50.皇帝を目指す者
「余の部隊に攻撃を仕掛けたのはお前らかと聞いているのだ!」
カイゼル髭を生やした小太りの男が怒鳴り
「次期皇帝の質問だぞ早く答えろ!」
取り巻きの一人が続く。
「やぁどうも、いかにも、攻撃したのは私達だ、それが何か?」
クランは答えた、敵陣の真っ只中なのに普段と変わらない様子で。
「なんだと! お前らは王国軍か?! 帝国に逆らうのか?!」
別な取り巻きが怒鳴る。
「私達は王国軍ではないよ、それにしても君たちは王国を侵略しに来たのかい? だめだよ、きちんとした手続きを取らなきゃ、帝国と王国は不可侵条約を結んでいるんだよ、知ってるかい?」
「そんな事は知っておる! 余は王国そして他の国も支配し、大陸統一を果たす皇帝となるのだ」
「君が皇帝? 面白い冗談だね」
「貴様!! これを見よ!」
小太りカイゼル髭は右腕を突き上げた、そこには黄金の腕輪が見えた。
「これぞ次期皇帝になる証! 余こそが次期皇帝となる男! ブラド・ディ・カルヴァス皇子である!」
おぉ! と取り巻きたちが声を漏らし拍手で称えている、何だこの茶番は。
「理解したか?! 皇子に逆らうな!」
「そうだ! コイツら攻撃してきたんだ!」
「早く捕まえろ!」
取り巻きどもが騒ぎ始めた時クランが魔剣を振るった。
魔剣から炎が吹き出しあっという間に取り巻きたちを包んだ、彼らは声も上げれずに悶えている。
炎が収まると、辺りに肉の焦げた匂いが立ち込め、パキッと乾いた音を立ててクランの持っている魔剣が割れた、これで使えるのは俺の持っている魔剣のあと一回だけとなった。
クランは髭と服が焦げ、尻餅をついた皇子に近づき胸ぐらを掴んで立ち上がらせた。
「なっ……余は……皇帝になる……」
「近くに置く者は選んだ方が良いですよ、皇子」
そう言って皇子の顔面を殴りつけた。
「ぐぼっ!」
皇子は白目を剥いて倒れた、周りの兵士達はどうしたらいいのか戸惑っている。
そんな中クランは意外な言葉を放った。
「もう一度聞こう、指揮官殿はどちらかな?」
「私がこの軍を率いる軍長のグラハムだ」
兵の中から眼帯をした屈強な兵士が名乗り出た。
「挨拶が遅れてすまないね、ちょっと邪魔な輩は排除させてもらったよ」
「貴殿は皇族に害を為してこのままで済むと思っているのか?」
グラハムと名乗る男は剣を抜き構える。
「思っているよ、君たちもこの行軍がおかしいと思っているだろ? こんな不意打ちみたいな侵略戦争が許されるはずはないんだ」
「だからと言って皇族や帝国軍に害を為して良い事にはならないぞ」
グラハムは抜き身の剣を揺らしながら近づいてくる、俺も剣を構えたまま前に出ようとするがクランは手で制した。
「あの腕輪は本物だ、だから君たちも従っているのだろう? そんな君たちに新しい命令を下そう」
クランは懐から金の腕輪を取り出し、それを掲げた。
「私はクランベルド・ディ・カルヴァスである! 今まで命令を下していたブラド皇子は重大な法律違反を犯している! この侵略戦争がそうだ! このままでは君たちも罰を受ける事になるだろう! だがこの戦争はブラド皇子の独断である! 君たちは従わざるを得なかった! これからわたしに従えばクランベルド・ディ・カルヴァスの名において君たちに責が及ばない様、計らおう! 私が最初に下す命令はこの馬鹿げた戦争を止める事だ!」
クランの声は良く通るな、シンと静まり返った兵士達の中グラハムが刀を鞘にしまい跪いて刀をクランに捧げた。
「クランベルド皇子、私はあなたに従います」
「なっ、どうにかなったろ」
「いや、ギリギリだろ」
あの後はグラハムが従った事で軍はすんなりクランが掌握することが出来た。
「で? これからどうするんだ? 兵を連れて帝国に戻るのか?」
とりあえず戦争は止める事は出来た、後は戦犯の髭皇子を帝国に引き渡すぐらいしかない。
「せっかく帝国兵が二百人もいるんだ、王国と交渉しよう」
「領地から引き上げる代わりに何か要求するのか?」
「そんな事はしない、寧ろ攻め込んだこちらが賠償を支払わなければならないだろう、それよりも、もっと帝国と王国、俺と相手がウィンウィンになる様な事を提案するつもりだ」
クランは何手も先を見ている、これが皇帝を目指す者の考え方なのか、目の前の事しか見えない俺には考えが及ばないな。
「交渉やどう動くかは全てお前に任せる、俺は外で剣を振ってくる」
考える力がないならアイツを守る盾の役目ぐらいは担いたい、俺には剣を振る事しか出来ないから。
「キーコン、お前が俺の隣にいるだけで俺は強くなれるんだ、だからあまり気負い過ぎるな」
「そうか、だが今は身体を動かさずにはいられないんだ」
「まぁいい、何かで発散する事も大事だからな、そう
いや王国との交渉相手に面白いヤツを指名したんだ、お前も驚くぞ」
面白いヤツと言われても想像すら出来ない、やはり俺は考えるよりも剣を振っている方が性に合っている。




