動物病院
詩はそのままネコちゃんと一緒に動物病院に向かった。スマホでマップを確認しながら歩いていくと、やがてワンちゃんやネコちゃんの可愛いイラストが描かれた看板を掲げた病院に到着した。実家にいたときはもちろんのこと、このアパートで暮らしてからも私は一度もペットを飼った経験はない。なので、動物病院に来ること自体が初めてだった。
初めて入ったフローリングの動物病院の待合室には、座席の脇にペット用のケージを置いた人が一人座っていただけで、意外と空いていた。ここは、完全予約性なのだろうか。詩は、受付で名前を告げた後、淡いグリーン色のベンチシートに腰かけてネコちゃんと順番を待った。
やがて、詩の順番になり名前を呼ばれたので、ネコちゃんを抱きかかえて診察室に入った。初対面の獣医さんは優しそうな年配の男性だった。詩がここに来た経緯を話すと、親身になって話を聞いてくれた。動物が好きな先生は、性格が優しいのかも知れない。子猫も嫌がることもなく、大人しく先生の診察を受けていた。
先生からは毛並みも綺麗に整えられているので、やはり、飼いネコかも知れないと言われた。ネコちゃんが蚤やダニのお薬を首の周囲に処方して貰っている間、詩は自宅にネコちゃんを連れていく際に気になることを根折羽織、先生に聞いてみた。既に葉音から聞いた話と重なることも多かったが、先生からも言われたことで、ネコちゃんとの生活に必要なことは全て理解できた気がした。
簡単な血液検査もして貰った。その結果が出るまでの間、待合室で迷いネコのサイトを検索してみた。もしかしたら、飼い主が探しているかも知れないと先生に言われたからだ。確かにこんな可愛いネコちゃんがいなくなったら、大騒ぎになるだろう。詩はいろんなサイトを丹念に調べてみたが、子猫の情報はなかった。
「湖嶋さん!」
あらためて受付で名前を呼ばれたので、詩はネコちゃんを抱えて再び診察室に入った。
診察室では、先生が検査結果を眺めていた。詩は丸椅子に腰かけて先生の発言を待った。もし悪い結果だったらどうしようと不安だったが、詩の方を向いて、先生は笑顔でこう言った。
「とても野良猫とは思えないほど、ネコちゃんの健康状態は良いですよ。」
胸の中がほんのり熱くなった。可愛いネコちゃんは健康だ。詩は安心した。
その後、動物病院を出た後、詩はネコちゃんと一緒にペットショップに行って必要なものを購入し、自宅に戻った。結局、持てないくらいの荷物になって、ちょっとした引っ越しをしたような状態になった。やはり動物病院に行く前に、管理人さんに買い物袋を預かってもらって大正解だった。
自宅に戻ってからも、あらためて迷い猫のサイトをチェックしてみたが、このネコちゃんを探している人はやはり見当たらなかった。当初想定していたような子猫の一時保護ではなくなることを、詩は覚悟した。そのときだった。
「ミー」
詩を見上げた子猫が初めて声を出した。小さいけれど可愛い声だった。こうして、ある日突然、詩とネコちゃんとの生活が始まった。




