真治の妄想
黄金壮に戻った俺は、部屋でパソコンを使って原稿を書くことにする。
そうして事件を推理してみた。
舞蘭ではないが、こちらも推理作家としての意地がある。舞蘭は何かわかっている様だが、俺には何も見えてこない。まずは事件を振り返って見る。
前提として、事件が島唄に倣って起きているのは間違いない。
ただ何故、島唄の通りに殺人を犯す必要があるのだろうか。これこそ見立て殺人の基本だ。何か理由があるはずなのだ。
見立て殺人でよくあるのが、犯人の本当の目的をカモフラージュするものがある。本来はAという人物を殺したいのだが、それだと犯人がわかる場合、関係のないBまでも見立てで殺して、犯行の目的をごまかすものだ。今回もそれに該当するのだろうか。
そして、あの島唄は復讐の唄だ。江戸末期に難破船で島に流れ着いた男について歌っている。それがはっきりするのは4番目の歌詞だ。
南蛮人 早よう行け
風せまる 闇の中
館が燃ゆる 射抜かれる
曇り目の鬼 面を撃て
火の粉舞う夜 闇の中
血の雨じゃ 黄金降る
火の粉舞う
館が燃ゆる
歌詞に南蛮人とあることから、それが伺えるのだ。これは難破船から助かった英国人、ジョン助のことを歌っているはずだ。そして当時、ジョン助に何かが起きたのだろう、そのせいであの歌詞にあるような殺人事件が起きたのかもしれない。舞蘭が古文書を読みたがった理由もそこにある気がする。
ただ、それが再び現代に起きているのは何故なんだろう。今、復讐を行う理由があるのだろうか、あの殺された3人が何をしたというのだろうか。その理由がわかれば少しは犯人像に近づく気がする。
また、それよりも不可解なのは、すべてが密室殺人だということだ。
犯人はまるで煙のように犯行現場から消えている。ここまであざやかな密室殺人があるだろうか。ガス人間などいるはずもない。どこかにトリックがあるはずなのだ。そしてさらに疑問なのは、密室にする必要性がわからない。犯人は何か意図があって密室殺人にしているのだろうか。
いや、ひょっとするとこの事件は、本当にジョン助の怨念の仕業なのかもしれない。復讐に燃える南蛮人が現代によみがえってきて、島の重鎮たちを次々に闇に葬っているのだ。島唄の通りに殺人が行われているのがその理由だ。
はたして舞蘭は何か気づいているのだろうか、今回の事件で一番得体の知れないのは舞蘭かもしれない。
いくら考えてもわかるはずもない。これまで事件に巻き込まれても、自分で解決したことがない。俺は他人任せのミステリー作家なのだ。ああ、考えても仕方ない。もう寝よう寝よう。元来、俺はあきらめが早い。
電気を消し、布団に入ってうとうとしたところで、なぜか扉が開いた気配がする。こんな時間に訪問者がいるのだろうか。ただ部屋は薄暗くてよくわからない。
そして誰かがそろそろと部屋に入ってくるではないか。なんだ、俺を殺す気か……まさかジョン助の怨霊が来たのか。じっと息を殺していると、わ、わ、なんと布団に入ってくるではないか。た、助けて!
「長谷川、怖い夢を見た……」
よくみると怨霊とは似ても似つかない、子豚のような舞蘭だった。
「舞蘭、どうした?」
「怖い夢をみたんだ。隣で寝かせてくれ」
そう言うと俺の隣で寝ようとする。
「ちょっと待て、江南はどうした?」
舞蘭は答えない。しばらくしてぼつぼつと話し出す。
「お化けが襲って来たんだ。逃げても逃げても追っかけてくるんだ」
なるほど、俺にもおぼえがある。子供の頃、怖い夢は定番だった。俺の場合は怪物だったが、舞蘭はお化けなのか。考えてみれば、舞蘭もこの殺人事件で少しは恐怖を覚えていたということか。
舞蘭も人の子だな。少し安心した。言うことがいっぱしで、まるで大人のような振舞いだったが、中身は11歳の子供ということか。さらによくよく考えると舞蘭には父親がいない。母親も世界を飛び回っているようだ。俺のような大人の男に頼りたいと言う気持ちはわからないでもない。まあ、仕方ないな。大人の男の心意気を見せてやろう。
「大丈夫だ。俺がいるからな」
聞いているのかいないのかはわからないが、舞蘭はうなずいたような気がした。
ちなみに俺はロリコンではない。ましてや肥満児に興味はないのだ。俺の対象は成熟した大人の女性だ。まったく相手にされないけど……
すぐに舞蘭の寝息が聞こえてきた。
そしてそれがいびきに変わる。
子供のくせにいびきかくなよ。
結局、その後は、ほとんど眠れなかった。




