オンライン
江南の運転で黄金壮に戻った俺は、てっきりこれから夕食になるものだと思っていた。ところが何故か舞蘭の部屋に来るようにとのお達しが来た。
こんなことは初めてだった。あの食い意地の張った、食べ物命の舞蘭がどういうことだと思ったら、舞蘭にはこれから先約があるそうだった。
舞蘭は眉間にしわを寄せて言う。
「食事が遅れることはあってはならないんだが、予定が立て込んでいてどうしようもない。なにせ7日間で島を離れないとならないからな」
それは確かにそうなんだが、まだ2日間も余裕があるはずだった。いったい何をやろうというのか、俺にはよくわからない。
「それでこれから何をするんだ」
江南が時計を見て言う。
「オンラインで会話をします」
「オンライン?」
「そうです。鹿児島の施設にいる宝荘の曾祖母と話をします」
「出来るんですか?」
「施設の方に事情を説明して了解をいただきました。施設の方が立ち会えばなんとかなりそうです。それが18時からの約束なんです」
俺は時間を確認する。なるほど、そういうことか、あと数分で18時になる。部屋のテーブルには、舞蘭がいつも使っているノートパソコンが起動していて、会議用アプリが立ち上がっていた。
舞蘭がパソコンの前で待機する。
俺は江南に聞いてみる。
「曾祖母っておいくつなんですか?」
「95歳だそうです」
「ずいぶん、お歳ですね。大丈夫なんですか?」
「どうですかね。施設の方は認知症だとはおしゃってましたけど」
痴呆気味の95歳とギフテッドの11歳か、興味深い会話になるだろうな。
18時になってアプリが立ち上がった。
画面には施設の人だろうか、若い女性が顔を出した。
「ああ、こんばんは、イトイケアセンターの阿川と申します。えーと江南さんですか?」
「いえ、私は守須と申します。私が話をします」
「ああ、そうですか。わかりました。今、お連れしますね」
画面におどおどしながらお婆さんが映ってくる。
きょろきょろしながら、どこか不安そうだ。施設の阿川がお婆さんに話をする。
「篠さん、こちらに映ってる人と話ができますよ」
篠と呼ばれたお婆さんが画面を見る。そこに舞蘭が映っているのだろう。
「あれまあ、まんまるなめらべだこと」
「お婆さん、私は守須舞蘭と言います」
「あんれまあ、しゃべってるよ」
施設の阿川がフォローする。
「大丈夫ですよ。この画面に話しかけてくださいね」
「こんばんは、京子です」
きょろきょろしながら、妙に緊張気味に話をする。パソコンに魂を抜かれるとでも思っているのだろうか。
「京子さん、少し話を聞かせてください」
「ああ、はいはい、なんでも聞いて」
そうして11歳と95歳がオンラインで会話をするのだが、確かに痴呆気味だが、こと昔の話になるとしっかりと記憶があるようで、舞蘭の質問に対し、的確に話をするのだった。
やはり舞蘭にはすべてがお見通しだったのだ。
老婆の話は恐るべきものだった。




