八は聖数
その創生神話に出てくる原初の丘「ベンベン」はヘリオポリスにある。「ベンベン」とは何回も生まれるということから永遠を意味し、ヘリオポリスの神殿に置かれていた「ベンベン石」と呼ばれる四角錘の聖石は、オベリスクやピラミッドの原型と言われていたことを詩は知った。
今回、芽依ちゃんから柱と聞いて、エジプトのことを想い出した詩は、「Bericht für die Wahrheit」に残されたエジプトの創世神話の神様のことを書いていた一通のレポートが頭に浮かんだ。今日はせっかく自宅に芽依ちゃんを招いたのだから、直接見て貰おうと思い、テーブルの上にあるレポート集のファイルを手に取った。ファイルの目次を確認して久しぶりにそのレポートの頁を開いてみた。
あった!これだ、エジプト神話の八柱神。古代エジプトで崇拝されていたこの世界を創造したオグドアドと呼ばれる八人の神様。男女四対の神様で、それぞれ「原始の海」、「闇」、「無限」、「見えざる力」を意味すると伝えられている。何のことかわからないけれど、創生の神々が列挙されていて印象的だったので覚えていた。
詩はその開いたままのファイルを芽依ちゃんに手渡して、こう言った。
「芽依ちゃん、このレポートを読んでみて。エジプト神話に八柱神という神様がいるの。」
芽依ちゃんは、詩から差し出されたファイルをあらためて手に取ってそのレポートを興味深そうに読んでくれた。詩は紅茶を口にしながら、聡明な芽依ちゃんの様子を伺った。プチは膝の上でいつものようにお腹をみせながら寝そべる態勢に入った。
やがて、芽依ちゃんがレポートを読み終えて呟いた。それは物語の内容ではなくて、神様の数だった。
「八なのね…」
詩も八の数が稜の数と一致していることに気付いていたので、固唾を呑んで芽依ちゃんの言葉を待った。
「詩ちゃん、日本の神話にも聖なる数、聖数というのがあるの。」
芽依ちゃんが、興味深い話しをしてきた。詩は謎を解く手がかりを得るために芽依ちゃんの話しを聞いてみたくなった。
「聖数って何?」
ラッキーセブンは聞いたことあるが、日本神話で聖数というのは聞いたことがなかったので、詩は芽依ちゃんに聞き直した。
「聖数とは、聖なる数。永遠とか無数とか安定とかを意味する特別な数字。日本神話上の聖数は八なのよ。その聖数に基づいて、古代の天皇稜は八角形だったし、日本神話に出てくる三種の神器には、八咫鏡といって八角形の文様が入っている鏡と、八尺瓊勾玉という八尺の大きさの勾玉が存在している。民間でも、八百万とか八千代という言葉は無数とか永遠を意味するし、漢字の八の形は末広がりを意味する幸運な数と言われているのよ。」
詩は三種の神器が日本神話の宝物で、天皇が古代より伝世してきた国宝であることは知っていた。だけど、八の聖数にちなんだものであることは初めて知った。それと、詩も小さい頃から八は縁起の良い数だと聞いてきたが、その理由を調べたことはなかった。
日常生活で当たり前に使っていた言葉が実は神話に起源があることを知り、詩は神話を知ることの面白さをあらためて認識した。いっちゃんが神話を探求していたのもこういう気持ちからだったのかなと想像した。
参考: 第三章探究 研究所の謎




