国産み伝説
「それにしても、稜を乗り越える方向が2つあるのはわかるけれど、左回りと右回りって何を意味しているのだろうね。」
詩は芽依ちゃんが書いてくれたピラミッドの図面を見ながら、ふと呟いた。
すると、芽依ちゃんは人差し指を顎に当てて図面を見つめた。彼女が何かを考え込むときの仕草だ。そして、おもむろにこう聞いてきた。
「詩ちゃん、国産み伝説って知っている?」
エジプトとは無関係な質問だった。だけど、いっちゃんの実家から譲り受けた資料のおかげで、詩は神話に詳しくなっていて、その話を知っていた。国産み伝説って、確か神話学研究所の書籍にあった日本書紀に書かれていた宇宙起源神話だ。
「日本誕生のお話しのことかな?」
詩がそう答えると、芽依ちゃんは嬉しそうに話し出した。
「そう、日本の夫婦神イザナギとイザナミの神様のお話しだよ。」
さすが長年巫女さんのバイトをしてきたこともあってか、芽依ちゃんは日本の神社に祀られている神様に詳しい。
詩も芽依ちゃんの知識に負けないように、その神話の下りを想い出しながらこう答えた。
「神様が日本の島々を創っていく話しだよね。」
男性の神様と女性の神様が国を創る話で、天に聳える大きな柱の周りを神様が回る話だったと記憶している。
「詩ちゃんも詳しくなったね。」
芽依ちゃんが深く頷きながら、その神話の内容を丁寧に説明してくれた。
「国産み伝説とは、日本の国を構成している島々を神様が産み出すお話しよ。日本は島国だからこの話は日本の創生神話になると思うの。まず、最初に天から地上に大きな柱が立てられて、その柱を立てた場所に神様のイザナギとイザナミが降り立つの。そして、二人は島を産み出す方法を話し合ってその柱の周囲を回るの。イザナギは左から柱を回って、イザナミは右から柱を回るのよ。初めは上手くいかずにやり直したりもするのだけど、最終的には柱の向こうで二人が巡り合って無事に島々が誕生するお話し。」
「なるほど、日本の神話には左回りと右回りの話しがあるのね。」
詩はなるほどとは思ったが、日本書紀とピラミッドでは場所も全然違うし、芽依ちゃんの話はエジプトの話しとはあまり関係がないような気がした。
詩が怪訝そうな顔をしていると芽依ちゃんはこう話してきた。
「詩ちゃんがパリで見たオベリスクって柱だよね。その頂上にはピラミディオンがあったはず。」
詩はハッとした。そうか、確かにオベリスクは柱だ。エジプトでは、太陽神の信仰もあって天高くに聳える大きな柱が建てられたと聞いている。パリで見たオベリスクのことを調べていたとき、エジプトの古王国時代の都市のヘリオポリスに最古のオベリスクが建てられたことを詩は知った。
そのヘリオポリスという地名はギリシャ語で「太陽の都」という意味だが、元々のエジプト語では「柱の都」だった。つまり、ヘリオポリスはオベリスクの都という意味で、エジプトの創生神話が編纂された場所として知られる古代ではとても重要な都市だ。
参考: 第四章真理 オベリスク




