座敷牢
俺たちは荒木刑事と雷雲寺に戻る。槇原医師は患者を待たすわけにはいかないと言う理由で、診療所に戻ることを認められた。ここでひとまず全員無罪放免となった。まあ、島にいるので逃亡の危険はないということだろう。
荒木刑事の案内で座敷牢の場所まで来る。
先ほどは遠くから見ただけだったので、近くで見るのは初めてだった。
座敷牢は板の間からは地続きで作られており、8畳間の奥に4畳半ぐらいの牢屋があることになる。ただ、その背後は岩壁で囲われている。木製の9㎝程度の角材が約20㎝格の格子になっており、これだと手を出すのがやっとの幅だ。頭を入れることすらできない。
「これは欅だな。少なくとも200年は経過している」
舞蘭が座敷牢を触りながら言う。確かにそこにある木は黒ずんでおり、相当な年数が経過していることがわかる。
「何のための座敷牢ですかね」
舞蘭は黙っている。
荒木刑事が板の間に積んであるつづらを指さす。
「守須さん、これです。この中に古文書があります」
「うん、これから解読する」
古文書はけっこうな量があった。蔵にあったものと同じような体裁の文書が、つづらの中にあった。つづらは4段にも積み重ねられて、高さは2m以上になる。それらで8畳間の隅を埋め尽くすほどだった。
江南はどこか真剣な顔で座敷牢を凝視していた。
舞蘭がその江南に何か小声で話をしている。二人だけで話しをするので俺は遠慮する。
その江南が俺のところに来る。
「私はちょっと別件でここを離れます」
「はい、わかりました」
江南は荒木に話をして、そこから出て行く。確かに座敷牢に美女は似つかわしくない。
「じゃあ、長谷川手伝ってくれ」
「はい」いつからか俺は助手扱いになっていた。
それからは蔵の作業以上に俺はこき使われる。つづらを順番に降ろして中を開けてから、舞蘭に古文書を渡す。さらに舞蘭が速読したものを指示をもらって写メに撮る係にもなったのだ。読む速度に俺の写メが追い付かない。
「舞蘭、この古文書は何なんだ?」
舞蘭は速読に必死だが、マルチ人間なので俺の質問にも答える。
「あの蔵の中にあったものだよ。私たちに見せたくなかったものだ」
「ちょっと待て、こんなに量があるのか?」
「そういうことだ」
俺は唖然とする。和尚はこれだけの古文書を秘密にしたかったのか。それはいったいなぜなのだろうか。舞蘭から渡されるミミズがのたくったような文字を見ても、何のことだか、さっぱりわからない。
能天気な荒木刑事はいつの間にかいなくなっていた。まさにZ世代だな。俺もそうだけど、責任感の無さは俺を越えると思う。
舞蘭は怒涛の読み込みを続けていく。このギフテッドの集中力は半端ない。声を掛けるのもはばかられるほどだ。
洞窟の中にいるので周囲の様子はよくわからないが、そろそろ夕方になったと思った頃、舞蘭が手を止めた。
「どうした?」
「お腹が空いた」
まあ、そんなことだろうと思った。
「じゃあ、飯にするか?」
「そうだな。一通り古文書は見終えたからな」
俺も気づかなかったが、確かにあれだけあった古文書はすべて場所が移動されていた。つまりは読み終えたということか。
「古文書には何が書いてあったんだ?」
「それも含め、まだ話せる段階じゃないな」
「そうなのか……」
何か舞蘭に考えがあるようだ。
「じゃあ、宿に戻るか?」
「うん、江南に迎えに来てもらおう」
「そうだな」
俺は先ほど舞蘭が江南に何を言っていたのかを聞いてみる。
すると舞蘭は、これからわかるとその返答も拒んだ。そしていつもの笑みを浮かべた。




