縺れた偶然
建物に囲まれたこの場所は、朝を知らせる日光の明かりが、徐々にこちらを染めていく。
二人の先輩は息の合った挨拶を残し、足早に帰って行った。
「お疲れさま」
「…本当に変だね、うじくんって」
私を待っていたうじくんは、眠たい目を擦りながらも、嬉しそうに私の隣に駆け寄る。
私の内心は、彼が傍にいる事実をしっかり喜んでいた。
「前と違って、今回はみんな…仲良さそうだね」
“前”とはコンビニのことだろう。
業務以外に話すことがなかったから、無理に沈黙を消さなくていい気楽な空間だった記憶を思い出す。
今はあまりにも騒がしい。
「あの二人は仲が良いと思うけど…私は別に」
「…そっか」
「それよりも、こういうことは今日で最後にしてよね。わざわざ来るなんて…」
「うん…わかった。ごめん」
店の敷地から出ると、うじくんは足を止めた。
「でも、三浦さんに…聞きたいことがあって…」
「聞きたいこと?」
「…のひちゃんの…件なんだけど」
うじくんは声のトーンを落として、再び歩き出す。
彼の歩幅に追いつくよう、私もすぐ足を動かせた。
「どうしたの?何かあった?」
深刻そうな横顔に嫌な予感がして、トートバッグからスマホを取り出し、海月のひめが活動しているSNSを昨夜のデータまで遡る。
しかし、いくら画面をスライドしても特に突出した問題はなかった。
「大会…の、話」
「…大会?………ああ、あれか」
うじくんの言う大会とは、最近公表されたVTuber限定のFPSゲーム大会のことだ。
総勢四十人のVTuberが五人ずつ、八つのチームに形成され、トーナメント制で優勝を決める…だったか。
つい最近、その大会の主催を務めているVTuberから招待状の画像とともに、参加の打診を丁寧な文章にしたためたメッセージが届いたところだ。
「………俺も、来てて…その、多分…」
「…………」
やはり、嫌な予感は当たるものだ。
「同じチームだと…思う」
そよ風が枝を揺さぶる音が、異様なまでに鮮明だった。
大手企業VTuberのノワール・シャーロックとして活動しているうじくんはFPSの実力はプロと肩を並べるほどだ。実際別のゲームではプロの選手だった経歴もある。
それに反し、私はと言えばうじくんから基礎を教わった程度の初心者で、開催予定の大会でプレイするゲームも触り始めたばかりで一番下のランクに位置している。
のひめとノワール、相対する実力を持っているからこそ、残り三人を同等の実力で集めることでパワーバランスの均衡を保つことができるのだ。
「でも、何でそれをうじくんが…?リーダー権を持ってる訳じゃないんでしょ?」
大会のチームメンバーを決めることが出来るのは、主催と運営が選出した四十人のVTuberの中から、実力が認められた八人にリーダー権を付与された者だけ。
その権利を得たものが残りのチームメンバーを運営に申告し、その全てが受諾されれば正式に決定される。
ただ、リーダー権を得たのがうじくんであれば、現実で関係値の近い私をチームメンバーとして迎え入れるのは、活動に支障が出る可能性が高く、彼のマネージャーである高島さんも止めるはずだ。
もちろん、うじくんは仕事に私情を持ち込むような男ではない。
私が彼の家で身を潜めていた時も、ノワール・シャーロックとして活動している時間、私の存在に気にかけるどころか、無いものとされていた。
棲み分けを徹底している彼に限って、このような事態は引き起こさないという信頼がある。
「リーダー権を、同じ事務所の先輩が持ってて…その人が、運営に申告した残りのメンバーを…。その中に、海月のひめが入ってた」
「…なるほどね」
偶然か、悪意ある運命の悪戯か。
お互いが次の言葉を待っていると、後方からあの金髪の青年が私たちを追い越した。
イヤホンをしているようで、ピアスの隙間から黒い小型の機械が覗いている。
「とりあえず、また話そう」
私たちはそれぞれに複雑な気持ちを抱えたまま、それぞれの家に帰り、まだ重くない瞼を閉じて眠った。




