52.王子の責務
天幕を出て、騒ぎが起きている方に走り出す、原因はすぐに見えた、包囲している兵士の中に三メートルほどの巨人がいる、赤黒い肌に頭には二本の角が突き出ている。
一度拳を振るうと兵士たちが弾き飛ばされているのが見えた、アレはオーガではないだろうか?
包囲した兵士の中でグラハムがオーガと対峙していた。
「グラハム! コイツは何だ?」
俺は剣を構えながらグラハムの横に付く。
「わかりません、しかしブラド皇子がいたテントから出てきました、それにコイツは喋るのです」
「喋る? 話が通じるのか?」
「いえ、意思疎通は無理かと、ただ喋る内容が……」
オーガが拳を振るって来たので俺とグラハムは左右に分かれてこれをかわす。
「グオーーー!!」
オーガが咆哮を上げそして喋り出した。
「グガッ……余は……皇帝に……ガッ……余はなるの……グオッ! なるのだ!」
確かに喋った、しかも自分の事を余と呼ぶ奴は一人しか知らない。
「あのオーガはブラド皇子で間違いない様だな」
「してキーコン様、討伐してよろしいのですか?」
「倒すしかないだろう、王国に置き土産として置いとくか?」
「それは王国に恨まれそうですな」
「兵士たちは下がれ! 負傷者も引きずってでも動かせ! この化け物は俺とグラハム殿で倒す!」
決っして帝国兵が弱い訳ではない、陣形を組んで対人戦なら力を発揮するだろうが化け物相手にはそうもいかない。
グラハムは元冒険者だったと聞いていたし、俺もそこらの兵士よりは力も速さもある、犠牲を出さずに倒すには少数精鋭だ。
俺はオーガの前に立ち、攻撃をかわし続ける、負傷者と兵士がオーガの近くからいなくなったタイミングでグラハムが背後から斬りつけた。
パンチをかわし、足を斬りつける、前後でグラハムとこれを繰り返す、オーガの足は血まみれになっているが倒れる気配はない。
上半身や頭は届かないので今は足を削る事しか出来ない。
攻撃が当たらない事に業を煮やしたのかオーガは足元の砂を掴んで投げつけてきた、オーガには砂でもこちらにとっては石礫だ。
なんとか剣の腹でガードをしたが少し体制を崩してしまう、ここで意表を突いてオーガは蹴りを放ってきた。
グラハムが軸足を斬りつけてくれたおかげで軌道がズレ、ギリギリかわす事が出来たが今のは危なかった。
こちらの攻撃はじわじわとしか削れないのに向こうの攻撃を一発でも喰らえば致命傷だ、いつまでも集中力が続くかもわからないしそろそろ魔剣を使うべきか?
「おー皇子も随分と男前になったじゃないか」
いるはずのない者の声が聞こえる。
バカな?! 何で出てきたんだ! コイツの意識がまだあるならお前が狙われる可能性は高いんだぞ!
「グガガッ! コウテイ……オウジ……オウジガーーーーー!!!」
マズイ、クランを認識しやがった!
「グラハム足だ!」
「承知!」
二人で足を切り刻む、オーガの意識はクランに向いてるので反撃はない、だが一歩一歩クランに近づいて行く。
「クラン!!」
オーガはクランまであと一歩の所で動きを止め、そして前のめりに倒れた。
「キーコン、グラハム、お疲れ様、怪我はないかい? アル君がいい仕事をしてくれたよ」
アルが? どう言う事だ? それにオーガは?!
「いやー危うく潰される所でしたよ」
俺たちの目の前に突然アルが現れた。
「なるほど、そう言う事か」
聞けばアルが持って来た魔道具を使ったのだった。
「今は刺しっぱなしですか、あのナイフは後から回収しますか……ら……てっ、あれ誰ですか?」
見るとオーガの脛にナイフが刺さっている、その脇にはローブを来た者が佇んでいた。
「人間は面白いわねぇ、こんな物を作るなんて」
頭まで被ったローブで顔が見えない、声は女だが若いのかしわがれた声なのか判断出来ない不気味な響きだ。
ローブ女はナイフを引き抜くとまじまじと観察している。
「我が軍の者ではない様だが、貴様は何者だ?!」
グラハムが質問するが女はナイフの観察を止めない。
「ほうほう、怠惰の能力を付与しているのかぁ? 興味深いねぇ、せっかく力を与えてやったのにこんなおもちゃで倒されるなんてねぇ」
「オイッ! 聞いているのか?!」
グラハムが女に手を伸ばすが体ごと弾き飛ばされた。
「大丈夫か?! グラハム!」
吹き飛ばされたグラハムに声を掛けるが反応がない。
「キーコン! 魔剣を使え!」
「だが……」
「キーコンさんお願いします! 自分わかりますその人がヤバイのが!」
皇子と王子が危機を感じる存在か、ならば、俺は魔剣に魔力を込めて振るった。
女のいた場所に火柱が立つ、近くのオーガもいっしに焼けているので辺りに嫌な匂いが立ち込める、そして手の中にあった魔剣が砕け散った。
炎が収まるとそこには異形な者が残った、人型の煙だ、目と口が在るべき場所は暗く黒い。
「あぁ、ローブがないと身体が維持出来ないねぇ」
煙がゆらゆらと揺れながら喋る、あれが本体なのか?
「残念だなぁ、面白そうな人間たちを見つけたのにねぇ、まぁいいさ、あんたたちの顔は覚えたしねぇ、今はこのおもちゃだけで満足しとこうかぁ」
煙はナイフごと空中で霧散する様に消えていく。
異形の気配がなくなると身体中から汗が吹き出した、あの存在がいなくなってやっとわかった、かなり危険な状況だった事が、クランとアルはいち早くそれに気づいたんだな、俺ももっと危機管理能力を鍛えねばならないな。
「グラハム軍長! グラハム軍長!」
兵士がグラハムに声を掛けている、そうだグラハムはどうなった?
グラハムの両肩には深い刺し傷があった、あの一瞬で二ヶ所刺されたのか、しかも刺したのがあのナイフなら解呪しないといけない。
「ポーションを使っても傷口がふさがりません!」
何だと! それじゃあグラハムは……いや塔まで連れて行ければ何とかなるはずだ。
「火魔法を使える者はいるか、傷口を焼いてでも出血を止めろ、この軍にも帝国にもグラハム殿は必要だ、必ず助けるぞ!」
その後グラハムの傷口を強引に塞いだが猶予はあまりない、すぐに塔に連れて行かなければ。
「キーコン、グラハムを頼む、お前が行けば塔での治療も何とかなるだろ?」
「はい! 自分が行きます! 自分が責任を持ってグラハムさんを塔に連れて行って治療します!」
アルが名乗り出たが、
「アル君、それは無理なのはわかっているだろ? 提出する文書もまだ書かれてないし、軍をまとめるグラハムもいない、それにこれから二国間で共同事業を始めようとしてるんだよ? 君がいなくなっていい訳ないだろ」
クランに却下された。
「そんな! もう塔に戻りたいです! 国のゴタゴタに巻き込まれるのやです! 面倒くさいです! でもナイフを失くした事で副塔長に殴られるのもやです!」
「アル君わがまま言うな、キーコンが代わりに副塔長に殴られてやるから君はここで出来る事をするんだ」
何故か俺が殴られる事になっているんだが?
「うーわかりました、キーコンさんお願いします、それでどのくらいかかりますか?」
「まぁ早くて三ヶ月、大体五ヶ月くらい見とけば間違いないかな」
「そんな! 開発部の始動に間に合わないじゃないですか!」
皇子も王子も大変だな。
ここまで読んで頂きありがとうございます、王国出張編はここで一区切りになります、次からは塔の日常に戻りたいと思います、これからも読んでもらえると幸いです。




