表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/31

曇り目の鬼 面を撃て

  ちょうど昼近くになって、いつもなら舞蘭はお腹が減ったと騒ぎ出す時間なのだが、今日に限ってはそんなそぶりを見せない。舞蘭は先ほどからずっと考え事をしていた。

 この事件もいよいよ佳境に近づいているといったところなのだろう。この食い意地の張った子供がご飯を言い出さないのはおかしいのだ。何かを掴んでいる様だ。舞蘭が言うには、まずやるべきことは自治会長宅に早く行くことだと言う。

 江南の運転する車で自治会長宅に到着した。

 江南がインターフォンを鳴らすと中から、はい、どちら様ですか、と女性の声がする。

「はい、先日お邪魔しました江南と申します」

『ああ、はい、少しお待ちください』

 しばらく待つと返事が来た。

『どうぞ、開けてお入りください。門は開いております』

 江南が門を開け、3人でそのまま玄関までの坂道を歩いて行く。

 到着したと同時に扉が開くと、思いもよらない人物が出てきた。

 診療所の槇原医師だった。槇原も驚く。

「ああ、どうも。どうしました?」

 江南が言う。

「自治会長さんに確認したいことがありまして……」

「ああ、そうですか」

 舞蘭が槇原に聞く。

「先生はどうされたんですか?」

「ああ、この近所に来たものですから、会長の健康状態を確認に来ました」

「会長はどこか、お悪いんですか?」

 ええ、まあ、とお茶を濁す。これは医師の守秘義務というやつだろう。

 するとその時だった。

 屋敷の中から凄まじい叫び声が聞こえた。

 うぉおおおおおおおおお。

 そしてその後にバーンという乾いた銃声が響きわたった。

 4人が顔を見合わせた後、槇原が走り出す。我々もそれに追従して銃声がした現場に急ぐ。

 玄関の脇に、どこかの劇場にでもありそうな立派な階段があり、そこを走りながら槇原が言う。

「おそらく2階の寝室だと思います」

 俺たちも階段を走って登る。舞蘭は遅れ気味だがもう待ってられない。

 2階に上がると広い廊下が奥まで続いていた。外に向かって窓があり、その窓はすべて閉まっていた。そして反対側に部屋が続いていた。窓を閉め切った理由としては、この屋敷全体に空調が効いているからだろう。

 廊下の一番奥が寝室のようで、部屋の前には心配そうな顔でお手伝いさんがいた。

 槇原が声を掛ける。

「会長は中ですか?」

「はい、先生と話をした後、部屋で休むとおっしゃって……」

 槇原が扉に手を掛ける。

「開かない」

 お手伝いさんは困り顔だ。

「中から鍵が掛かっているようで……」

 槇原が俺の方を見る。俺に確認しろというようだ。

 俺もドアノブに手を掛けるが、やはり開かない。

「壊しますよ」槇原はそう言うと診察用のバッグから打診器を出した。脚気を診る時に膝を叩く器具だ。

 思い切りドアノブを叩く。数回打撃を加えるとドアノブが壊れて外れた。

 扉を開けようとするが、まだ鍵が掛かっているようだった。槇原が壊れた部分を覗き込む。

「内側からサムターンの鍵が残っていますね」

 そういうと再びバッグから今度はハサミを取り出した。それを中に入れてサムターンを回した。カチッと音がして鍵が外れる。

 急いで扉を開けて中に入った。

 寝室は広かった。俺のアパートの1DKがすべて入るほどだ。20畳近い洋間で奥にはベッドがあった。

 そしてその上で仰向けになった自治会長がいた。

「会長!」槇原が駆け寄る。

 俺たちも近寄って見るが、一目瞭然だった。頭部の上半分が破損した状態で、脳漿が辺り一帯に飛び散っていた。

 お手伝いさんが悲鳴をあげた。

 槇原が指示を出す。

「江南さん、子どもは見ない方が良い。あと警察を呼んでください」

 江南がうなずいて、目をらんらんと輝かせている舞蘭を部屋の外に連れ出す。

 俺はこの部屋に残っているはずの犯人を捜す。槇原も同じ思いで広い室内を見るが、そこには人影もない。

 部屋の中央端に大きなベッドが壁に向けて置いてある。

 人が隠れられそうなところはベッドの下か、部屋に取り付けられたクローゼットの中あたりだ。俺は恐る恐るベッドの下を見る。誰もいない。槇原を見ると、彼はクローゼットを開けて中を見ると、こちらに向けて首を振る。

「長谷川さん、拳銃を探そう」

 そう言われてはっとする。そうだ、拳銃はどこだ。部屋の窓を見ると見事に締まっており、ここは完全な密室になっていた。

 俺は周囲を探す。さらにもう一度ベッドの下も注意深く見る。

 無い、何もない。

 槇原医師はベッドわきの水差しの乗ったチェストや大型の書棚も調べていた。

「長谷川さん、見つかりましたか?」

「いえ、何もないです」

 槇原も首を振る。

 俺はもう一度、今度は慎重に室内を調べてみる。槇原が見落とした可能性もあるので、クローゼットの中も見た。高そうなスーツ類はあったが、拳銃は見当たらなかった。床も見るが、ふかふかの絨毯の上はゴミもないぐらいだ。

 ベッドは年寄りには似合わないダブルベッドサイズで、シーツは血まみれだった。布団や枕をどかしてみても、そこに拳銃はなかった。ベッドの下にも無い。あとベッド脇にある大型の本棚を見るが、しっかりと本が詰まっていた。伸びあがるようにして本棚の上を見たが、そこにも何もなかった。

 カーテンのかかった広い窓はあるが、そこにはシリンダー錠がしっかりとかかっている。

 いったい、拳銃はどこに消えたのだろう。いや、それよりも犯人はどこに行ったのか。

 槇原はシーツを自治会長の遺体の上に掛けた。

「長谷川さん、私は外を見てきます」

 槇原はそう言うと部屋を出て行った。

 どう考えてもおかしい。この屋敷自体は完全な密室状態だ。犯人が逃げたとすれば階段しかないことになる。俺たちは誰ともすれ違わなかった。窓も閉まったままだし、どうやって逃げたというのか。部屋の隠れそうなところも見た。ベッドの下も見たし、クローゼットや本棚も注意深く見たのだ。

 舞蘭が江南と部屋に入って来た。槇原医師の計らいでもう遺体を見ることは無い。

 舞蘭は唄を歌いながら、室内を観察していた。


 南蛮人 早よう行け

 風せまる 闇の中

 館が燃ゆる 射抜かれる

 曇り目の鬼 面を撃て

 火の粉舞う夜 闇の中

 血の雨じゃ 黄金こがね降る

 火の粉舞う

 館が燃ゆる


 4番目の歌詞が実行された。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ