芽依ちゃんの訪問
「ほらほら、ネコちゃん!」
ネコじゃらしのおもちゃをトレーナー姿の芽依ちゃんが揺らしている。その揺れるおもちゃの先端をプチが一生懸命に追いかけている。ネコの本能を刺激するのだろうか。ぴょんぴょんと飛び跳ねている。左から右へ、右から左へと器用におもちゃを追いかけて小さい子供のように遊んでいる。いつも収納ケースの前に座っていて運動不足ではないかと心配していたので、丁度良い運動になっているなと詩は思った。
今日は、芽依ちゃんを自宅に招いた。いつもはカフェで落ち合うのだが、プチの話しをしたところ、是非そのネコちゃんに会いたいとのことで自宅に来て貰った。芽依ちゃんもペットは飼っていなかったが、とてもネコが好きみたいだ。ネコのお洒落な雰囲気とか、人に媚びずにつんとお澄まししている様子が可愛くて仕方ないらしい。詩もプチと暮らし始めてそういうネコちゃんのツンデレな様子を気に入っているので、その気持ちがよくわかる。
今日の芽依ちゃんはネコちゃんといっぱい遊ぶんだと言って、動きやすいラフなトレーナーの上に秋用のコートを羽織ってやって来た。こういう普段着姿の芽依ちゃんもとても可愛い。詩も今日は出かけないことになったので、朝から部屋着でくつろいでいる。
リビングで芽依ちゃんがプチとじゃれあっている姿を遠目に眺めながら、詩はキッチンでお湯を沸かした。特別なお客様に出すために大事に戸棚に取り置いていたフランス製の紅茶の缶を開けて、ティーサーバーにお湯を注ぐ。紅茶カップとティーサーバーをお盆に載せて、リビングに戻ろうとしたとき、詩は芽依ちゃんに声をかけた。
「芽依ちゃん、ちょっと休憩しない?」
「うん、ありがとう。」
芽依ちゃんはネコじゃらしを床に置いて、リビングテーブルの方に戻ってきた。
もう少し遊びたいのか、プチも芽依ちゃんを追いかけてやってきた。芽依ちゃんがテーブル席に着くと、プチもそのテーブルの脇の床にちょこんと座って、詩と芽依ちゃんの顔を交互に見上げてきた。そういえば、自宅にお客さんが来るなんて珍しいし、プチにとっては初めての来客なのでいつになくテンションが上がっているみたいだ。
「とっても可愛いネコちゃんだね。」
「でしょ。プチは可愛い使者なんだよ。」
経緯を知っている芽依ちゃんはいたずらっ子のような笑顔を見せてこう言った。
「確かに、プチは詩ちゃんに安らぎを与える使者だね。」
芽依ちゃんは、足元にいるプチの頭を撫でた。プチも満更ではない顔をして、触られるがままにしている。芽依ちゃんをとても気に入ったみたいだ。詩もプチが親友を気に入ってくれて、何だか嬉しくなった。
二人でときどきプチを撫でながらくつろぎの時間を過ごしていると、話題が貸金庫のファイルの話しになり、芽依ちゃんが身を乗り出して詩にお願いをしてきた。
「ねえ、もし良かったらその真理の書を見せてくれる?」
そういえば、これまで芽依ちゃんには話しをするだけで一度もファイルを見せたことはない。そもそも、いっちゃんが貸金庫に大切に保管していたものだから、詩もファイルを宝物扱いにしていて外に持ち出すことはなかった。なので、これまで芽依ちゃんを含めて誰にもファイルを見せたことはない。
参考: 第4章真理 貴重な情報




