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37.それぞれの思惑

 道具四課課長


「課長、これから十日ほど休みを下さい、その後は休み無しでいいんで」

 珍しくアル君が長期休みを申請してきた。

「えらい急だな、国に帰るのか? 君はふふっふふふアレだから」

 王子なのは三課では私しか知らない事だ、これが思いの外面白い。

「いや違います、今やらなければいけない事ができました、塔にはいるんですが業務は出来そうにないんで……」

 いつになく真剣な様だ、いつもの飄々とした感じがない。

「わかった、今は人手が余っているからな、何をするかは知らないが頑張りなさい」

「ありがとうございます、休暇の申請書とか書いてないですけどいいですか?」

「あぁ私がやっておく、すぐに動きたいんだろう? もう行っていいぞ」

「お願いします、じゃ行きますね」

 アル君は足早に去って行った。

 

 アル君には冷風機作りの時には無理をさせたし、道具課にもだいぶ貢献している、少しぐらいの休みは何とかしてやろう。

 それに四課の時もそうだったが彼が動くと物事が良い方向に進むからな、今回もきっと誰かの助けになるんだろう。

 しかし普段の行動と言動は全然王子っぽくない、そこが面白い、今はまだ私だけの秘密にしてもう少し楽しませてもらおう。




 製造部部長兼武器一課課長


「おうっ! 何じゃその変なナイフは?」

「知り合いから頼まれてのぉ、形だけここに書いてある様に作って欲しいそうじゃ」

「何じゃこの形は? けったいなナイフじゃな」

 頼まれた物は仕方がない、しかしドワーフたる物、依頼通り作るし切れ味もおろそかにはしない。

「そんなもん作ってていいのか? 来年のゴングーべに出るんじゃろ?」

「あぁわかっとる、その為にも必要な物じゃ」


 ゴングーべ、ドワーフの鍛治の腕を競う十年に一度の催しで、来年が開催次期である。

「しかしまた、なんで急に出ようと思ったんじゃ? まぁお前さんの腕なら上位どころか、王に献上するところまで手が届きそうなもんじゃが」


 塔にいるドワーフは大体同郷だ、地元にいて腕を競うのもいいが塔にいれば新しい素材が手に入りやすい、それに魔剣作りなど新しい技術も得られる。

 そしてゴングーべで認められた物はドワーフ王に献上される、これはドワーフにとって極めて誉な事である。


「前々から出るつもりじゃった、丁度いろんな事が重なってのぉ、ゴングーべに出る事や塔を辞める事なんかを利用して若者の手助けをしてやろうと思うわけじゃ」

「若者ねぇ、お前さんがそれで良いならいいが……まぁ出るなら最高の物を拵えてこい」

「当たり前じゃ、ここでお前達と学んだ技術を使って最高の献上品を作り上げてくるわい」

 槌を振り上げ仕上げに掛かる。

 親方は今日も元気に槌を振るっていた。




 道具三課課長と弟


 作業場の隅でまた煙が上がっている。

「姉さん、実験は止めてって言ったよね?」

「違うよ、これはアルからの正式な依頼で作ってるんだよ、アルは休んでるけどね」

「アル君から?」

 そう言えば最近彼を見かけていない、いつも魔石の所にいるのに。

「開発部に行ったら何を作ろっかなー、あー楽しみー」

 今でさえ目を離すと勝手な事をしだすのに、開発部なんて環境を与えたら暴走は止まらないだろう。

 姉さんについて行ける人材は貴重だ、アル君ならきっと姉さんを止められ……ないだろうな、振り回される姿が目に浮かぶ。

 それにしても姉さんに変な魔道具製作を頼んで彼は何をしているのだろう?



 道具一課課長


 執務室で手紙を読んでいる時にキーコンが入ってきた。

「クラン、カイトの奴が開発部に行きたいとか言ってたぞ」

「あぁ、知ってる、薬品課のエルメストさんから手紙をもらったからな、デートの誘いかと思ったらカイトを開発部に移動させて欲しいとか書いてあった、アイツ上手い事やったな」

「一課での仕事も半人前なのにフラフラしてると大成できないんじゃないか? カイトは伸び代があるからもっと鍛えたかったんだが」

「若いうちにいろいろ見て回るのも良い経験さ、それよりもこの手紙を読んでみろよ」

「エルメスト課長からの手紙か?」

「いや、別件だ、面白い事が書いてあるぜ」

 キーコンはクランから手紙を受け取り読み始める。

「これは……やっと動けるようになるのか?」

「あぁ、まず手始めに部長になるとしよう、話はそれからだ」

 



 薬品二課課長


 部長から手紙が届いた、塔をやめるから次の部長候補を決めるために製造部で会議を行う様だ。

 私には関係ない話だ、だって私も塔を辞めるつもりだし。

 しかしたった二回しか話しをしていない彼が動いてくれている、期待はしていないがすぐには辞めず、もう少しだけ待ってみよう。


「ギージャム課長、部長から手紙が届いてませんか?」

 嫌な奴が来た。

「……届いてるよ、そこに置いてある」

 レックスは手紙を取り読み始める。

「ほほぅ、製造部会議ですか、もちろん課長も参加されるんですよね?」

「あぁ()()課長だからな」

「いつまで課長でいられますかね? そろそろ身の振り方でも考えた方が良いのでは?」

 はーもう辞めたい、いちいち突っかかってくるんだから、私が辞めたらコイツが課長になるのかしら? 

「私は仕事に戻るから、会議に出席する人はアンタが決めといて、もう行くから」

 なるべくコイツらの顔を見たくない、ポーション作りに没頭してる方がましだ。


 部屋にレックスが一人残っていると、ノックと共に虎の獣人が入ってくる。

「ギージャムはいねえのか?」

「仕事に行きましたよ、大人しくポーションだけ作っていれば二課に残しても良いんですけどね」

「それじゃお前が課長になれねぇじゃねえか、いつまで課長補佐でいるんだよ」

「そうですねぇ……やっぱりギージャムさんには居なくなってもらわなくてはならないですね、丁度良く会議があるので彼女にはその時に退場してもらいましょう」

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