昼食
びっくりするほど、げんきんな子供だ。舞蘭は和尚の後ろをスキップしながら付いていく。食事は舞蘭にとっては最高の楽しみのようだ。ちなみにスキップは相撲取りの四股みたいに見えるが……。
前回打ち合わせをした大広間の座卓に座って和尚の料理を待つ。
「長谷川が取りに行ったほうがよくないか?」
確かに舞蘭の言うことにも一理ある。
わかった、と台所に向かう。
台所に入って驚く。実に広く、かつ歴史を感じる台所だ。
昔ながらの板の間で、天井板は無く、吹き抜けの屋根裏が見える。屋根裏はかまどから出たすすがこびりついたのだろう、真っ黒になっていた。レンガで出来たかまどが4台並んでいる。ただ、現在はガスコンロがかまどの上に載っており、かまどを使うことは無いようだ。大きな冷蔵庫もあり、電子レンジもあった。江戸時代の中に近代的な機器があり、そのアンバランスぶりが面白い。
和尚が忙しそうに、テーブルの上の皿に料理を盛り付けていた。
「和尚様、運ぶのを手伝います」
「ああ、ありがとう。じやあテーブルに載っているものを運んでください」
テーブルの上には用意されたごちそうが並んでいた。3人分とは思えない量だ。この和尚は、舞蘭の食い意地を知っているのだろうか。まあ、あれだけ太っているのだから気が付くか。
大きなお盆に載せて料理を運ぶ。
それを見た舞蘭の目が輝く。
和尚も料理を運んでくる。まるで晩餐会のような料理だ。
座卓いっぱいに広がった料理を前に、和尚が説明する。
「郷土料理というやつです。お口に会うかわかりませんがね。このそばは島らっきょうとタケノコの油ぞうめんというものです。茹でた素麺を島らっきょうやタケノコと一緒に、油と出汁で炒めました。たくさん茹でたので存分に召し上がってください」
「和尚さんすごいですね」舞蘭はよだれを垂らさんばかりだ。
「みそ汁はアオサ(海苔)と島豆腐の具が入っています」
さらにメインディッシュとして天ぷらもあった。
「ゴーヤと島の野草、カボチャなどを厚めに切って揚げた天ぷらです。まあ、どれも素人料理なので味は保証しかねますよ」
笑顔の和尚の説明が終わるや否や、いっただきまーーーす、と舞蘭ががっつく。大食い大会じゃ無いんだから、そこまで慌てなくていいのだが、舞蘭はすさまじい勢いで食べていく。和尚はその様子をにこやかに見ている。
俺も食べてみる。和尚は謙遜していると思ったが、それどころではなかった。玄人はだしのうまさだ。頬の痛みを忘れるぐらいに美味しい。天ぷらは肉厚でからっとあがっており、そばは独特の風味で舌をうならせる。思わずうまいと言ってしまった。
和尚がうれしそうに話す。
「それで古文書はどうですか?欲しい情報は見つかりましたか?」
鼻から蕎麦でも出そうな勢いだった舞蘭が、咀嚼をしながら話す。
「和尚さん、あれだけの資料を集めるのは大変だったでしょうね。神照島だけではない、この周辺の島々の古文書もありました。さらには本土の島津藩のものまで網羅されていました」
和尚は素直に驚く。
「そこまで気が付きましたか、いやあ、驚きました。実はそうなんです。先祖代々そういった資料をここに集めていった結果が、あれほどの量になったようです。それでお目当ての埋蔵金については何かわかりましたか?」
「まだです。ただ、文政7年に外国人らしき人間の記載がありました。これはおそらくサンライズ号の乗組員だった人間の可能性があります」
「そうですか、見つけましたか……。それで古文書はどのくらい見たのですか?」
「まだ、三分の一ぐらいです」
和尚は目をむく。
「いや、それはありえないでしょ。あれだけの量ですよ」
俺は舞蘭をフォローする。
「いえ、和尚様。棚にあったつづらの数からいって、そのぐらい開けました」
和尚に言葉は無い。ただ、驚いている。舞蘭が質問する。
「和尚さん、不思議なのはこの島の人間の家系図のようなものが無いことです。島民の歴代の長についての記載はあるのですが、それの系統図のようなものが無いのです。寺の歴代住職についても名前はありますが、家系図がない。これはどうしてですか?」
「なるほど、そういうことですか。確かに家系図と言ったものは無いかもしれませんね。家系図を作ると言うのは、元々身分の高い人間のものです。島にお侍などはいなかったでしょうから、あえて作らなかったというところでしょうかね。それで外国人についての記載はそれだけでしたか?」
「まだ、全部は見きれていませんので、今のところはまだですね。これから探してみます。ところであと、何度か出てくるのですが、『繁り夜』という言葉の意味は何ですかね。豊穣とか、神の恵みとでもいった表現も使われているようです」
和尚の顔が曇った気がした。ただ、すぐに元の表情に戻る。
「さて、おそらく島で行われるお祭りのことだと思います。今でも夏のお盆の時期にはお祭りが行われます。現代ではそれを繁り夜とは言いませんが、多分、そのことだと思います」
「なるほど」
それからも舞蘭は和尚に熱心に質問しながらも、料理をあらかた片づけていく。こいつの食欲はすさまじい。
「今晩は所用がありますので、蔵の捜索は17時までとさせてください」
和尚からの指示にわかりました、といって俺たちは午後の部に入った。




