答え合わせ
想像もしていない人物の名前が、目つきの悪い金髪の青年の口から聞こえて、私は自分の耳を疑った。
「…の、ひめ…とは…?」
何も知らない人間の皮を被り、この危機を凌ぐためだけに全神経を彼との会話に集中させる。
「勝手に人のスマホ見て悪いけど、アンタのそのアイコン、のひめのだから」
「………」
警戒は虚しく、あっさりと相手の手札を切られ、私は崖の淵に立っている。
言い逃れする術はないが、彼の中で私が海月のひめだと確信していても、それを私が認めるわけにはいかない。
打開策を必死で捏ねていると、痺れを切らしたように青年は金色の髪をガシガシと掻き混ぜた。
「あー、心配すんな。雹牙は、俺だから」
そう言って、スマホの画面で見せられたのは、氷柱雹牙が配信するチャンネルの管理画面だった。
本人の端末でしか確認できないはずのページに、疑う余地はなく、受け入れる以外の選択肢があれば知りたいと切に願った。
「…だから、会ったことあるかって、聞いてきたの?」
「それは違う…って言いてえけど、声に聞き覚えがあったから、それで勘違いしてたのかもしれない。本当にどこかで会った気がしたんだけど…まあ、それはそれでいいわ」
少し掠れたような低めの声と、少し乱暴な口調や投げやりな言い方…意識すればするほど、この人は本当に雹牙くんなんだと、あらゆるものが一致していく。
雹牙くんのキャラクターも、目の前にいる金髪の青年も、左右ともにたくさんのピアスをつけている。
「俺のことで迷惑かけて悪い。けど、もうノワールさんとは話ついてっから、次からは真面目にやるよ」
「別に私は迷惑をかけられたことはないけど…誤解されたままでいいの?」
「誤解…?何の?」
「雹牙くんが悪者にされたままで良いのってこと。本気でゲームしてるから、譲れないことも拘りたいこともあるよ。私だって、昨日はこう動いたら勝てるんじゃないかって、まだゲームの理解も浅いのに考えちゃったり…したよ」
私たちはみんな本気だからこそ、言葉も態度も取り繕えない瞬間がある。
それが『VTuber頂上戦線』という大会の醍醐味だということ。
視聴者の一部は、平和を求めていたり、変化に杞憂したり、様々な層が見ていてくれるからこそ、大丈夫と胸を張って言葉に出なければいけない時もある。
「…それって言い訳じゃん。だせぇよ」
「だ、さい…とか、そういう問題?」
男の子特有の感覚なのか、私は眉間に皺を寄せながら首を傾げた。
そんな私を見て、彼はフッと笑いを漏らす。
「こんなしょうもねえことほざいてる奴らは、結果出して黙らせんだよ。それに、俺らも本気だけど、応援してくれてる人たちも、俺らと同じくらい本気になってくれんてんだ。皆わかってるよ、ちゃんと」
「………そっか」
私は何に心配して、怯えていたんだろう。
建物の隙間から差し込む朝陽は、勇ましくも凛々しい彼の金色の髪を照らした。
「だから、俺らは勝つ」
「うん」
「のひめも堂々と戦えよ。やれば出来んだから」
逞しい拳を前に突き出され、何となく自分の拳を軽く当てると、雹牙くんはニッと歯を見せて笑った。




