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追放された鑑定士、辺境の廃村で“役立たずスキル”だけを育てたら、滅びた王国の真実まで見えてしまった  作者: swingout777
第4章 地下遺跡と、消された王国

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第18話 地下扉を開く

 地下への階段は、村の中央にぽっかりと口を開けていた。


 石碑の裏に隠されていたその入口は、昼間でも薄暗い。

 井戸の水が戻ってから、地面の下で眠っていた何かが目を覚ましたようだった。


 レインは入口の前に立ち、手にした魔石灯を掲げた。


 階段は古い石で作られている。

 幅は人が二人並べるほど。

 壁には細かな紋様が刻まれ、奥からは冷たい風が吹き上がってくる。


 すぐに入りたいわけではない。


 むしろ、できることなら後回しにしたかった。

 水、畑、食事。ようやく村に生活の形が戻り始めたばかりだ。

 けれど、王国の地図にはエルネ村が印をつけられていた。監視点らしき記号もあった。王国は、ここに何かがあると知っている。


 ならば、こちらも知らないままではいられない。


「本当に行くの?」


 ミラが不安そうに尋ねた。


 彼女の首元では、青い石の首飾りが淡く光っている。

 地下入口が現れてから、その光は消えなくなっていた。


「ああ。ただし、今日は入口付近だけだ。奥までは進まない」


「それ、前にも聞いた気がする」


「今度は本当だ」


 レインが言うと、横でガルドが鼻を鳴らした。


「こういう時の『入口だけ』は、だいたい奥まで行く羽目になるんだよ」


「不吉なことを言うな」


「傭兵の経験則だ」


 ガルドは巨大な斧を肩に担いでいる。

 腕の傷はセラの手当てで少し落ち着いたが、まだ万全ではない。セラは最後まで同行に反対していた。


「無理に戦ったら縫うと言ったわよね」


 そのセラも、結局ついてきていた。

 薬鞄を肩にかけ、魔力安定剤と包帯を多めに持っている。


「セラも来るのか?」


「あなたたちだけで地下に潜らせる方が怖いわ。怪我人を増やされたら面倒だもの」


「心配してくれてるのか?」


「面倒を避けたいだけよ」


 即答だった。


 それでも、彼女が来てくれることは心強かった。

 セラは薬師であり、王国研究機関を知っている。地下にあるものが魔導具や封印に関わるなら、彼女の知識が必要になる。


 レインは階段の最初の一段に触れた。


「鑑定」


 石材の状態が流れ込んでくる。


 劣化はしているが、崩落の危険は少ない。

 魔力反応は強い。

 通路全体に、何らかの保存術式がかかっている。

 外気や水の侵入を防ぎ、百年以上、内部を保ってきたようだった。


「階段は問題ない。慎重に降りれば大丈夫だ」


「その言い方、逆に怖いわね」


 セラが呟く。


「怖いくらいがちょうどいい」


 レインは魔石灯を掲げ、一段目を下りた。


 石の床は冷たく、靴裏に硬い感触が返ってくる。

 ミラがすぐ後ろにつく。ガルドがその後ろで斧を構え、最後尾にセラが続いた。


 十段ほど下りたところで、空気が変わった。


 地上の湿った廃村の匂いではない。

 もっと乾いた、古い書物のような匂い。

 遠い昔から閉ざされていた場所の匂いだった。


 壁の紋様が、ミラの首飾りに反応してぼんやりと光る。


「ミラ、苦しくないか?」


「うん。でも……懐かしい」


「懐かしい?」


「変だよね。来たことないはずなのに」


 ミラは壁に手を伸ばしかけ、途中で止めた。


「誰かに手を引かれて、ここを降りた気がする」


 レインは何も言わなかった。


 子どもの靴に残っていた記憶。

 倉庫から地下道へ逃がされた子どもたち。

 その中に、ミラという名の少女がいた。


 百年前の少女と、今ここにいるミラ。

 その関係はまだわからない。


 だが、この地下はミラを知っている。


 階段を下りきると、石造りの小さな広間に出た。


 正面には、重厚な扉があった。


 扉は金属と石を組み合わせたような材質で作られている。

 表面には、白い花を囲む三本の光の紋章。

 ミラの首飾りと同じ紋章が刻まれていた。


「行き止まりか」


 ガルドが扉を睨む。


「ぶち破れるか?」


「やめて」


 セラが即座に止めた。


「こういう古代魔導扉を力任せに叩くと、封印反応で周囲ごと吹き飛ぶことがあるわ」


「物騒だな」


「古代人は侵入者に優しくないのよ」


 レインは扉に近づいた。


 手を触れる前に、鑑定を発動する。


「鑑定」


 だが、情報はほとんど読めなかった。


 名称、不明。

 用途、封印門。

 状態、休眠。

 開放条件、血統照合。

 照合対象――


 その先が、白く霞む。


 レインは眉をひそめた。


「血統照合……」


 セラの表情が険しくなる。


「やっぱりね」


「知っているのか?」


「王国研究機関でも似た記録を見たことがある。ルミナリアの遺構は、特定の血筋にしか反応しない。だから王国は、その血筋を探していた」


 レインはミラを見た。


 ミラは首飾りを握りしめ、扉を見つめている。


「私……?」


「無理に触らなくていい」


 レインはすぐに言った。


「ここで引き返してもいい。扉の場所がわかっただけでも十分だ」


 ミラは小さく首を振った。


「怖いよ」


「うん」


「でも、ここまで来て、逃げたら……たぶん、ずっとこの扉のことを考える」


 彼女の声は震えていた。

 だが、その足は下がらなかった。


「私が何なのか、少しでも知りたい」


 ミラは扉の前に立った。


 レインは横に並ぶ。


「何かあったら、すぐ手を離せ」


「うん」


 ミラが扉の紋章に手を触れた。


 瞬間、首飾りの青い石が強く光った。


 扉の紋章にも光が走る。

 三本の線が白く輝き、花の形が浮かび上がる。


 低い音が、地下広間全体に響いた。


 レインの視界に、文字が浮かぶ。


「血統照合、開始」


 ミラの顔が苦しげに歪む。


「ミラ!」


「だ、大丈夫……」


 光は彼女の手から腕へ、首飾りへと流れていく。

 まるで、扉がミラの中にある何かを確かめているようだった。


 やがて、文字が変わる。


「照合、一致」


「登録名――」


 レインは息を呑んだ。


 今度こそ読めるかもしれない。


 だが、次の瞬間、扉の奥から強い風が吹いた。

 文字は掻き消え、重厚な扉がゆっくりと左右に開き始める。


 長い眠りから目覚めるように、石と金属が軋む。


 扉の向こうには、広い地下通路が続いていた。


 壁には魔石灯が並び、ミラの首飾りに呼応するように一つずつ灯っていく。

 闇の奥へ、青白い光の道が伸びた。


 ガルドが低く口笛を吹く。


「こいつは……ただの地下室じゃねえな」


 セラは表情をこわばらせた。


「保存施設。いえ、避難施設かもしれない」


 レインは扉の向こうへ一歩踏み出しかけた。


 その時、広間の奥から声が聞こえた。


 古い、ざらついた声。


「ようやく、鍵が戻ったか」


 全員が動きを止めた。


 声は人間のものではなかった。

 どこか金属的で、乾いた響きが混じっている。


 ミラがレインの袖を掴む。


「今の……誰?」


 魔石灯の光が、通路の奥を照らしていく。


 そこには、小さな石板のようなものが浮かんでいた。

 表面に刻まれた文字が、淡く輝いている。


 石板は、偉そうな声で言った。


「誰とは失礼な。わしはルミナリア北方守護施設管理補助人格、第七号。もっとも、長いのでノルと呼べ」


 ガルドが顔をしかめる。


「石が喋ったぞ」


 セラが呟く。


「古代魔導具……まさか、まだ稼働しているなんて」


 レインは浮かぶ石板を見つめた。


 地下への扉は開いた。

 そしてその奥には、百年以上眠っていたはずの声が待っていた。


 エルネ村の地下に隠されていたものは、ただの遺跡ではなかった。


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