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追放された鑑定士、辺境の廃村で“役立たずスキル”だけを育てたら、滅びた王国の真実まで見えてしまった  作者: swingout777
第1章 役立たず鑑定士、追放される

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第2話 追放宣告

「今日限りで、お前を勇者パーティーから外す」


 カイルの声は、北門前の喧騒の中でもはっきり聞こえた。


 レインは落とした工具を拾うこともできず、ただカイルを見つめた。


「外すって……どういう意味だ?」


「言葉通りだ。お前はここまでだ」


 カイルは少しも迷っていない顔で言った。


 その後ろで、剣士ダリオが腕を組んでいる。魔法使いリシアは気まずそうに視線を逸らしたが、否定はしない。神官エリオットは困ったように眉を下げているだけだった。


「待ってくれ。急にそんなことを言われても」


「急じゃない」


 カイルは短く遮った。


「前から考えていた。魔王領に入れば、戦いはこれまでとは比べものにならない。俺たちは、もっと強い仲間を入れる必要がある」


「強い仲間?」


「ああ。攻撃魔法を使える者だ。すでに王宮から推薦を受けている」


 レインは息を呑んだ。


 代わりの仲間まで決まっている。つまりこれは、今思いついた話ではない。自分だけが知らなかったのだ。


「でも、俺は鑑定で――」


「鑑定、鑑定、鑑定」


 ダリオがうんざりしたように笑った。


「お前、それしか言えねえのかよ。剣も振れない。魔法も撃てない。盾にもなれない。魔王討伐に行くんだぞ? 骨董品屋に行くんじゃねえ」


「ダリオ」


 エリオットがたしなめるように名を呼んだが、強く止める気はなさそうだった。


 リシアも、小さく息を吐いた。


「レインが細かいところを見てくれていたのは、わかってるわ。でも、魔王領では一瞬の火力が必要になるの。鑑定で危険がわかっても、それを打ち払う力がなければ意味がないでしょう?」


「危険を避けることにも意味はある」


 レインはようやくそう言った。


 声は、自分でも情けなくなるほど小さかった。


「今までだって、呪具や毒や罠を――」


「それはお前がいなくても、どうにかなったことだ」


 カイルの言葉が、胸に刺さった。


「俺たちは勇者パーティーだ。多少の罠や毒くらい、力で突破できる。だが、お前は違う。守られなければ進めない」


 レインは反論しようとした。


 あの洞窟で、酸素が薄いことに気づかなければ全滅していたかもしれない。

 あの商人から受け取った指輪が呪われていると見抜かなければ、リシアは魔力を吸われていた。

 あの橋が腐っていると止めなければ、荷馬車ごと谷へ落ちていた。


 言いたいことはいくつもあった。


 けれど、どれも「起きなかった危険」だった。


 起きなかった危険は、証明できない。


 レインが黙ったことで、カイルはそれを肯定と受け取ったらしい。


「お前の働きを否定するつもりはない」


 そう言いながら、カイルの声には労わりよりも、早く話を終わらせたい響きがあった。


「だが、ここから先は実力のない者を連れてはいけない。これはパーティー全体の判断だ」


 レインは、仲間たちを見た。


 ダリオは当然だという顔。

 リシアは視線を合わせない。

 エリオットは困ったように微笑むだけ。


「……みんなも、そう思ってるのか?」


 誰もすぐには答えなかった。


 その沈黙が、答えだった。


 レインの胸の奥で、何かが静かに冷えていく。


「すまないね、レイン」


 エリオットがようやく口を開いた。


「僕は、君のことを嫌いではないよ。ただ、カイルの言うことにも一理ある。魔王討伐は遊びじゃない。誰もが、自分にしかできない役割を果たさなければならないんだ」


「俺にしかできない役割は、ないってことか」


「そういう意味では――」


「そういう意味だろ」


 レインは、自分でも驚くほど静かに言った。


 エリオットは口を閉じた。


 カイルは腰の聖剣に手を置いた。


「支度金は渡す。これまでの分も含めてな」


 彼は革袋を差し出した。中には銀貨が入っている。多くはない。だが、数日暮らすには困らない額だった。


 レインはその袋を見つめた。


 これで終わり。


 命を預け合ってきたと思っていた日々が、銀貨の重みで片づけられようとしている。


「俺は……」


 言いかけて、レインは口を閉じた。


 何を言えばいいのかわからなかった。


 連れていってくれと頼むのか。

 自分は役に立つと訴えるのか。

 これまで助けてきたじゃないかと責めるのか。


 どれを選んでも、惨めになるだけだった。


 レインは革袋を受け取らなかった。


「いらない」


 カイルの眉が動く。


「意地を張るな。旅には金が必要だ」


「いらない」


 今度は、少しだけ強く言えた。


 レインは荷台へ向かい、自分の荷物を取り出した。着替え、古い短剣、鑑定用の手帳、工具袋。勇者パーティーの備品には手をつけない。


 それから、さっき取り除いた眠り苔の袋を見た。


「その薬草は、使うな」


 レインは言った。


 リシアが顔を上げる。


「まだ言うの?」


「眠り苔が混じってる。毒消し草に似てるけど、煎じたら半日は動けなくなる」


 ダリオが鼻で笑った。


「最後まで小言かよ」


「小言で済めばいい」


 レインはそれだけ言った。


 カイルが小さくため息をつく。


「レイン。お前は悪い奴じゃない。だが、勇者パーティーには向いていなかった。それだけだ」


「そうか」


 レインは荷物を肩にかけた。


 北門の外には、王都から続く街道が伸びている。石畳の道の先は、遠くの丘で細く霞んでいた。


 見送りの人々は、レインがパーティーを外されたことにまだ気づいていない。彼らの視線は勇者カイルに向いている。花びらは相変わらず、英雄たちの上に降り注いでいた。


 レインは、その輪の外へ歩き出した。


 背中で、カイルの声が響く。


「出発するぞ!」


 歓声が上がる。


 勇者パーティーの馬車が動き出す音がした。レインが補強した車輪は、きしむことなく回っている。


 それを聞いて、レインは少しだけ笑った。


 最後の仕事まで、ちゃんと役に立ってしまった。


 それが、妙に悔しかった。


 王都の門を離れたところで、レインは一度だけ振り返った。


 カイルは白銀の鎧を輝かせ、人々に手を振っている。ダリオは豪快に笑い、リシアは髪をなびかせ、エリオットは祈りの言葉を口にしている。


 そこに、自分の居場所はもうなかった。


「……俺は、何をすればいいんだろうな」


 答える者はいない。


 レインは首から下げた小さな鑑定石を握った。


 物の価値は見える。

 道具の傷も、魔力の乱れも、毒草の違いも見抜ける。


 けれど、自分自身の価値だけは、どうしても見えなかった。


 その日の夕方。


 勇者パーティーが王都を離れて半日もしないうちに、カイルの聖剣は最初の魔物との戦闘で小さく欠けた。


 だがその時、レインはもう王都にはいなかった。


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