食堂
夕食後、俺は舞蘭たちと食堂でくつろいでいた。
ただ、不思議なことに、いつもはたむろしている刑事たちがいない。
「刑事たちはどこに行ったんだ?」
満腹になった舞蘭は含み笑いだ。
「事件のヒントをやったんだ?」
「ヒントって何だ?」
「例の島唄だよ。警察は島唄を知らなかっただろ、だからそれを教えたんだ」
「それで歌がわかったら、なんでいなくなるんだ?」
舞蘭は眉間にしわを寄せる。太ってるのでしわは明確には寄らないが……。
「3番の歌詞だよ」
「3番?」
ああ、もうと言いながら舞蘭が歌いだす。
楠よりも 重きもの
石投げて 夢砕く
若木の夢よ 早うふくれ
楠の枝もて 抱き砕け
祈りの頭 打ち据えよ
冠となれ 冠となれ
編んだ綿
兜を捨てる
「その歌がどうしたって?」
少しあきれ顔で江南が言う。
「歌の解釈を考えてみてください」
「解釈?」
俺は古文は苦手なんだよ。国文科だけどね。
仕方ないと江南が解説する。
「祈りの頭打ち据えよ。冠となれ冠となれで、誰か思い浮かべませんか?」
祈りの頭……、祈り、冠……、ああ、なるほど。
「和尚さんか」
「そういうことだ。この歌からすれば次は和尚が狙われる番だろ。それを島田に教えたんだ。今頃、警察は寺の周辺を警備しているはずだ」
「じゃあ、次は和尚が狙われるのか?」
舞蘭は例の笑みを見せる。その顔、こわいんだけどな。
おかみが食後のデザートを持ってくる。舞蘭の目が輝く。いやいや満腹じゃないのか。
島バナナとパッションフルーツの盛り合わせだ。
「はい、どうぞ」
早速、舞蘭は食べだす。
「おいしいな」
おかみさんは笑顔だ。舞蘭が口をもぐもぐさせながら質問する。
「おかみさん、今日、鍾乳洞に入ってみたんだけど」
「え、鍾乳洞?あそこは立ち入り禁止じゃなかった?」
「いや、警察の依頼で入ったんだ。地底湖の探索を頼まれた」
舞蘭は平気で?をつく。
「ああ、そうですか」
「地底湖の脇に献花みたいな百合の花が置いてあったんだけど、何か知ってますか?」
「百合の花?」
おかみが少し考えている。
「ああ、ひょっとして20年以上前の話かも」
「何かあったんですか?」
「ええ、あんまり大事にはならなかったんだけど、当時、寺に住み込みで働いていた人が、地底湖で亡くなったって噂があったのよ」
「そうなんですか?」
「和尚さんの知り合いだって言うんだけど、ほとんど島の人間は見てなかったのよね」
「見てなかったって、どういうことですか?」
「これも噂なんだけど、顔かどこかに傷かあざがあるとかで、人前に出ない人だったらしいの。確か1年ぐらいしかいなかったって聞いたわ」
「誰もその人を見なかったんですか?」
「うちのお父さんは少し知ってるみたいだったけど、他は誰も知らなかったな」
「男ですか、女ですか?」
「それもよくわからないの」
俺も質問してみる。
「じゃあ、あの百合の花は和尚が上げているんですか?」
「どうかしらね」
「でも亡くなったんですよね」
「そうね。寺で葬儀はしたみたいだったけど、それも密葬でね。詳しくは和尚に聞くしかないけど、和尚もあまり話したがらなかったな」
不思議な話だ。
「他に誰か知っている人はいないですかね?」
「どうかな。自治会長さんは知ってるかも、会長は島のことなら何でも知ってるから」
舞蘭がおかみに聞く。
「おかみさん、繁り夜ってわかりますか?」
「繁り夜……」
おかみは考える。
「聞いたことはある。たしか昔の言い伝えみたいな話だったと思ったな。島の伝説みたいな話だったかも。よくは知らないな」
「詳しく知ってる人はいますか?」
「古い話だから、知ってるとすれば和尚さんかな」
「和尚も知らないって言ってました」
「そう」
俺はもう一つ聞きたかったことを質問してみる。
「我々よりも前にうちの週刊誌の記者が島に来たそうですね」
「ええ、そうね。ご存じでしょ?」
「いえ、知らなかったんですよ。出版社のほうから話はなかったんです」
「そうなの。ちょうど一か月前ぐらいかな。2週間ばかり島にいたと思ったけど、急にいなくなったみたい」
「ここに泊まってたんですか?」
「ここじゃなかったの。でもその民宿の話だと急にいなくなったって言ってたかな」
「じゃあ、本当に行方不明なんですか?」
「出かける話はしてたって聞いたから、行方不明じゃないって話だったけど、どうしたのかな」
「泊まっていたのは、どこの民宿ですか?」
「宝荘。すぐ近くよ」
宝荘か。これだと舞蘭は行く気なんだろうな。先ほどから顔つきが変わっている。いつもの灰色の脳細胞を作動させている感じだった。
そこへ血相を変えたご主人が帰ってきた。
「大変だ。和尚が殺された」
3番目の唄が実行された。




