02.パワハラ被害
白の塔では種族は問わない
人族だろうがエルフだろうがドワーフだろうが魔族だろうが。
白の塔では身分は問わない
王だろうが貴族だろうが平民だろうがスラム出身だろうが。
白の塔ではすべての商品を扱う
食品だろうが武器だろうが薬だろうが毒だろうが命だろうがすべてを扱う。
研修時に色々言われたがこのフレーズはよく覚えている、魔族とか命とか不穏な言葉があったからだ、これだけ聞くとインターナショナルな総合総社で死の商人って感じか? 欲張りだね。
福利厚生は良く寮完備、食堂あり(安いが無料ではない)週休一日だが有給有り、そして何より大浴場完備!
元日本人としては毎日風呂に入れるのはポイントが高い。
給料は高くないが安定を求める自分には丁度よい環境ではないだろうか、権力争い? 冒険者になって大冒険? いやいやこれからはオルタニア王国第四王子アルフレッド・オルタニアではなく、ただのアルフレッド、いや平塔員アルとして平穏無事に過ごすのだ。
「アル! 避けろ!」
「えっ、なっ!」
刹那、顔の脇を何かが通り過ぎる。
ドゴッと後ろで音が鳴り、振り返るとソフトボールほどの石が地面に刺さっていた。
え? 何が起こった?
主任が叫ぶ。
「ストーントレント! しかもかなりの大物だ、逃げるぞ」
正面を向くと灰色で石の様な質感の大木がこちらに向かって動いているのが見えた、大木の真ん中には目と口の様な穴が空いていて目の奥が赤く光っている。
モンスターなんて学院の頃の実習以来久しぶりに見た。
「後輩君こっちこっち〜」
赤毛のアンナさんが少し離れた岩陰から手を振っていた、そちらに向かって走り出すと頭の上を石の弾丸が通り過ぎて前方の木を抉りながら消えていく、ヤバっ! あんな物に当たったら怪我だけじゃ済まない、何とか岩陰に滑りこんで一息つき
「ハァハァ、何ですかあれは?」
「トレントじゃない? あんな大きなのは初めて見たよ、あっ主任も来た」
程なくして主任も同じ岩陰にふらつきながら入ってきた、ただの薬草採取のはずが何故こんな事に。
バレルバード主任、金髪を短く刈り上げた精悍な顔立ちの四十三歳ナイスミドル、元冒険者の道具四課主任である。
「主任ってアレ倒せたりします?」
元冒険者ならなんらかの手段を持っているかもしれない。
「近付けば倒せるぞ、だがあの石の弾丸が厄介だな、まぁ何とでもなるがな」
主任の右脚は義足だ、冒険者時代に右脚を失い冒険者を引退して白の塔に就職したらしい、普通に生活する分には問題はないが、走ったりましてや戦闘などは厳しいのだろう。
ガン!!
自分達の隠れてる岩に石弾の当たる音が響く。
「あまり時間はないな、街道まで連れていっても問題になるし、よし! アルお前あっちに向かって走れ、でトレントが横を通り過ぎる時俺が倒す」
「はい?」
囮になれって事? マジで言ってる?
「ほらっ早くしろ上司命令だ」
うわっ! コレがパワハラか! 平塔員はつらいよ。
「大丈夫だよ後輩君、死なない程度の怪我ならハイポーションで治るから、金貨一枚だけどね」
じゃあ死ぬ程度の怪我ならどうなるんだ? あと給料一ヶ月分じゃん、ええい! 行くしかない。
岩陰から飛び出そうとする時、主任から声が掛かる、なんかアドバイスくれるの?
「アル、塔員割引でハイポーションはもう少し安いぞ」
そんな情報はいらない。
岩陰から飛び出しトレントとの距離を確認する。
まだ離れているが確実にこちらに近づいている、とにかく走らなくては。
「ヒィ!」
石の弾丸が足元に突き刺さる。
一発目は三メートル程右側に、二発目は一メートル左側、三発目が今だ。
これってだんだん照準が合ってきてるのでは?
かと言って後ろを見る余裕もない、結果ただ真っ直ぐ走るだけになっている。
息が上がってもう走れなくなってきた、次の弾丸に怯えていると、
ギインッ!
と硬質な音が鳴った。
恐る恐る後ろを振り返るとトレントは先ほど自分がいた岩の横を通り過ぎるところだ、見ると大木の口の部分から亀裂が入り、上の部分がゆっくり後ろに倒れていく。
ズズンッと重い音がして土煙が上がる。
助かった? 久しぶりの全力疾走で膝が笑っているが主任達の所へフラフラと戻る。
「お疲れ、アルお前足遅いなぁ、ヒヤヒヤしたぞ」
いや、アレでも全力疾走です。
「後輩君! 主任スゴイんだよ! ナイフをピッって構えてヒュってしたらギンッって鳴ってズシンってなったの!」
うん、わからん。
どうやら主任は採取用ナイフであの化け物を倒した様だ、あんな小さなナイフで何で大木が真っ二つになるの? 冒険者恐ろしい。
「おっ、なかなかの上物だな」
気付けば主任はトレントの亡き骸の上に立っていた。
「アル、頑張ったお前にやるよ」
その言って小さな物を放り投げる。
受け取ったのは五センチ程の透明な石だった。
「主任コレ魔石ですか?」
普段見ている魔石よりも透き通っている。
「魔石だ、大きさも透明度もなかなかの物だ、素材にしてもいいし売ればそこそこ良い値段になるぞ」
「やった〜美味しい物でも食べに行こうよ」
いや、あなたは岩陰に隠れてただけでしょ、倒したのは主任で囮になったのは自分だ。
「死ぬ思いをして手に入れた物ですから売らずに取っときます」
「そっかー残念、薬草は量採れたからこのまま帰ろっか」
薬品課の依頼で薬草採取するだけの簡単なお仕事だったはずなのに……。
こんな冒険は望んでない。
このまま塔に帰還する流れになったが自分の膝と太ももに先ほどの全力疾走のツケが回ってきた。
「主任! 自分足が限界なんで街道でたら辻馬車乗りましょう」
もう今日は歩きたくない、みんな疲れてるから賛同してくれるよね? ね?
しかし二人とも胡乱げな目で見た後
「お前はもう少し鍛えた方がいい」
「たぶん馬車代は経費で落ちないよー」




