悩み事
遅れました…。
仕事の休憩時間にもう1話…更新したいという願望はあります。
悩み事は尽きない。
順番通りの列に並んで、前から順々に解決してくれれば、なんて楽な世界だと神様という偶像にも盲信できたのだろう。
「いらっしゃいませー」
今日も一人で受付に立っていると、あの金髪の青年が緩い服装で店にやってくる。
彼が現れる時間はまばらで、日付が変わるまでに来店する日もある。
柄の悪い客は珍しくないが、彼のように派手な外見に対し、大人しく一人で夜を越す者は珍しい。
希少さ故、少し興味の対象である。
「フリータイムでよろしいですか?」
どうせフリータイムだろうと先回りして話しかけると、まるで驚いたように目を見開く。
「…はい」
コンビニでは常連客が好むタバコやコーヒーをつい覚えて、その人に合わせた接客をしていたのだが、ネットカフェではそういう接客はしないのか。
目の前の反応を見ながら、焦りを隠すように素早く受付の処理を済ませ、グラスを取った。
「では、ごゆっくりどうぞ」
笑顔も取り繕わずにいると、金髪の青年はグラスへと差し出した手を、何故か止める。
ふと彼の顔に視線を向けると、濁りのない綺麗な瞳が、じっとこちらを見つめていた。
どんな意図だとしても汲み取れない私は、咄嗟に目を逸らすことしか出来ず、後に続く言葉を待った。
「…どこかで…会ったことある?俺と」
「………はい?」
理解不能な言動を追撃され、私は瞬きを繰り返す。
それでも彼は返答を望んでいるようで、グラスを受け取ることはない。
「こ、ここでいつも…お見かけします」
恐る恐る彼にとっての正解を言葉にしてみたが、これも違ったみたいで、小さく溜息を吐かれた。
「そうじゃなくて。アンタとはどこかで…」
「ちょっとちょっとー。店員へのナンパは業務妨害ですよー」
不穏な空気を一掃し、金髪の青年を遮るように登場したのは佐中さんと安宅さんだった。
二人は堂々とした仁王立ちで私を隠す。
「いや、そんなつもりは…」
彼の表情は見えないが、ひとまず諦めたのか私たちに背を向け、ピアスの音を揺らしながらエレベーターに乗って消えた。
「三浦ちゃん、大丈夫?」
「え、あぁ…はい。大丈夫です」
「あいつ、チャラチャラしてそうなのに意外と愛想良いと思ってたのに…。三浦ちゃんが何言っても許してくれそうだからって狙ってたんかね」
「佐中さん。男ってそういう奴が多いんすよ」
「は?安宅もそういう奴ってこと?」
「いやいやいや、俺は三浦さんと二人きりになっても変なこと言ったりしないですよ。奥手男子なんで」
「安宅と同じシフトに入った女共がこぞって数ヶ月経ったくらいに『フラれました』って辞めていく現象はどう説明するつもり?勝手に俺のことを好きになるって言いたいワケ?」
「やだなー、佐中さんの意地悪」
「突っつくな!うざい!だるすぎ!」
仲良く小競り合いをする佐中さんと安宅さんをしばらく観察して、私は分かったことがある。
安宅さんは飄々としていて未だ本心を掴めないが、佐中さんは表情も感情も豊かで、特に安宅さんの前になるとそれが表面に出やすい。
私と話している時よりも“その種類が多い”と表すべきだろうか。
自分の気持ちもろくに理解できていないが、佐中さんの安宅さんに対する想いは、恋…なんじゃないか。
だとすれば、うじくんの前にいる私もーーー。
「だめだかんね!三浦ちゃんはあのイケメンがいるし!」
ぼんやりしていると、突然後ろから私の首に両腕を回して、ぐっと抱きしめられる。
背中に柔らかい感触に押し返される感覚があり、不思議と抵抗する気は起きなかった。




