03.道具四課
トレント騒動の翌日。
「おはようアル君、昨日は災難だったな」
今日もスーツが決まっている課長代理が挨拶をくれる、昨日は疲れたので直帰させて貰えたらから主任が報告したのだろう。
「おはようございます、あんな危険な仕事だと思いませんでした、だから危険手当と馬車代下さい」
ダメ元で申請してみる。
「あの森は魔物は滅多に出ないんだが運が悪かったな、あと経費は出せないぞ」
やはりダメか。
「ンマー薬草採取もまともに出来ないのかしら、しかもバレル様のお手を煩わしたそうじゃないの!」
派手な化粧に派手な服を着たケバケバしいおばさんが金切り声を上げながら近づいてくる、たしかガッカリーナだかガックリーナ係長である。
「ガッケリーナ係長、バレルバード主任達は魔物に襲われたが依頼された薬草は規定量納品している」
課長代理が庇ってくれるがさらに係長が続ける。
「薬草採取なんて子供でも出来る仕事じゃないの! 大人なんだからノルマ以上の仕事をするのが当然でしょ! あんたがだらしないからバレル様もお休みになったのよ!」
ガッケリーナ係長だったか、もうガッカリ長でいいだろこのオバハン、何を言っても無駄そうだからとりあえず謝っておこう。
「すいません、係長」
「謝ればいいってもんじゃないのよ!」
予想通りの定番セリフが返ってきた。
「バレルバード主任はもともと有休をとっているから昨日の件で休んだ訳ではない、それとガッケリーナ係長、朝一番に薬品三課に資料を持って行くよう言ったはずだ、すぐに行きたまえ」
「ンマー! 代理なのに偉そうに、フンッ!」
捨て台詞をはきながら去っていく、主任より役職が上なのになんでバレル様呼び何だ? なのに課長代理は軽視する発言もするし、ああいう上司とはなるべく関わりたくない。
「係長は主任の事が好きで大ファンなんだよ」
噂話に詳しそうなアンナさんに聞いてみた。
「アレ? 主任結婚してましたよね?」
「お嫁さん二人と娘さんが四人いるよ」
なんと羨ましい、イケおじだもんなぁ。
「主任って元S級冒険者で、吟遊詩人の歌にもなるほど有名なんだって、姿絵なんかもバンバン売れてたらしいの、んで係長はその頃のファンと言う訳」
S級とは超一流なのかな、ナイフ一本でモンスターを真っ二つにする人は普通じゃないし、ついでにアレコレ聞こうとすると
「おっと、これ以上は情報料が必要だよ、この後の昼食を奢ってくれたまえ」
安い情報料だ。
食堂は多くの人族、次いでドワーフとエルフに獣人それに少数ではあるが魔族の人達で混雑している、入り口で二人分の料金を払い(安い)トレーとお皿をうけとり列に並ぶ、いわゆるビュッフェスタイルである。
「さぁ、遠慮せずに何でも食べて下さい」
「後輩君……塔の食堂でそのセリフは格好悪いよ」
道具四課、道具と付いてるが使用してる訳でも作ってる訳でもない。
仕事は他の課の書類や資料作り荷運びなど、薬草採取もそうだが製造部の雑用を一手に引き受けてる状態だ。
四課に配属されて一ヶ月ほど経つがその辺も含めてアンナさんには色々聞いておきたい。
塔には九つの部があり自分たちの所属は製造部になる、製造部は武器と薬品は三つの課、道具は四つの課で成り立つ。
武器課は主に武器防具の製造、ドワーフが殆どで塔一階の鍛冶場にある。
薬品課は解毒薬やポーションの製造や新薬の開発、化粧品なども扱っていてエルフが多く三階にある。
道具課は一課が花形で武器に魔力を付与して魔剣などの兵器製造、二課が防具に魔力付与、三課は生活魔道具の製造や魔石に魔力補充など一般向けの魔道具を扱っている。
道具一課の兵器と薬品二課のポーションが白の塔の主力商品であり、これらを各国に輸出する事でどこの国にも属さない自治権を得てるらしい。
我らが道具四課は半年前に新設されたばかりの課で主となる製品がない為、部の雑用課と化している。
その後は総務に五つ子ちゃんがいるとか、やれ薬一と薬ニは仲が悪いとか道一の課長はイケメンだとか話が脱線し始めた頃
「アラ〜製造部のお荷物、道四の方じゃないの〜」
金髪金目で胸が強調される服を着た妙に色っぽい女性が話しかけてきた。
「後輩君戻ろっか」
そう言って席を立ちあがろうとする。
あれ? 無視してもいいの?
「君は新人かしら〜? 道四に配属されるなんて可哀想ね〜」
なんかいきなり失礼な事言ってきた。
「まぁまぁカタリナ君、同じ道具課なんだからそう邪険にしないでくれ」
カタリナ嬢の後ろから黒髪をオールバックにしたタレ目の男が現れる。
「課長補佐……」
「今は道具ニ課課長だよアンナ君、ミスト課長は元気かい? おっと今は課長代理か」
ミストとは四課課長代理の名前だ。
「ミスト課長は元気です! 失礼します課長補佐!」
そう言い勢いよく立ち上がりその場を去っていく、
自分もトレーを持ち二人に会釈して後を追う。
「早めに転属願いを出した方がいいわよ〜」
後ろで何か言ってるが無視してその場を去る。
食堂を後にし四課に戻る途中
「ミスト課長は元々道具二課の課長だったの……」
アンナさんが呟く。
「私も道具ニ課にいてミスト課長の元で働いてたの、仕事も充実して順調だったんだけど……」
「じゃあさっきの二人は元同僚なんですね」
「まぁそうね……ある時書類に重大な不備があったの
、そのままだと大変な事になるところをあの男……課長補佐が見つけたの」
「大事になる前に見つかって良かったんじゃないんですか?」
「最終確認のサインがミスト課長になってたの、でも課長はサインをした記憶はないって言って……書類を作った人は課長補佐の部下だったけど最終的にサインはミスト課長の物だったから責任はミスト課長にあるって話になって……」
誰かに嵌められた可能性もあるけど証拠がないんじゃ水掛け論になる。
「ミスト課長は責任を取って辞めるって言うのを部長が四課を新設して課長代理にして引き止めたの、私達はミスト課長にお世話になったから一緒に四課に来た訳、道具四課の半分くらいはニ課から来たミスト課長の部下なんだよ」
一番怪しいのはさっき会った課長補佐だった男だろう、結果ニ課の課長になった訳だから、でも立証するのは難しかったんだろうな。
課長代理だけど本当の課長がいないのはこう言う事か。
「あの男が絶対に怪しいの! それに……」
それに?
「給料が下がったのよ!」
お金は大事だね。




