超音波
その話はこうだった。樹々の中には虫に捕食されると、その虫の天敵を呼び寄せる匂いを出す樹があるらしい。つまり、捕食している虫の天敵を呼ぶことで、間接的にその虫を撃退することができるからで、それは植物の高度な防衛反応として理解されているらしい。
ただ、その場合もコミュニケーションとしては、伝えている相手は虫になるので、先の果物やお花の話しと同じで植物同士のコミュニケーションではない。佐藤さんが言いたかったのは、その高度な防衛反応をする樹がたくさんの樹々の中にあった時の話しだった。
つまり、たくさんの樹々の中に立っている一本の樹が天敵を呼ぶ匂いを出すと、周りの樹もそれを認識して同じ匂いを出すことがわかったというのだ。つまり、たくさんの樹々が一斉にコミュニケーションを取り合って同じ防衛反応を示すのだという。
まるで樹々同士が意識を持っていて、意思疎通しているようだと佐藤さんは言った。
『危ないよ、みんなで虫を追い払おうね。』
樹々がこんな風に話し合っているようだと、佐藤さんは樹々の気持ちを代弁するように言った。
少なくとも、樹々も気孔を通じて動物同じように呼吸をしているので、その匂いを感じることが出来るのかもしれない。でも、だからといって、周囲の樹々に合わせて自らも同じ匂いを出す現象には何らかの意識の存在を感じてしまうと佐藤さんは話した。
詩と菜美ちゃんも不思議な植物の話しだけど、佐藤さんの話しに共感した。
佐藤さんは、また別の研究の話しを紹介してくれた。その研究では植物にストレスを与えると超音波を発することが判明したとのことだった。例えば、植物が切断されたり、水不足になったりすると、植物は超音波を出すらしい。これも周囲の植物に危険を伝えているのだと、佐藤さんは言う。
そういうことがあるんだと、詩は佐藤さんの話を興味を持って聞いていた。同じように話を聞いていた菜美ちゃんが、佐藤さんに素朴な質問をした。
「ごめん、その超音波って何?」
佐藤さんは、即答した。
「人間の耳には聞こえない音よ。周波数が聞き取れないくらい高い音のことをいうらしいの。ソプラノ歌手の声みたいな音なのかな。もちろん、私にも聞こえないけど。」
詳しく調べてきたというだけのことはあるなと詩は思った。少し専門的な研究の話しが続いたので、菜美ちゃんが息抜きになると思ったのか雑談を投げかけてきた。
「クローバーの話しとは関係ないけど、夜中に若者が集まる場所でモスキート音を鳴らすと、若い人が嫌がって寄ってこないという話を私聞いたことがある。年配の人には高い音が聞こえないけど、若い人には聞こえるんだって。面白いよね。」
それを聞いた佐藤さんが満面の笑みを浮かべてこう言った。
「菜美ちゃん、さすが鋭い!」
彼女の瞳が輝き、星のイヤリングが光って揺れた。
「え、何が鋭いの?」
「どういうこと?」
菜美ちゃんと詩が、同時に反応した。




