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これは最近の出来事である。
朝日の眩しさに目を瞑りながら、自宅に帰るため向かっている途中のことだ。
後ろの足音が、私の歩く速度と揃っている。
気がついたのはつい三日前。
ただ何気なく帰路に就いていると、ふといつも通りの道を辿るよりも、最短で帰宅できるルートが存在するのではないかと思い立った。
要は浮かれていたのだ。
この間の誕生日配信では、記録的な投げ銭総額を叩き出し、チャンネル登録者数も何千何万という単位で増加したからである。
これから頭を抱えるであろう巨額な税金のことは気にせず、しばらくは自分史上最高の稼ぎを得た事実だけを喜ぼうと、心なしか無意識にスキップを刻んでいたと思う。
早朝だからか、人通りのない細い中道をずんずんと遠慮なく突き進んでいると、後ろから私と同じ道を辿る足音を耳にした。
一方通行の途中で振り向いて、真後ろに誰か知らない人が居たとする。
もしその人物と目が合ったら、それは不審人物であっても一般人であっても、その後の対処方法がない。
そう考えた私は、視界が拓けた道まで早足で抜け出し、少しの間を置いてから振り返った。
すると、そこに居たはずの人影は、街路樹の隅に隠れるように黒い残像とともに消える。
ーーー絶対に誰かいた。
その確信ができたのはこの時の一度だけだった。
「…で、結局どうなったの?」
「どうも何も…誰かもわからないし、身に覚えもないし…」
普段は門前払いのバックルームに、うじくんを自ら招き入れて、最近の出来事を打ち明けていた。
彼は力になってくれるほど頼りがいのある男ではないが、他人の悩みを軽く聞き流すほど薄情な人間でもない。
ある種の防衛本能がそうさせるのか、誰かにこのことを話しておかなければという衝動に駆られる。
「でも家の場所まで知られてる…って、かなり…危ない…よね?」
「実害が出れば警察に動いてもらえるんだろうけど、待ち伏せされたこともなければ、盗撮されたことも…多分ないと思うし、今は自分で犯人特定することが最優先かなぁ」
「………実害が出てからじゃ遅い気が…」
「じゃあ、どうすればいいと思う?」
「…えぇ…?」
うーんと額を押さえて唸る。
「俺が…三浦さんの後をつける…?」
「それだとうじくんに個人情報を知られるし、犯人候補も広がるけど」
「えっ?俺も候補なの…?」
「そうだよ」
「…そうなのか」
そんなわけないだろう。
犯人の候補者として挙がっている人物を前にして、この話に触れはしない。
同じ穴の狢として、信頼できる相手として、勘違いかもしれないという可能性を残した現状で相談しているのだ。
空気も読めなければ冗談も通じない変な奴だ。
「…心当たりのある人とかは、本当にいない…?恨みを買ったり…とか」
不意に、そう言った彼と目が合う。
思い当たる人はいる。
うじくんの元カノのーーー赤井芹菜と名乗った女。
海月のひめに対してアンチ行為をしていると自己申告し、私に直接嫌味を伝えるためにこのコンビニまでやって来た、少し…いや、かなり異常で危険な匂いのする人物。
言うべきなのだろうか、彼に。
しかし、今はもう関係を絶っていると口にしていた彼に、こんなことを言ったところで解決する策も提示できないだろう。
あの芹菜という女が私に危害を加えるつもりなら、初めて会ったあの日でも良かったはずだ。
動向を監視しているのか?何のために?
私とうじくんが近づかないように?
だとすれば、うじくんがコンビニに訪れる数時間前に行動を起こす方が効果的ではないか。
理屈じゃないのか?損益勘定は持ち合わせていない?
ひどく冷静に物事を俯瞰しているように見えたが、私の思い違いか?
ぐるぐると思考を張り巡らせていると、トントンと肩を小突かれた。
「…本当に…大丈夫?」
また、彼は不安げに私を見る。
「…大丈夫よ。多分ね」
何故か笑顔を返す余裕はなかった。
これから起ころうとしていることに、皆目見当もつかないからだ。
分かっているとすれば、そうだ。
傘が必要になるかもしれない。




