56.女性の戦い
「あーーーー」
いつもの塔の大浴場、ここに浸かると塔に戻ってきた実感が湧く。
少し早めに仕事を上がったからいつもの面子はまだいない、と思ったら親方が入って来た。
「親方! お久しぶりです」
「おぅ、長い里帰りじゃったのぉ」
「いろいろと手間取りまして、でも親方がいるうちに帰ってこれてよかったです」
親方は一月後には塔を辞めてドワーフの国に帰ってしまう。
「それで王国の内乱や帝国との問題は何とかなったかのぉ?」
「上手く収めたつもりですって、あれ? 親方って自分の身分を知ってましたっけ?」
「儂は知っとったぞ、製造部部長じゃから身元は把握してしておるぞ、今回お前さんと一課課長が王国に向かったのも聞いておった、今は武器一課に皇子、薬品一課に王女と身分の高い者が多くて、お前さんの配属先には頭を悩ませたものじゃ」
製造部に王族が三人もいるのか、親方もやりずらかっただろうな。
親方に王国での事をひとしきり愚痴っていると
「あー! アルおかえり」
ケビンが来た、親方以外には教える必要はないから王国の話しはお終いだ。
「ケビン久しぶり、お前ら一課はまとまってるみたいで羨ましいよ、二課の現状はひどいもんだ」
「随分久しぶりなのにいきなり職場の愚痴なんだ、それよりも今まで何してたの? 四か月くらいいなかったじゃないか」
「いろいろあんだよ、おっともう時間がないな、じゃあ親方お先です、ケビンは……気が向いたら話してやるよ」
「おぅ、またのぉ」
「えー教えてくれないんだ」
風呂を後にしてこれから女性陣に説明をしに行かなければならない。
塔を出て三番街方面に向かう、待ち合わせ場所はカフェだ、前に一度行った事がある。
記憶を頼りに歩くとお目当てのカフェがあり、店の前に丁度ミレーネさんが来ていた。
「あぁアルも今来たのね」
「もう、ミレーネさんが婚約者とか言うからややこしい事になったじゃないですか」
「いいじゃない、どうせいつか言うのなら二課のダークエルフの前で言ってやったわ、何か挙動不審だったからアルとの繋がりを強調したのよ」
そうだ、ミレーネさんは薬品二課に襲われたと思ってるんだった、あの事件にギーさんは関わっていない事も伝えなくては。
「薬品二課の課長は良い人ですよ、それに他の人が捕まりましたからそちらが犯人の可能性が高いです」
「そうなの? でもダークエルフよ? まだ何か企んでるかもしれないじゃない、アンタ騙されてない?」
一般にダークエルフの認識はこんな感じなのか、ギーさんも大変だね、その辺の誤解を解くのと、ミレーネさんとの婚約が偽装な事を説明しなければ。
個室に案内されるとルイさんスバルさんギーさんの三人はすでに座っていてテーブルの上には大量のケーキが並んでいた。
「あれ? 早いですね、時間間違えました?」
「間違えてないぞ、俺たちが早めに来ただけだ」
「そう、作戦会議してた」
作戦会議ってなんだ? それにしても三人はいつの間にか仲良くなってたのね。
「みなさんお疲れ様です、何かいろいろと誤解があると思うのでこの場で話し合いましょう」
自分も言いたいことは沢山ある。
「私は経理部所属のミレーネよ、もともと経理部だったんだけど一度辞めて最近戻って来たの、さっきも言ったけどアルと婚約してるわ」
「私は薬品二課課長のギージャムよ、私はその婚約を認めないわ!」
えっ? 何でギーさんが?
「何であなたに認めてもらわなくちゃいけないの? 関係ないじゃない、それに私が一度塔を辞めることになったのは薬品二課のせいよ」
「あっ、経理部で襲われた人って……」
「そうよ、私とマルカス係長よ、どうせアンタがやらせたんでしょ」
「違う! 私じゃない! けど薬品二課の者が関わっていたのは間違いないけど……」
「ほら、やっぱり、薬品二課が怪しいのはわかってたのよ、これだからダークエルフは信用ならないわ」
「ミレーネさんそれは…」
「まあまあミレーネさん、その事件にギージャムは関わっていないよ、去年の会議でそれは証明されたんだよ、だから今でも課長を続けているわけだ、それにダークエルフだけどギージャムは良いヤツだぜ」
「そう、ギーはぼっちだけど良い子」
自分が言う前にスバルさんとルイさんが擁護した。
「そ、そうなの、まぁわかったわ、でも婚約を認めないのは何でなのよ」
「うっ、それは……」
「ミレーネさん婚約はどうせ破棄するんだからこだわらなくていいじゃないですか」
「えっ? 破棄?」
「アル、どう言う事だ?」
「アル、説明して」
「何で今言うのよ!」
「だからそう言う事も含めて説明したいんじゃないですか、自分にもしゃべらせて下さいよ」
このままだと話がまとまらない、もう全部話して楽になりたい。
一旦落ち着いて紅茶を飲んでから話し始める。
「まずはさっきスバルさんが言ってた通りでギーさんは事件に関わっていません、猫好きの良い人です、それとミレーネさん、差別は良くないですよ」
「……そうね……ギージャムさん、ごめんなさい」
ミレーネさんは素直に謝った。
「あっ、その……私も部下の行動とかを把握出来てなくてごめんなさい」
「事件の犯人などは総務が調査してるでしょうから、詳しくはそちらから聞いて下さい」
「わかったわ」
「あの襲撃事件の話しはこれで終わりにしましょう、次に自分はオルタニア王国第四王子アルフレッド・オルタニアなんです、ルイさんとギーさんは知ってました?」
まずは身分を明かすところから始めよう、ミレーネさんはもちろん、スバルさんも知っている事だが。
「俺からは伝えてないぜ」
「私はエル姉から聞いてた」
「えっ? 王国? アル君が王子? 王子って王様の子供って事?」
「ギーさんだけ知らなかったみたいですね、自分は一応王国の王子なんです」
「えー! スバルもルイも知ってたの?」
「あぁ知ってた」
「私も、でもアルが言わなかったから黙ってた」
「なんでよ!」
「すいませんギーさん、塔では身分を隠してた、と言うか自分からは言わなかったんで」
「そ、そうなのね、私だけ知らなかったのね……」
何かギーさんが落ち込んでしまった。
「それも踏まえて今までいなかった期間に何があってミレーネさんと婚約偽装をしてるのか説明します」




