捜索
こんな時でもお腹が空いたという舞蘭のために、会長宅のお手伝いさんが急拵えでおにぎりを作ってくれた。舞蘭はそれを美味しそうに頬張っている。舞蘭以外はあの死体が目に浮かび、食欲がない。
警察はすぐに現場に駆け付け、俺たちは会長宅の応接室に閉じ込められていた。
島田警部は度重なる殺人事件に、発狂するのではないかというような顔をしていた。実際、この短期間でありえないほどの連続殺人なのだ。
島田警部は俺たちのせいだと言わんばかりに、詰問を繰り返すが、こっちも訳が分からない。返答するたびに眉間にしわが寄る。こちらとしても如何ともしがたいのだ。俺はヒヤヒヤするのだが、舞蘭はどこ吹く風とばかり平然としていた。
今は応接室には島田は不在で、舞蘭と荒木刑事が話をしている。若い荒木刑事は舞蘭と仲がいい。この若い刑事はどこか今風で、島田と比べると緊迫感がない。島田がイライラしている要因の一つは彼なんだろうなとも思う。
「もう、島田警部は寝られないみたいですよ。上からもガンガン言われてるみたいだし、このままだと心労で亡くなるかもしれません」
舞蘭は3個目?のおにぎりをほおばる。
「私に任せればいいのに」
「任せるって、何をです?」
「事件の解決。大方、見つかった古文書の解読に手間取ってるんだよね。私ならそれも出来ますよ」
「あの雷雲寺にあった古文書ですよ」
「もちろん、簡単です」
「マジですか?」
舞蘭がうなずく。俺もそれを援護する。
「あの蔵にあった古文書も彼女が解読しました」
「うわ、それはすごいな。今、大学の先生に依頼しようということになってるんですよ。ただ、その先生によるといつになるかわからないって言うんで、島田さん頭を抱えてました」
「スピード命です。私がやりますよ」
舞蘭はどこかの水道工事屋のような自信に満ちた顔だ。
「島田警部に話してみますよ」
荒木が島田のところに走っていく。こういう能天気な所が島田の癇に障る気がする。
するとちょうど庭の方で声がしだした。
どうやら拳銃が見つかったようだ。
槇原医師が俺を見る。
「庭に拳銃があったのかな」
「見てきましょうか?」
「そうだね。お願いするよ」
俺は部屋を抜け出して庭に出てみる。ちなみに島田警部からは部屋を出るなと言及されていたが……。
俺の後ろを隠れるようにして舞蘭も付いてきた。舞蘭はダメだと言っても聞かない。子持ちシシャモのようにぴったりと俺に貼り付いて来る。
あらためて庭に出ると、そこはまるで観光庭園だった。芝は南国風の丈が長めのものだが、きちんと手入れがされており、そこにソテツや例のガジュマルの樹々がきちんと植えられている。南国風のテーマパークを思わせる出来栄えだ。
警察官たちが集まっているのは、寝室があった下側になる。鑑識が盛んに写真を撮っていた。
見上げると寝室の廊下側の窓は閉まっていた。これは先ほどから変わっていない。
これをどう考えればいいのだろうか。犯人は殺害後、すばやく窓を開けて外に投げたということだろうか。そうなると部屋の鍵はどうやって閉めたのだろう。それよりも俺たちとすれ違ってもいない。増々謎は深まる。
島田警部が荒木刑事と話をしていた。俺たちに気付く。
「ああ、部屋にいろと言っただろ」
「申し訳ないです。騒ぎが気になって。それで拳銃が見つかったんですか?」
お疲れ気味の島田が渋々話す。
「まあ、そんなところだ」
舞蘭が話す。
「拳銃はトカレフでしたか?」
島田が驚く。
「何故、知ってるんだ」
「遺体の状況から見て7.62弾あたりだと思っただけです」
島田がしまったという顔になる。拳銃の種類を自分でばらしてしまった。
島田は仕方が無いと話しだす。
「まあ、いい。ところで荒木刑事から聞いたが、君は古文書を読めるそうだな」
「はい、大丈夫です。大学の先生ほど完ぺきではありませんが、読むことは可能です」
「じゃあ、非公式だが雷雲寺にあった古文書を解読してほしい。あくまで非公式にだ」
舞蘭はにやりとする。
「もちろんです。素人ですから非公式に読み込んでみます」
これで渋々島田が了承したことになる。やはり相当に切羽詰まっているのだろう。
「拳銃はそこに捨ててあったんですか?」
「それは捜査上の秘密だ。おい、荒木、雷雲寺に連れていけ」
「はい」
拳銃名を言ってしまっているのに、捜査上の秘密も何もあったものじゃない。融通の利かない鬼瓦だ。
俺たちはここから雷雲寺に戻ることになった。




