陰踏み
あるインターネットのページに表示されている数字を、指でなぞりながら慎重に数える。
一、十、百、千、万…
ページを何度も更新して、私の見間違いではないことを噛み締める。
「…つ、ついにっ…!!ついに登録者三十万人突破だぁ〜!!」
喜びのあまり勢いよく立ち上がり、自分の部屋の中を思うがままに駆け回った。
VTuber“海月のひめ”になって約2年。
活動しているプラットフォームで、私のことを知って、応援したいと思ってくれた人たちが三十万人を超えたということだ。
配信では同時視聴者数も四桁を維持できているし、投げ銭システムで得る収益も、毎月最高額を更新している。
海月のひめが成長するきっかけになったのは、不本意なものである。
少し前に、配信上でノワール・シャーロックの炎上について言及された時、私が視聴者に向けて話した映像があらゆるインターネットに取り上げられ、同業者と視聴者双方から賞賛の声が挙がった。
そもそも、禁忌の話題に触れる人などまずいない。
ふと、先日のコンビニでの一部始終が脳裏に浮かぶ。
ーーー寝て、起きたら、俺とゲームしませんか。
彼の冗談ではなかったらしい。
勿論、あの人との接点をこれ以上増やすものかと断ったが、肩を落としてすぐに帰って行った彼の背中は、あまりにも孤独を感じさせるものだった。
僅かに後ろめたい気持ちはあるが、この画面に映る数字を、無くす訳にはいかない。
そして、私には気がかりなことがあった。
マウスを操作して、あるユーザーのアイコンをクリックする。
「これ…誰だ?」
そのユーザー名は【海豚】
私が配信をつける度、一度に送れるシステム限度額の投げ銭を送ってくれる人。
活動当初からの“くらリス”であれば、しっかり記憶に残っているはずだが、名前もアイコンも少し前から見かけるようになった。
富裕層の視聴者だと片付けてしまえばそこまでだが、コメントを残すこともせず、ただただ私にお金を送って、静観しているなんて奇妙だ。
得体の知れない恐怖を覚え、ユーザーのページを閉じた。
登録者が三十万人突破したことで、関係者からお祝いの連絡が底無しに送られてきたことを思い出し、メッセージ欄を開く。
「…ウソ」
画面をスクロールしていると、ある大手企業からメッセージが届いていた。
「コラボカフェ…!!」
仰々しい文章を読み解くと『期間限定で海月のひめのコンセプトを取り入れたカフェがやりたい』という旨の連絡らしく、あまりの吉報に両手で口元を覆う。
いつか自分が有名になったらやってみたかったリストの三本指には入る、コラボカフェ。
「やりたいやりたい!やります!」
カタカタとキーボードを叩き、快諾の返信を送った。




