創世の物語
詩は芽依ちゃんの言う仮説を理解した。この図面の八つの矢印は、それぞれの面にある何かを隣り合う面に導くための神様なんだ。だから、神様は八人だし、その数は聖数として重んじられているんだ。
「芽依ちゃん、この世界にいる私達が南の面の人だとすると、私たちの世界を産み出してくれた神様って、最初にこの南の面に精神と物質を導いてくれたイザナギとイザナミということになるのね。」
芽依ちゃんが頷いてくれたので、詩は自分の理解に間違いがないという自信を持った。
「うん、そうだと思う。元々は北から柱を左に回った神様と、北から柱を右に回った神様がいるのだけれども、私達には北の面の出来事はよくわからないから、その神様の知識のことも私たちが目にした可能性のあるイザナギとイザナミの知識にして、国を産み出した創生神にしたのだと思う。つまり、南の世界にいる私たちに理解できる存在は、イザナギとイザナミだから、創生神話としては人々にわかりやすく伝えるために、その二人の神様を国産みの象徴にしてイザナギが北から柱を左に回りイザナミが北から柱を右に回って、二人がこの世界を産み出したという伝説にしたのだと思う。」
芽依ちゃんは詩も思っていたことを纏めて説明してくれた。芽依ちゃんのいう神様とは、人格のある神様というよりも稜を超える知識という意味があるので、確かに創生の知識としては同じ知識を持つ神様の中に纏めて伝承したとしても問題はないように思える。広く民間に崇められている神社として、イザナギ神社やイザナミ神社が各地に建立されているのも、人々にわかりやすい神様だからなのかなと詩は思った。
「詩ちゃん、この図面ってこの世界の創生の物語を表しているのよ。その物語って、もしかしたら世界各地に伝承していて、日本神話の国産み伝説とも内容が合致する部分があるのだと私は思うの。きっとエジプト神話の八柱神というのも同じことを伝えているのではないかな。だって、正確に東西南北を向いている四つの面の巨大なピラミッドを建設するなんて、普通はしないと思うの。きっとエジプトの人達も後世の私たちに何か大切なことを伝えたかったのよ。」
芽依ちゃんがそう呟いた。そのとき、膝の上に寝そべるプチの小さな耳がぴくぴく動いた。何かを聞いているのだろうか。
詩は物凄い秘密を芽依ちゃんと解明しているような気がした。第二章の八つの稜は、芽依ちゃんのいう神様の秘密そのものなんだ。もし、いっちゃんがその秘密を知っていたとすると、この現世に戻ってくることが本当に出来るのかもしれないと詩は思った。
詩は、あらためてテーブルに置かれた芽依ちゃんの描いた図面を見つめた。もし彼がその秘密を知る神様なら、芽依ちゃんの描いた左回りの図面の東から南に向かう矢印に乗って戻って来られるに違いない。
詩は芽依ちゃんの紅茶カップにティーサーバーからお代わりの紅茶を注ぎながら、そんな期待に胸を膨らませた。サーバーから溢れ出るフランス製の紅茶からは温かい湯気とともに、ほのかに薔薇の香りが漂った。
参考: 第五章約束 八つの稜の章、八つの稜の意味




