植物の声
「植物がその人を記憶していて、怖い人が来たとおびえたの?」
菜美ちゃんが聞いた。
「そうみたい。」
佐藤さんが答えた。
「まるで、本当に意識があるみたいね。」
詩が相槌をうった。
「だから、学者の間でも議論になっているのよ。」
佐藤さんは、話を続けた。
「植物同士がコミュニケーションを取っていたとしたら、樹々の一本一本は小さな存在だけど、それが繋がっていくと森全体にやがて一つの意識が芽生えてくると私は思うの。例えば、植物が一致団結して森を守ろうとしたら、人間には樹々や森が感情を持っているように感じると思うの。」
佐藤さんのその話を聞いて詩は太古の時代に、どこかの世界に美しい湖があって、その湖畔の森に動物たちが集っている情景を思い浮かべた。そのイメージが伝わったのだろうか、佐藤さんがこう言った。
「きっと今よりも自然が身近だった昔は、人間は植物や森とコミュニケーションを取っていたんじゃないかな。そしてそのときの人間には、植物や森の声がもっと聞こえていたと思うの。私ね、それが各地の伝承に残されている妖精の正体じゃないかと思っているの。」
佐藤さんの言葉が詩の耳に残った。
ヨーロッパ各地の伝承に残されている妖精。
エルフ、フェアリー、ニンフ、ドワーフ…
薔薇島での出来事が詩の脳裏をよぎった。
風の音、樹木の香り、鳥のさえずり。
あれは、本当に風の音だったのだろうか。
アルバムにあったいっちゃんのメモの内容が頭に浮かんだ。
古の約束の地で
二つの色が巡り合う
エルフの調べに合わせて
永遠を誓い合う
「エルフの調べ」って、もしかしたら植物の声だったのかもしれないと詩は思った。そう、あの島にあった薔薇の樹々の声だったのかもしれない。
前世のいっちゃんには何かが聴こえていたのだろうか。現世で巡り合った私に伝えたかったことって、まさかその「エルフの調べ」…
そういえば、彼の名前は「樹」だ…
詩の胸の中で何かが高鳴った。
これは偶然だろうか。名前の意味など、今まで考えたことなかったけれど、何か意味があったのだろうか。
今日、詩は凄い秘密を知った気になった。
参考: 第2章伝言 彼の実家
第4章真理 エルフの調べ




