日本神話
芽依ちゃんはその詩の表情を読み取って、先に描いた図を手元に引き寄せて話を続けた。
「第一章の四つの面の話しに従うと、東の面は精神の面、西の面は物質の面だよね。もし、稜を超える神様がいるとすると、東の面の精神と西の面の物質は、その神様に導かれて南に移動することができるの。つまり、精神と物質は東と西からやってきて、南の面で巡り合うことができるのよ。そして、南の面の世界の人達にとっては、一番、最初に南の面で精神と物質を巡り合わせた神様を、その世界にとっての創生の神様として崇めるはず。」
芽依ちゃんは先に描いた図の上で、その神様の矢印を示した。具体的には、左回りの図の東から南を指す矢印、右回りの図の西から南を指す矢印を手に持ったボールペンの先で示した。
そして、芽依ちゃんは詩の瞳を見つめながら、こう言った。
「もし、この左回りの図の矢印がイザナギで、右回りの図の矢印がイザナミだとすると、二人は南の面で初めて精神と物質を巡り合わせたことになるよね。そのイザナギとイザナミは、左右で一対の神様を形成している男女の神様として位置づけられることが出来る。」
詩は芽依ちゃんの説明に驚いた。
「それって国産み伝説じゃないの… イザナギが左回りでイザナミが右回りだし…」
芽依ちゃんは興奮する詩をたしなめるようにこう言った。
「詩ちゃん、落ち着いて。これはあくまで、イザナギが精神を導いた神様で、イザナミが物質を導いた神様としての話しよ。その反対なら方向は逆になるから、国産み伝説とは一致しない。」
芽依ちゃんは冷静だ。だけど神話の中に方向が出てくる国産み伝説って、少なくとも芽依ちゃんが描いた八つの稜の図面と関係があるような気がしてきた。詩は芽依ちゃんの瞳に吸い込まれるように、彼女の日本神話の解釈に聞き入った。
「そもそも、精神と物質もどこから来たかというと、この左回りと右回りの図のイザナミとイザナミを意味する矢印を遡って見てみると、元々は北の面から左右に別れた矢印で北の面から導かれたことになる。」
芽依ちゃんは、左回りの図面で北から東に向かう矢印、右回りの図面で北から西へ向かう矢印を持っていたボールペンのペン先で示した。
「つまり、宇宙創成の最初に何かが神様に導かれて北から東と西へと左右に導かれ、それが精神と物質になって南へと向かったと思うの。それって、最初は北にあったものが柱の周囲を左右に分かれるようにして柱を回って南で巡り合ったことになると思わない?」
芽依ちゃんが彼女の考え出した仮説を語りだした。詩はその話に聞き入った。
「ちなみに、日本神話の四対の神様の意味は、「男女」、「泥」、「誘」、「会話」とされているの。イザナギ、イザナミは「誘」に該当するから、それ以外の「男女」あるいは混沌を意味する「泥」などの一対の神様が北からの矢印に相当する神様だと私は思うの。」
芽依ちゃんが日本神話の知識を話してくれた。
概念的で理解が難しい話を時折、図面を使って説明する芽依ちゃんの話しは、論理的で明解だった。反論の余地はなかったし、イザナギとイザナミに「誘」という意味があるなんて、詩は初めて知った。確かに漢字の「誘」って「イザナウ」という読み方で、何かを誘っているという意味になる。精神と物質を誘ったということなのだろうか。
参考: 第五章約束 国産み伝説




