる(Cave to on steel)
「アンダーウォーター、水中。ケイブトゥオンスティール、鉄に屈するだな、それと洞窟にも掛けてある、鉄に向かう洞窟だ」
「なんだよ。水中はわかるけど、他は意味が分からないぞ」
舞蘭はふふふと笑ったような気がする。後ろ姿なのでわからないが。
少し歩くと洞窟が広がった。
「あれ、広くなった」
そこは広間とも言える大きさで、バレーコートぐらいあるだろうか。そして鍾乳洞はここで行き止まりとなっていた。
舞蘭のライトが照らした先に、何かの固まりのようなものがあった。
「あれは何だ?」
空洞の中に若干小高い丘のような部分があった。そしてそこに何かの突起物がある。
舞蘭がそこに向かうので俺も付いていく。
「舞蘭、これは何だ?」
小さな石柱のようなものが置いてある。20㎝角で高さが30㎝ぐらいある。その下には台座のようなものもある。ただ赤茶けていて錆びのようなものが浮いているようだ。鉄で出来た石柱か、いや鉄柱とでもいうのか。
「これはおそらくジョン助の墓だ。この下にジョン助が眠っている」
「お墓……」
「これをやったのはジョン助の子孫だろうな。おそらく繁り夜になる前か、なった後に隙をついてこれをやったんだろう。いや、もしかするとジョン助が作ったのかもしれないな。ここに埋葬したのは娘だろうがね」
何かもの悲しい気がする。こんな洞窟で誰にも知られずに埋葬されたなんて、ジョン助は悔しくて仕方が無かっただろうな。
「でもなんでこんな場所に埋葬したんだ」
「それがわかるのが4番目の歌詞だ」
再び舞蘭が歌いだす。
火の粉舞う(he know con man)
館が燃ゆる(Your catacomb, yellow)
「ヒーノウコンマン、彼は詐欺師だ。ユアカタコンイエロー、あなたの墓は黄金だ」
「黄金?いや、鉄じゃないか、錆び錆びだろ」
ウェットスーツでまん丸になった舞蘭が俺の顔を見て、例の悪魔の笑みを浮かべた。
そこら辺にあった石を掴むと、その錆び錆びの石柱をこすりだした。
「おい、墓荒らしじゃないか、祟られるぞ」
ごしごしと削ると、ボロボロと錆びが取れだす。そうして俺はありえないものを見る。
「ジョン助は騙しの天才だ。自分の墓を鉄に見せかけた。彼は鋳造技法に長けていた。この墓の中身は黄金なんだ」
石柱の削られた部分が黄金色に輝いてくる。金塊だ!
「ジョン助の彼女は海女さんだったんだろうな。娘もそうだ。そうでないとあの海底洞窟に潜ることは出来ない。素潜りじゃあ普通は無理な距離だ。ジョン助は難破船の金貨の在りかを知っていたから、彼女にそれを運ばせたんだ。あの星形の洞穴と、この鍾乳洞は金塊を隠すのに最適だった。だからこそこれまで誰にも発見されなかった」
「そういうことか、もし発見できたとしても、この石柱だったら誰も金塊だとは思わない」
「そういうことだ。あの唄を理解しないとな」
「やったな。舞蘭。これで億万長者だ」
「この大きさだと70億円は下らないだろうな。ただ、発見したことを公表すれば政府に没収されるだろう。黙って持ち出すのが一番いいんだろうが、とにかくまずはこの土地を所有しないとな。まあ、土地は二束三文で買えるだろうがな」
70億円とはすごい金額だ。まあ、俺には関係がない話だが。
次の瞬間、何か変な挙動を感じた。はて、これはなんだろう。寒気でもしたのか?
そう思って気が付いた。ふらついているのだ。自分の身体ごと揺れを感じる。もしかするとこれは地震動じゃないのか。そうして次に大きな揺れを感じた。
「あ、何だ?」
「じ、地震だ」
揺れは段々と大きくなる。
「舞蘭、危ない、逃げるぞ」
舞蘭はうなずくと出口まで走る。ただ、その揺れが大きすぎて歩くのもままならなくなる。舞蘭がふらふらしている。
「舞蘭!」
俺は舞蘭を抱えるようにして出口に急ぐ。俺も運動神経はいい方ではないが、火事場の馬鹿力だ。必死で舞蘭を抱えて走る。
「早く戻らないと洞窟が崩れるかもしれない」
舞蘭は泣きそうだ。こういうところは普通の子供だ。目から涙がどんどんあふれてくる。
「頑張れ、舞蘭、大丈夫だ。俺が付いてる」
舞蘭はうなずく。そうして泣きながらボンベを背負うとマウスピースを口に入れて、海に入っていく。その間も揺れはおさまるどころか、さらに勢いを増してくる。
鍾乳洞が崩れそうだ。上から石柱が崩れ落ちてくる。俺の体にも落ちてきた石が当たるのがわかる。大きな岩が落ちてきたら死ぬかもしれない。これは大変だ。急がないと下敷きになる。
上から落ちてくる岩が次々と俺の身体に当たりだす。急いでボンベを担いで海に入る。その最中にもバラバラと岩が落ちてきていた。このままだとこの洞窟自体が持たない。なんとか海中に入れたが、海の中でも地震を感じるほどだ。水がどんよりと濁っている。もうこの洞窟自体が無くなりそうだ。それほど大きな地震だ。
舞蘭がばたばたと足を動かしていく。ただいつもの様子ではない。さすがのギフテッドも天災は怖いようだ。アメリカ生まれだと地震への耐性が無いのかもしれない。こういうところは11歳の子供だ。
洞窟が壊れだしていた。海中にもバラバラと岩が落ちてくる。
先ほどは100mはあるだろうと思っていた洞窟は、思ったより早く終わった。すぐに外海に出た。
海上に出ると付近の様子がただ事では無いのがわかる。海岸沿いの岩場からも岩が崩れて海に落ちてきている。島の灯台が揺れているのも見えた。壊れるのではないか。これは相当な揺れのようだ。俺はここではっとする。地震が起きれば海岸沿いでは別の危険が迫ってくる。
「舞蘭、津波が来るかもしれない。急いで陸に上がろう」
舞蘭は素直にうなずくと、陸に向かって泳ぎだす。
地震によってはすぐに津波が押し寄せる場合があると聞く。そんなことは舞蘭も百も承知だろう。とにかく急がないと。
磯のほうで鵜飼が心配そうに立ってこっちを見ていた。
俺が手を振ると、早くこっちに来いと血相を変えて大きく手招きしている。
その様子が随分、切羽詰まっているではないか。何か嫌な予感がする。
もしやと思って後ろを見て愕然とする。
大きな津波が迫ってきていた。高さはビルの3階分ぐらいありそうだ。15mを裕に超える。
舞蘭はいつもより速く泳げないようだ。普段は俺よりも早いのだが、おそらく恐怖のせいだろう。身体がこわばっているのだ。俺は舞蘭に頑張れと声を掛ける。
そうして舞蘭の隣につく。
「舞蘭、俺の泳ぎに負けてどうする。お前は天才児だぞ」
その声に舞蘭が憤然と泳ぎだす。この子の負けん気を利用した。
津波との命を賭けた競争だ。
二人で必死に泳ぐ。俺もありったけの力を振り絞る。当然、背後に大津波を感じるが、前を見るしかない。
「舞蘭、もう少しだ。絶対大丈夫だ」
舞蘭は必死で泳ぐ。
「舞蘭、頑張れ!」
舞蘭が泣きそうな顔で俺を見る。
「大丈夫だ。俺が付いてる」
舞蘭がうなずいて必死に泳ぐ。ようやく陸地が近づいてきた。ほんの数メートルなのだが、数百メートルに感じる。そうしてなんとか、陸にたどりついた。
磯に付くと鵜飼が舞蘭を引っ張り上げる。おいおい俺はほったらかしか、俺は一人で這うようにして陸に上がったところで、津波が押し寄せてきた。
「逃げろ!」
津波ごと陸地に押し上げられたようだ。それからは、ばたばたと陸に向かって走っていく。津波を避けながら、なんとか港の高台までたどり着けた。高台の直前で大きく波しぶきが上がっていた。
助かった。津波はそれ以上来ることはなかった。
鵜飼が言う。
「これだと震度6を越えたかもしれないな。ここまで大きいのは珍しい」
俺たちは言葉を発することも出来ずに、ただ、はあはあと息をするだけだった。
港は津波のせいで水浸しになっており、船も一部は沖に流されたようだ。
先ほどの洞窟があったあたりを見ると、地形が変わるほどの崩落があったようだ。以前の岩場ではないように見える。あれだと洞窟はつぶれてしまったかもしれない。
俺は舞蘭に小声で話しかける。
「もう金塊は無理だな……」
舞蘭は泣きそうな顔だ。
「長谷川に楽をさせようと思ったのにな。あれだけの金塊があれば、お前は小説に専念できただろうに……」
「舞蘭……」
俺のために金塊探しをしてくれたのか、この子のことを誤解していた。
「舞蘭、俺はもっと多くの金も、平気でどぶに捨てるような男なんだ。だから気にするな。こういう運命なんだよ」
俺は笑顔で返した。舞蘭は不思議そうな顔で俺を見た。
ぱんぱんのウェットスーツで、そういう顔をすると子狸に見えた。
島唄の謎もあったのですよ。ここまで気付いた読者はいないのではないでしょうか?実際、当て込むのに苦労しました。当時の島唄のような歌詞については一部AIも利用していますが、ほぼ自分で考えてます。




