04.風呂仲間
「昨日無事に孫が産まれたわい、これで孫は八人目じゃ」
「まぁおめでたい、私はまだ孫が二人しかいないわぁ、息子夫婦に頑張れって言ってるのよ」
「孫の小遣いの為に頑張って働かんとなぁ」
「まぁまぁ八人分稼ぐのは大変ねぇ」
ガハハ、オホホ。
ここは老人ホームではなく歴とした職場である。
道具四課に配属されて二ヶ月が経とうとしている、四課配属二十名は、ほぼ女性で年齢が高い人も一部いる。
他の部や課の人に聞いたところ特殊な人が四課に回されるらしい、って自分最初から四課なんですけど。
「主任それとアル君、これを道具一課に、こちらとその書類を武器一課に運んでくれ」
力仕事は男性に回ってくる、老人や女性に重い荷物を運ばせる訳にはいかないしね、でも重そうな箱が六箱もあるよ。
「アンナ君はこれを薬品ニ課に運んでくれ」
「え〜!」
例外もあるようだ。
主任は軽々と二箱担ぐとスタスタと歩いて行く、とても義足とは思えない、こちらも二箱担いでヨロヨロとその後を追う。
「アルー鍛えろって言ったよな」
「ハッ、なかなかっ、ハアッ時間っが取れなくて……」
嘘である、鍛えよう勉強しようとは思うが寮に帰ればゴロゴロし休みの日は街をぶらぶらと怠惰な生活を送っている、そもそも元とは言え冒険者の体力と比べないで欲しい。
「後輩君おっ先ーー!」
アンナさんが二箱担いで横を通り過ぎて行く。
主任の冷たい視線が痛い。
陽射しは暖かく汗ばむ陽気になってきた、この地域の気候は日本に近くもうすぐ夏にあたる時期になる。 今日は特に荷運びの仕事が多く汗だくでクタクタだ、仕事を終える八の鐘が鳴り、残っている仕事がないか確認したら
「お疲れ様でした!」
毎日の楽しみ、風呂である。
白の塔大浴場
意外にも利用者は少ない、風呂に入ると言う文化が根付いていないこともあるが、塔の敷地内にある為、部外者は入れず、寮住まいか一部の風呂好きしか訪れないからだ。
男湯の引き戸を開け(混浴ではない)脱衣所で服を脱ぎ体を湯で流して湯船に浸かる。
やはり風呂は良い、一日の疲れが抜けて行く様だ。
「あーー」
自然と声が漏れる。
「おっさんくさいぞ、アル」
前世と合わせるともうおっさんだから仕方ない。
「ほっほらアルも疲れてるんだよ」
最初に声を掛けてきたのが自称道具一課のエース、カイトだ、金髪坊主で耳と鼻にピアスをした軽薄そうな若者だ。
もう一人が気の弱そうな緑髪のエルフ、薬品一課所属のケビン。
「そうだケビンの言う通りだ、お前ら他の課の雑用でこっちはクタクタだ」
「ぼっ僕はそんなつもりじゃ……」
「お前がクタクタなのは筋肉が足りないからだ!」
ザブンっと湯船に浸かってきた筋肉ダルマが話しかけてきた、スキンヘッドに浅黒い肌をしたマッチョ、通称、兄貴。
「製造部に兄貴みたいな筋肉は必要ありませんよ!」
今日荷運びが多かったのも筋力トレーニングの為主任が割り振ってきたからだ、兄貴みたいなマッチョは目指してない。
「ガハハ! 若人は元気があってよろしい」
そう言ってゆっくり湯船に浸かるのは、立派なヒゲを蓄え短い手足、樽の様な腹をしたドワーフらしいドワーフの親方だ。
同じ時間に大浴場に来るため大体いる面子は同じになる、裸の付き合いの風呂仲間達だ。
「おい、今日もセイリューさんいるな」
カイトが見ているのは浴槽の隅にいる人だ。
虚空に向かって何かぶつぶつ呟いている中性的な綺麗な顔立ちの人、頭には二本の角が生えているので人族でないのはわかる。長く青い髪が湯船に綺麗に広がり半円を描く、だが何より気になるのは服を着たままな所だ。
最初は驚いたが最近は見慣れてきた、服は脱いだ方が良いんじゃない?
「あの方には関わらん方がいい」
前に親方に言われたので気にしない様にしているが風呂に服着た人がいるのって違和感半端ないんだよねー。
「あれ? これ魔力切れてんじゃん、総務はしっかり管理しろよ」
先に脱衣所に出ていたカイトが何かぼやいてる。
「俺今日の付与で魔力すっからかんなんだよなーケビンは?」
「あのっ僕も厳しいかも……」
「んじゃ兄貴頼みます」
「俺はこれから夜勤だから余計な魔力は使えん!」
「おっアル、魔力余ってっか?」
脱衣所に行くとケビンに尋ねられた、体力は減っていても魔力はいくらでも余っている。
「いくらでもあるよ、何かあったの?」
「コレの魔力が切れてんだ」
それは台座に人の背丈程の棒が刺さった物だった、たしか脱衣所の四隅にあって冷気をだす魔道具のはずだ、よく風呂上がりの人達が群がってたな。
「これで涼まないとまた汗をかいちまうからな、頼むよ」
「いいよ、どうせなら全部補充しようか」
そう言うとカイト、ケビン、兄貴が残る三本を持ってきた。
台座の裏側に付いてる魔石に一つ一つ魔力を充填していく、四本目が終わる頃には一本目は冷気を発していた。
「アル、魔力の充填速いじゃん、道具三課に行けよ、その速さは使えるぜ」
カイトに言われたが今はまだ四課で頑張りたいのだ。
「四本まとめてあるとさらに涼しいねー」
ケビンが棒に顔を近づけながら呟く。
確かに棒の周りは涼しいのだが一部だけなのだ、何かこうもう少しどうにか出来そうなんだが……。
「カイト、この板に風魔法付与する事って出来る?」
脱衣所の隅に立て掛けてあった一メートル四方程のベニヤ板を持ってきて聞いてみる。
「木は付与しづらいが出来るぞ、俺は魔力切れで実践出来ないけどな」
魔力付与はやった事はないが試してみる価値はある。
「実験したいんだけど教えてもらう訳にはいかないかな?」
「お前道具課なのに付与の仕方知らないのかよ!」
雑用に魔力や魔力付与は必要ないのだよ。
「付与したい所に自分の魔力を薄く貼り付けるイメージだ、今回は風魔法だからその板の前面に薄い風魔法の魔力を貼り付ければいい」
風魔法を薄く……うまく行く気がしない。
「あくまでもイメージだ、他にも手前からインクを流す様にじわじわ広げるイメージをするのもありだ」
そっちの方が出来る気がする。
手前からじわじわとじわじわと……手前から一番奥まで……出来た!
自分でやったからよくわかるが魔力の膜は穴だらけだし厚い所に薄い所と均一でもない、だか魔力を流せば板の前面から風が吹いた。
「最初は付与しやすい金属で練習するんだが、初めてでこれなら大したもんだ、で、この風のでる板をどうすんだ?」
「この棒の奥側に置くだけだよ、カイト、ケビンこっち側に来てみて」
「おおっ!」
「さっきより涼しいよー」
簡易クーラーの出来上がりだ。




