宝荘
舞蘭のいびきも収まって、明け方になってようやく、うとうとしだす。
そして夢を見た。ああ、ここは地底湖か、何故だか俺は潜っている。まだ初心者のスクーバ・ダイバーなんだぞ。無理は出来ないし、そのうえ運動音痴なんだ。そんな状況なのだが真っ暗な湖を深く深く潜っている。そして湖の底に何かを見つけた。
あれは何だ。金塊か、いや、違うな。なにやら動物のような、ああ、あれは人間じゃないか。俺は急いでそこまで潜っていく。だが、もどかしいように体が動いてくれない。うう、やはり初心者にはきつい。
それでもようやく人体らしきものの近くまで来た。うつ伏せになって湖底に沈んでいるようだ。俺はその人間を起こす。うつ伏せだった身体が反転して、その人間の顔があらわになる。
何と、それは俺自身だった。
なんでだ!
その瞬間に後ろから首を絞められた。く、苦しい。た、助けてくれ。俺はもがく。もがくが首はどんどん締まっていくではないか。く、苦しい。た、助けてくれ。
はっとして目が覚めた。ところが目が覚めても相変わらず首が苦しい。
俺の首には舞蘭の桜島大根のような足が乗っていた。俺はその大根を避ける。
「おい、舞蘭、起きろ、朝だぞ」
寝ぼけ眼で舞蘭が起きた。
「え、もう朝か……」一瞬ここがどこかわからないようだ。周囲をきょろきょろ見ている。そして何を言うかと思ったら、「さあ、朝飯だ」そう言うとどんどん歩いて出て行った。
俺に対する感謝はないのか、まったく呆れるしかない。
朝食後、昨日おかみから聞いた宝荘を訪ねることになった。先方にはおかみさんから、あらかじめ電話をしてもらった。神照島の民宿は前頭港に4軒あって、ほとんどが港近くにある。宝荘は黄金荘からは数百メートルの場所にあった。
黄金壮ほど大きくはないが、2階建てのアパートのような宿だった。
「おじゃまします」
江南を先頭に中に入って行く。
すぐにおかみさんらしき女性が顔を出した。
年の頃は50歳ぐらいだろうか、黄金壮のおかみとは同年代に見える。
「黄金壮のおかみさんから紹介されました、江南と申します。少しお話を聞かせてください」
「はい、聞いてます。今、お茶を出しますね」
おかまいなくと言ったが、おかみさんは厨房からお茶とお茶菓子を用意してくれた。
舞蘭はさっそくその黒糖のお菓子を頬張っていた。さっき朝食を食べたばかりなのに……。
江南が全員の紹介と名刺を渡してから口火を切る。
「ひと月前にこちらの宿に、弊社の記者がお世話になったと聞きました」
おかみは名刺を見ながら言う。
「あの人、週刊ジャーナルの記者さんでしたか」
「ええ、フリーの記者なので、週刊誌の名前は出さなかったのかもしれません」
「そうですね。記者だとはおっしゃってましたね」
舞蘭が質問する。
「それでこちらからいなくなったと聞きました」
「ええ、戻らないかもしれないとは言ってましたね。なんでもいったん内地に戻るっておっしゃってましたから」
「内地ということは鹿児島ですね」
「そうです。こちらで調べた内容を確認したいと言うことでね」
内容を確認とは何だろう。舞蘭の質問は続く。
「彼は神照島の金塊を探していたんですよね」
「そう言ってました。でもそれは無理みたいだと早々にあきらめていましたよ」
「島の周辺を調査したんですよね」
「そのようです。島唄や島民にも熱心に取材していましたから」
「あきらめたのに何を確認しようとしたんですか?」
「この島の秘密がわかったとか言ってましたよ」
「この島の秘密?」
「ええ、それで古い話を知ってる人間はいないかという話でした。昔の話ならここに住んでいた曾祖母が知ってるかもと話をしたら、是非にと言われるので紹介しました。曾祖母は内地の施設にいるんです。それで記者さんは出て行きました」
「曾祖母さんですか?」
「ええ、もう90歳を越えて何かあったら大変だということで、内地の施設に移ってもらったんです」
「その記者は何を知りたがったんですか?」
「なんて言ったかな、確か繁りとか、なんとか言ってたかな」
「繁り夜ですか」
「ええ、ええ、そうです。繁り夜です」
話がつながった。行方不明の記者は『繁り夜』をしらべていた。つまりはそれが特ダネにつながったということだ。
「そのおばあちゃんの居場所はわかりますか?」
「ええ、わかりますよ」そう言うと奥に引っ込んでいく。
「舞蘭、話がつながったな」
舞蘭は例の笑顔を見せる。
「俺たちも鹿児島に戻るのか?」
「いや、それをやってる余裕はないだろ。我々の目的は1週間での宝探しだ」
「じゃあ、後でやるのか?」
舞蘭は答えないが、笑みを浮かべる。何か策はあるようだった。
おかみさんが持ってきたパンフレットを、舞蘭はスマホに撮る。曾祖母の名前も確認した。
これで聞き取りは終了したということで、おかみさんに挨拶して宿を後にする。舞蘭は颯爽と歩く。
「じゃあ、いったん宿に戻るか」
「これからどうする?」
「おそらく警察が何かを掴んだはずだ」
「警察がか?」
何だろう、警察が何かを掴むことができたのだろうか。そして舞蘭は何かわかっているのだろうか。確かに舞蘭は確信に満ちた顔をしていた。




