第6話 ポテト・シティ(地下)
「地下など、破滅へのカウントダウンを最も間近で聴く特等席に過ぎん!」
宇宙へと消えていったナス市民たちの残響が消え去った更地で、老人は一人、冷徹に言い放った。
地上のあらゆるベジタブル軍団が消滅したはずの世界。しかし、生き残った老人の足元から、今度は「ゴトゴトゴト……」という不気味な細振動が伝わってきた。
地表を突き破り、ひょっこりと顔を出したのは、茶色く泥にまみれたジャガイモのような形をした地下シェルターのハッチだった。そこから這い出てきたのは、全身防護服に身を包んだ「ポテト・シティ」の市長である。
「地上で愚かなベジタブルどもが全滅したようだな! だが我がポテト・シティは違う! 地下の奥深く、マントルのすぐ上に完璧な避難都市を築いていたのだ!」
これが、この世界における最後の、そして最も陰湿な「勘違い」だった。
彼らは地上の4つの次元(前後左右)と、上空(高さ)の破滅から学ぶことで、「すべてのリスクから完全に隠れるため、地下へ潜る」という答えを導き出したのだ。
しかし、ここでもやはり、「過去から学ぶこと」と「ただ殻に閉じこもって現実から逃避すること」が、致命的に混同されていた。
老人がハッチから地下都市を覗き込むと、住民たちは暗闇の中、一歩も動かずに膝を抱えて丸まっていた。
「市長、あなた方は地下に避難して、一体何を学んだのですか?」
老人が問いかけると、市長は真っ暗なゴーグルの奥の目を光らせて胸を張った。
「学んだとも! 地上に出れば、電柱にぶつかり、ダムが決壊し、時間が巻き戻り、絶対零度に凍りつき、最後は宇宙に飛ばされる! だから我々は、一切の生産活動をやめ、光を浴びず、呼吸すら最小限にして地下に引きこもることを学んだのだ! これぞ過去の全ベジタブルの歴史から導き出した、究極の安全だ!」
「それはただの、生き埋めです」
老人が冷酷に核心を突く。
彼らは「失敗しないための最強の対策」として、「何もかもをやめる」という最悪の選択肢を選んでいた。パン屋の主人はジャガイモの芽(毒)をすり潰す作業すら「危険だから」と放棄し、全員が暗闇で泥を舐めて飢えを凌いでいた。
「過去を恐れて地下に引きこもり、未来への歩みを完全に止めた街に、明日などない」
老人がそう呟いた瞬間、世界の本当の終わりが告げられた。
グラグラグラグラ……!!!
地上の爆発や宇宙へのエネルギーの反動、そして地球を一周したすべてのベクトルが一点に集まり、世界規模の超巨大地震が発生したのだ。
「フハハハ! 揺れるがいい! 我が地下都市は耐震構造も完璧……」
市長が勝ち誇ろうとした、その瞬間。
上空へ飛び出し、宇宙空間で慣性の法則のまま漂っていたはずのナス・シティの超巨大なナス型ビル群が、地球の引力に捕まり、ものすごい速度で「隕石」として地上に降ってきたのだ。
ドガァァァァァン!!!
地上に残されたポテト・シティのハッチの真上に、宇宙からのナスビ隕石が寸分の狂いなく直撃した。
それだけではない。地下に潜りすぎて地球のマグマの圧力限界を突いていたポテト・シティは、上からの衝撃によって一瞬で押し潰され、逃げ道のない地下空間は、そのまま煮えたぎるマグマの圧力鍋と化した。
「あ、熱い! 出られない! ハッチがナスで塞がれているアアア!」
彼らは「引きこもる」ことだけを学び、何かあった時に「外へ脱出する(ブレーキを解除する)」ためのプロセスを一切学んでいなかったのだ。
押し潰され、熱水とマグマの中に沈んでいく地下都市。
地上のわずかな安全地帯で、老人は粉々になったノートの最後の破片を拾い上げ、指先でその表面をなぞった。
【記録:どれだけ完璧な地下に避難し、すべてのリスクから隠れても、外へ出る方法を学ばなければ、そこはただの頑丈な棺桶になるだけである】
老人が破片をポケットにしまうと、彼の眼鏡がカランと音を立てて最後の更地に落ち、滅び去ったベジタブルたちの世界を、キラリと冷たく照らし出した。
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