ご対面
兄貴と女が映画を観てる二時間、映画館から徒歩数分の喫茶店で、ミルクココア一杯がすぐに無くならないよう大事に飲み、ひたすらスマホで動画を見て時間を潰した。
上映終了時間が迫り、慌てて会計を済ませ、映画館に戻る。
どうやら間に合ったようで、ぞろぞろとスクリーンの扉から人が出てくるところだった。
持参したサングラスを下にずらし、大勢の人の中から兄貴を探す。
「いた!」
兄貴は女と談笑しながらこちらに向かって歩いてきた。
傍にあった支柱を上手く利用し、時々立ち止まったかと思えば、ふと歩き出したりする挙動不審な二人の行方を調べた。
それにしても…あんなに笑う兄貴見るの、久しぶりかも。
子供の頃はよく面倒を見てくれたり、一緒に手を繋いで下校してくれていたのに、いつから兄貴と仲悪く振る舞うようになっちゃったんだろう。
「や、やめやめ!こんなこと考えんのナシ!」
落ち込む気分を切り替えて、再び二人の尾行を続けると、雰囲気の良い公園に入り、幾つか設置されているベンチのひとつに座り始める。
何やら話し込んでいるようだったが、しばらくすると、私の記憶にも残っていないような無邪気な笑顔をして、女を見ていた。
兄貴、マジであの人が好きなんだ。
服装もダサいし、帽子を被っていたせいか髪もボサついていて、女の魅力一つも感じないような人。
顔が特別良いわけでもなく、スタイルも私より悪い。
まるで長所が見当たらず、あんな女のどこがいいんだと、だんだん腹が立ってくる。
その時、兄貴は突然立ち上がって、女を置いてどこかへ歩いて行く。
…今だ。
後ろを振り返りもせず姿を消した兄貴を見送って、ベンチに座っている女の横に、思いっきり腰を落とした。
腕と足を組み、顔を横に向けると、案の定驚いたように目と口を開く女。
「あのさぁ」
「はい…?」
「アイツ、私の男なんだよね」
ふんぞり返りながら、堂々とそう告げてやった。
恋人をフリをするのはこれが初めてではない。兄貴の歴代彼女をこうして振るいにかけ、本当に兄貴のことを愛してくれる人だけを残してきた。
…いや、残った女はいなかったか。
滑稽にも、初対面の私の話を信じ、兄貴に別れを告げるような馬鹿な女しかいなかったんだから。
きっと、この人もそのうちの一人。
「…えっと…そう、でしたか」
フフ、効いてる効いてる。
ショックだろうけど、この私を通さずに兄貴の彼女になろうなんて、三億光年早いのよ。
「だからちょっかいだすのやめてくんない?それ、浮気だから」
「貴方のお兄さんと私は付き合ってませんよ」
「それならいいけど。とにかく、颯人は私のなんだから、分かったならさっさと失せなさいよ。じゃあね」
「はい。わかりました」
やけにあっさりと返事する女を不審に思いつつ、この程度で退いてくれるなら簡単な人だ。
兄貴が此処へ戻ってくる前に帰らねばと、去り際にもう一度「私が颯人の彼女だから」と念を押し、馴れ馴れしくも手を振ってくる女に、そっぽ向いてから走った。




