48.帝国の義兄弟
「この人が今日からあなたのもう一人のお兄さんよ」
家族が急に増えた、子供心にもそんなものかと理解し、そして小さい兄とはすぐに打ち解けた。
「おーい、コン、こっちに登ってこいよ」
小兄が庭の木の上から声をかけてきた。
「むっ無理だよ、高い所は怖いよ」
「手を貸してやるから、ホラッ」
小兄に引っ張り上げられ枝の太い部分に立ってみた。
「わぁ!」
「なっ、高い所から見る景色もいいだろ?」
いつもと違う視線、屋敷の二階の中も見える、塀の向こうには街並みを見る事も出来た。
「うん! 少し怖いけどいろんな物が見えるのは楽しいね!」
「そうだな、立つ位置によって見え方は変わるんだ、下から見る世界と上から見る世界、俺はどの位置に立つ事が出来るかな」
時々小兄は難しい事を言う、一番高い位置から見ればもっといろいろ見えるよね。
口の中に血の味が広がる。
「んだよ! アイツら! ちょっとばかし格が上だからってよ! あームカつくぜ!」
そしてまた顔を殴られた、大兄は嫌いだ、嫌な出来事があると僕を殴るから。
「やめなよ、兄上! コンが可哀想だよ」
「はっ、テメーは居候のくせに生意気なんだよ! いずれ出てくんだから家族ヅラすんな!」
大兄が出て行って小兄と二人になった。
「コン、大丈夫か? 今傷薬と濡れタオルを取ってくるからな」
「待って、小兄、小兄はここを出てっちゃうの?」
「……そうだ、まだ先の話しだがな」
「そんな……小兄がいなくなるなんて……」
急に出来た兄、だが今はいなくてはならない存在になっていた。
「その時は、コン、お前も一緒に来てくれるか?」
それはいつなのか何なのかはわからないが小兄と一緒なら怖くはない。
「僕は小兄と一緒に行く!」
この時はまだ何もわかっていなかった。
あの子供の決意から十年過ぎている、もう何も知らない子供ではない、身体も人並み以上に大きくなった、小兄を護るための訓練も欠かさない。
「それは何をしてんだ?」
小兄は書いていた書類をいくつかの袋に分けて入れていた。
「ここを出ていく準備さ、これで……っと、コンお前は準備は出来ているか? そろそろ動くぞ」
「あぁ、いつでもいいぞ」
家を出て、この兄に着いて行く心構えはすでに出来ている。
日課である朝の素振りをしていると、こちらに向かって酒瓶が飛んで来た、俺は木刀でそれを弾く。
「テメーは図体ばかりデカくなりやがって! 身体ばっか鍛えてねぇで少しは領地の事を考えやがれ!」
瓶をなげたのは大きい方の兄だった、身体は俺の方が大きくなっている、もう殴られる事はない。
「兄上こそ酒ばかり飲んでないで視察にでも出た方が良いのではないか?」
いつもは無視するが言い返してしまった。
「あぁ?! ちょっと皇子に気に入られてるからって調子乗ってんじゃねぇよ!」
顔を殴りにきたようだが軽くかわす、子供の時の様に殴られる気はない。
「やぁやぁ喧嘩は良くないよ、コン、その拳をどうするつもりだい?」
いつのまにか拳を振り上げていたらしい、だいぶ鬱憤が溜まっていた様だ。
「それで兄上にはコチラをどうぞ」
小兄が大兄に紙束を渡した。
「これは何だ?」
「この領地で栽培されている綿花の加工方法ですよ、今は素材をそのまま売ってますが、工場を作るなりして売った方が利益は出ます、その他にも…………」
小兄は領地が潤う方法をいくつも思いついていた。
「それは差し上げます、どう使うかあなた次第です」
「いっ、いいのか? これで……親父や周りのヤツも……」
「代わりに彼を頂きたい」
小兄が俺の肩を抱く。
「俺はもう出ていきますが、コンを護衛兼従者として連れて行きます、父上や母上には了承を得ていますがあなたに何かあった時に後取りがいなくなっ」
「俺だ! 俺が継ぐんだよ! コン! お前が戻って来ても居場所はねぇからな!」
小兄のおかげで後腐れなく家を出る事ができそうだな、戻る気もない、だったらさっき一発殴っておくべきだった。
まだ日も昇らない早朝に二人で家を出た、荷物は肩に担いだバックだけ、それに徒歩だ。
「これからどこに行くんだ?」
「今は何の成果も上げてないから皇都に行ってもしょうがないからな、とりあえず南に向かう」
帝国を離れる様だ、南の三国かまたはエルフや魔族の国もあるな。
「南で実績を積み上げて皇城に凱旋しようぜ」
「成果を上げるならあのバカ兄に任せないで帝国領を発展させた方が手っ取り早いんじゃないのか?」
「帝国は歴史も古いが考え方も古い、水は流れなければ腐っていくんだ、俺は新たな流れを作りたいんだ、それとあの男が領地を発展させる事が出来たらそれはそれで良い、いずれ全て俺の物になる予定だからな」
小兄はカルヴァス帝国皇帝の血を引く皇子である、数多くいる皇子皇女は貴族に養子に出されたり市井に放り込まれたりする、そのまま埋もれてしまう者もいるが、野心のある者は皇帝の椅子を目指す。
小兄は皇帝を目指している、いつか木の上から見た景色、小兄の目には俺とは違った物が見えていたのだろう。
より高みを目指す時、俺はこの人の隣に立っている事を望んでいる。




