凝固点
私たちは、静まり返った。
どの選択肢が最善だったのか。
いくら巻き戻しても、私には思いつかないが、敵の策略に嵌ったことは確かだった。
《………ごめん》
マオさんの開口一番は、謝罪だった。
《いや…エリアを取れた時点で、俺が真っ先にマオのもとに行くべきだった。次は…》
《俺のせいだ》
ノワールを遮り、雹牙くんが声を震わせる。
《俺が、ゴチャゴチャ喚いたから、マオさんがスキルをっ…。俺のせいなんだから、誰も悪くねえよ。しょげんな》
あんなに自信家な彼が、いつもとは程遠い覇気のない声をしていたものだから、鈍い痛みが胸にのしかかった。
私にかけられる言葉があればと口を開けても、彼を元気づける台詞は浮かばない。
ただ、何も言わずに俯くだけの私に反して、よく彼らを見ていた男だけは違った。
《…雹牙、そうじゃない。俺が最終的に判断したんだ。チームの動きを決めたのは俺だし、チーム全員の意思でこのラウンドを落とした。それだけだ。切り替えてこう!》
チームの司令塔は、それ以上のことは語らなかった。
しかし、その瞬間から自分自身を責め続けていたプレイヤーたちは顔を上げて、前を向いた。
そして、次のラウンドが始まる。
《雹牙、俺たちは攻めよう。雹牙のポテンシャルも攻めの方が発揮できる》
《……いや、慎重に行きましょう。ノワールさんの動きに合わせて射線を増やします》
試合が後半になるにつれ、雹牙くんの強気な発言が極端に減っていく。
七ラウンド先取で勝利だが、今の戦況はどう傾いてもおかしくないほど拮抗していた。
お互い残り二ラウンドを先に取れば勝利する。
そのために、このラウンドを取りきることで、かなり優勢になるのだ。
だからこそ、慎重さが重要になることは確かだが、雹牙くんの性に合わないプレイングをしているのは、チームメイトなら誰でも分かった。
《雹牙のカバーはにゃろとのひちゃんがするにゃろ?》
「うん。今、雹牙くんの後ろついてるよ」
《視認できている敵の数は三人…残り二人が気になる…けど、わかった。ノワールは俺たちのエリアに戻ってくれ》
《マオさん!?》
《恐らく、連続した作戦は実行しない。そういう奴だから、確定情報じゃないが、攻める価値の方が高い。そのまま敵エリアまで三人で攻めてほしい》
《ガッテン承知にゃろ!》
《了解》
「はい!」
ノワールはマオさんがいる味方エリアへ、にゃろちゃんは私と雹牙くんをサポートできるように移動しているのが、マップで確認できる。
それでも、目の前の男は動かない。
《ま、待ってくれ…!大事なラウンドだからっ、俺だけのフィジカルじゃ、勝てないかも…しれないんだぞ…》
消え入りそうに呟きながら、雹牙くんが操作するキャラクターが、私がいる後ろへ体を向けた。
その弱々しい姿に、何故かカッと頭が熱くなり、私は大きく息を吸い込む。
「結果であいつら黙らせるんでしょ!?だから勝つんでしょ!?私に堂々と戦えって言ったなら、雹牙くんもちゃんと戦えよ!このっ…バカ!」
ドンと思いきりデスクを握った拳で叩いた。
意外と大きな音が鳴り、言い終わったあとに自分でもその迫力に驚く。
数秒の沈黙が流れると、遠くで咆哮が聞こえた。
《たりめーだろっ…行くぞ、のひめ!》
「えっ、う、うん!」
《にゃろも行くにゃろ〜!》
突如動き出した猛虎は止まらず、敵は視界に映った側から倒されていく。
マオさんの予想通り、敵エリアにいたのは三人のみだった。全てサポートも頼らずに雹牙くんが薙ぎ倒してしまい、味方エリアに近づいているはずの敵を、ノワールとマオさんが迎え撃つだけとなった。
私たちはにゃろちゃんを残し、味方エリアに戻る。
《気をつけろよ、のひめ。裏をついて、俺らを狙ってるかもしんねーから》
「了解!」
返事をした直後、銃声とともに私の画面はグレーアウトした。
《のひめ!?》
「右側!敵…!」
私たちが自分たちのエリアに戻ってくると読んでいた敵の一人が、右側の遮蔽物から銃口を覗かせていたのだ。
既にヘッドライン目掛けて撃ち抜かれた私のキャラクターは戦闘不能になり、倒されたプレイヤーは味方の視点を共有できるため、雹牙くんが目にしている景色を私の画面にも映し出す。
敵の姿が見えた瞬間、雹牙くんは引き金を引き、発砲した弾は敵の頭に命中。
それを合図に、マオさんが索敵スキルを使用し、残りの敵の位置をマップで把握したノワールが、あっという間に殲滅させた。
《………しゃあ!!》
雹牙くんが腹の底から喚声を上げる。
《やると思ってた!ナイスにゃろ!》
《ハラハラさせんなよ》
《ナイス、雹牙》
揺らいでいた自信を取り戻し、堂々と戦い抜いた彼が、この試合の最後のピースをはめた。
「やったね、雹牙くん」
《…おう。サンキューな、のひめ》
勢いを増した私たちは、荒波を立たせて、二回戦を勝利で終えることができたのだった。




