表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された鑑定士、辺境の廃村で“役立たずスキル”だけを育てたら、滅びた王国の真実まで見えてしまった  作者: swingout777
第5章 王都からの使者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/44

第26話 嘘を見抜く鑑定士

 白い旗を掲げた一団が森の向こうへ消えても、エルネ村に安心は戻らなかった。


 むしろ、静けさが重くなった。


 井戸の水音。

 風に揺れる草。

 遠ざかる馬車の車輪の音。


 それらが途切れた後、レインは村の入口に立ったまま、しばらく動かなかった。


「追わなくていいのか?」


 ガルドが斧を肩に担いで言う。


「追えば向こうの思うつぼだ」


 レインは、ラウルたちが去った道を見つめた。


「彼らは引いたんじゃない。こちらの反応を見に来たんだ」


「偵察ってことか」


「ああ。人数、配置、地下入口の場所、ミラの姿、俺の鑑定の範囲。だいたいは見られた」


 ミラが不安げに首飾りを握る。


「私のことも……?」


「見られた。でも、まだ連れていかれてはいない」


 レインは振り返り、できるだけ落ち着いた声で言った。


「だから今のうちに、相手が残したものを探す」


 セラが眉を上げる。


「残したもの?」


「手ぶらで帰ったように見せていた。でも、あの調査官はそんな無駄なことをする人間じゃない」


 レインは村の入口へしゃがみ込んだ。


 王国兵たちが立っていた場所。

 馬が足を止めた場所。

 荷馬車の車輪がわずかに土を削った場所。


 普通に見れば、ただの足跡と轍だ。


 だが、鑑定を重ねると違う。


「鑑定」


 土の状態。

 踏圧。

 残留魔力。

 異物反応。


 視界の中で、いくつかの点が淡く光った。


「やっぱりある」


 レインは土を指で掘り、小さな黒い石片を取り出した。


 爪の先ほどの大きさ。

 ただの砂利にしか見えない。

 だが、表面には極細の魔法陣が刻まれていた。


 セラの顔が険しくなる。


「監視石ね」


「知ってるのか?」


「研究機関でも使っていたわ。目印を置いた場所の魔力反応を遠くから拾う道具よ。音や映像までは拾えないけれど、人が集まったか、強い魔力が動いたかくらいはわかる」


「どこに仕掛けられていた?」


「入口だけじゃない」


 レインは立ち上がった。


「たぶん、村の中へ入れなかったから、外周に撒いていったんだ」


 ガルドが舌打ちする。


「支援団どころか、盗人の手口じゃねえか」


「盗人の方がまだ正直かもしれないわね」


 セラが冷たく言った。


 四人は手分けして村の外周を調べた。


 レインが鑑定し、ガルドが土を掘り返す。

 ミラは井戸の近くに置かれていた不自然な小石を見つけ、セラがそれを布で包んだ。


 全部で七つ。


 入口、井戸へ続く道、畑の端、地下入口が見える位置、ミラの使っている家の近く。

 どれも、村の様子を探るには都合のいい場所だった。


 ミラの顔が青くなる。


「家の近くにも……」


「夜に来るつもりだったんだろう」


 レインは監視石を並べた。


「ミラの居場所を確かめてから動くつもりだった」


「動くって」


「連れ去る」


 言葉にすると、空気が冷えた。


 ガルドが斧の柄を握る。


「なら、今夜来るな」


「たぶんな」


「待ち伏せするか」


 レインは頷きかけて、ふと足を止めた。


 村の入口近くに、もう一つ反応がある。

 監視石より弱い。

 魔力というより、薬品の反応だ。


 レインは草むらに手を伸ばし、小さな布袋を拾い上げた。


 中には白い粉が入っている。


 セラがすぐに奪うように受け取り、匂いを確かめた。


「眠り薬よ」


 ミラが息を呑む。


「眠り薬……」


「かなり強い。火にくべれば煙で効く。水に溶かしても使える。量から見て、数人を眠らせるには十分ね」


 レインは布袋を見つめた。


「落としたんじゃない。置いていったんだ」


「場所が悪趣味ね」


 セラは村の風向きを見る。


「夜になって火を焚く場所の近く。誰かが拾わなくても、遠くから火矢で燃やせば煙が広がる」


 ガルドが低く唸った。


「本当に支援団かよ。やることが暗殺者だ」


「殺す気はないんだろう。少なくともミラと俺は生け捕りの命令だった」


「そっちの方が胸糞悪いわ」


 セラの声が冷え切っていた。


 レインは布袋を封じ、監視石と一緒に壊れた鍋の中へ入れた。

 その上から厚い布をかぶせる。


「全部壊すの?」


 ミラが尋ねる。


「いや。一つだけ残す」


「どうして?」


「相手に、まだこちらが気づいていないと思わせるためだ」


 レインは入口近くの監視石を手に取った。


「ただし、そのままでは使わせない。反応を偽装する」


「そんなことできるの?」


「たぶん」


「レインのたぶんは、信用していい?」


「半分くらい」


 ミラが少しだけ笑った。


 レインは監視石を鑑定しながら、魔力の流れを読み取った。

 遠くへ反応を送る小さな術式。

 それを完全に壊さず、拾わせる反応だけを少しずらす。


 村の中心ではなく、空き家の方に人が集まっているように見せる。

 ミラがいる家ではなく、別の廃屋に反応が出るようにする。


 細かな作業だった。

 魔導技師ではないレインには、本来なら難しい。

 だが、術式の傷や流れを読むことはできる。


 壊れかけた馬車の車輪を見るように。

 亀裂の入った剣を見るように。

 嘘で塗られた指輪の命令文を読むように。


「できた」


 レインは監視石を元の場所に戻した。


「今夜、相手はこの反応を信じて動くはずだ」


 ガルドがにやりと笑う。


「つまり、向こうが仕掛けた罠を、こっちの罠にするわけか」


「罠というより、誘導だ」


「同じようなもんだ」


 セラは眠り薬の袋を見ながら言った。


「これも使えるわ。もちろん、こちらが吸わないように処理すればだけど」


「使うのか?」


「相手が用意したものよ。礼儀として返してあげましょう」


 その言い方があまりに淡々としていたので、ガルドが肩を震わせて笑った。


「薬師さん、あんたもなかなか怖えな」


「褒め言葉として受け取るわ」


 ミラは少し不安そうだったが、先ほどよりは表情がしっかりしていた。


「私も、何かできる?」


 レインはすぐには答えなかった。


 本当なら、何もさせたくない。

 隠れていてほしい。

 危険から遠ざけたい。


 だが、ミラはもう守られるだけの少女ではない。

 自分の意思でこの村に残ると決めた。


「できることはある」


 レインは言った。


「今夜、ミラは本当の家にはいない。相手が狙う場所を偽装する。そのために、ミラの首飾りの反応を少しだけ別の場所に移したい」


「首飾りを?」


「外せないから、ミラ自身が一度その場所に行って、反応を残す必要がある」


「それならできる」


「ただし、俺と一緒だ。一人では行かない」


「うん」


 ミラは力強く頷いた。


 その時、地下入口の方からノルの声が響いた。


「ようやく少しは頭を使うようになったか、未熟な鑑定士よ」


 全員が振り返る。


 地下階段の上に、石板のノルが浮かんでいた。


「ノル、地上に出られるのか?」


「短時間ならな。記録室の一部復旧が済んだ。だが、今はそれより重要な話がある」


 ノルの光が、監視石へ向く。


「王国の調査団が去った後、村の北側で魔力通信が行われた。内容は断片的だが、聞き取れた」


 レインの表情が引き締まる。


「何と言っていた?」


「今夜、対象少女を確保する。鑑定士は抵抗すれば拘束。薬師セラは可能なら回収。元傭兵は処分」


 ガルドが笑った。


「俺だけ扱いが雑だな」


「喜ぶところじゃないわ」


 セラが呆れる。


 ミラは首飾りを握りしめた。


 レインは静かに息を吐く。


 今夜、来る。


 支援団の仮面を外した王国が、ミラを奪いに来る。


 だが、今度はこちらも待っている。


「準備を始めよう」


 レインは監視石を見下ろした。


「嘘をついたのは向こうだ。なら、その嘘ごと見抜いて返す」


 エルネ村の夕暮れが、ゆっくりと近づいていた。


 次に訪れる夜は、静かな夜にはならない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ