ボヤ騒ぎ
「おつー!」
「お疲れ様でーす」
「お疲れ様です」
ネットカフェの夜勤を終え、私は先輩二人に挨拶をし、眠い目をたまに瞑りながら帰路につく。
何気なくスマホで海月のひめのSNSを確認すると、いつもより通知の数が少し多かった。
「…?」
大会前だから活発なのかと気軽にスクロールしたが、流れてくるのは昨晩のノワール・シャーロックと氷柱雹牙の切り抜き動画ばかりだった。
何万ものユーザーが拡散しており、そのほとんどが氷柱雹牙を批判するものだった。
【こいつ何?】
【空気悪くして負けるとか利敵じゃん】
【プロ意識低すぎ】
遠慮のなく彼を責めるコメントがひたすら並んでいた。
もしかして、雹牙くん炎上してる…!?
トレンドワードにも【雹牙】【炎上】が浮上していて、VTuber頂上戦線の運営からも出場者の誹謗中傷は控えてくれと注意喚起されていた。
あの後、うじくんからは雹牙くんと和解したから問題ないと連絡があったが、本人たちからの弁明が何も出ていない。
何やってるの…と呆れたいところだが、雹牙くんは無事なのだろうか。
スマホの画面に夢中になっていると、右側から大きな衝撃が襲ってきた。
手にしていたスマホがどこかへ飛んでいくと、カシャン、カシャンと地面で二回音が鳴る。
「あ、すみません…」
「俺の方こそ…」
下げた頭を上げると、金色の髪がゆらゆらと目の前にちらつく。
「「あ」」
目が合ったのは、ネットカフェの常連客である金髪の青年だった。
以前難易度の高い会話を交わしたっきり、彼とは会っていなかったせいで、妙に緊張してしまう。
地面に寝そべったままのスマホを素早く手に取り、画面を確認した後、何事も無かったように立ち去ろうとしたが、その腕をがっちりと掴まれる。
「待って!」
振り払えないほどがっちりと握り締めるその手は、脳裏に過去の事件を過ぎらせた。
次第に心臓がドクドクと大きく脈を打っていく最中、彼は言った。
「それ、俺のスマホ…」
………え?
「…えっ?」
画面を見返すが、私が【雹牙】で検索をかけていたSNSのページが映し出されている。
まさかと思い、裏を向けてスマホケースを見ると、黒い無地のソフトケースで、私の物ではない何よりの証拠だった。
「アンタのはこっちだから…」
金髪の青年は、まだ地面に置いたままのスマホを拾い上げ、こちらに差し出す。
「…ご、ごめんなさい」
謝罪しなければという思考で止まっていたが、彼のスマホに映っていたのは間違いなく、雹牙くんの炎上に関わった内容だ。
彼の視聴者か、トレンドに上がっていたから興味本位で調べた一般の人か…。
こんな偶然あっていいのかと、苦笑すら作れない現実に嫌気が差した。
今度こそ、と金髪の青年から離れようと足先の方向を変える。
「なあ、アンタさぁ」
まだ、この場から逃げることを許されないらしい。
「…はい」
「もしかして………のひめ?」




