36.猫好きは辞めちゃダメ
「おいっ! ユーリ止めろ! 誰か窓を開けてくれ」
作業場の一部からカラフルな煙が上がる、どうやらユーリ課長が何かやらかしたらしい。
「姉さん何してるの、何でコンロを作ってるだけなのにこんな煙が出るの? おかしいでしょ?」
「いやー片方だけ水の魔石に変えたら煙が出たからさー、魔石にインクをたらしたらどいなるのかなー? って思ったの」
「そう言う実験は、開発部に行ってからにしなよ、今は普通に作って、余計な事はしない!」
「はーい」
ユーリ課長がジャン係長に叱られている、開発部では自分がその役目を負わなければならない。
新生三課は家電製品もどきを作っている、電気の代わりに魔力を使い、電池の代わりは魔石を使用している。
これらによりコンロやポット、ドライヤーに冷蔵庫、その他にも四課で作っていたエアコンなどが製作されている。
「アル主任これもお願いします」
「はい、そこに置いといて下さい」
自分の仕事は専ら魔石に魔力を充填する事だ、いまだに魔力切れを起こした事はない、魔力の多さが非常に役だっている。
それに魔力付与は出来る様にはなっているがそれほど上達はしていない、なら自分の得意な事に専念した方が効率的だ。
「あらー? 開発部期待の星は魔石ばかりいじってるのね」
道具二課のカタリナさんが来ていた様だ。
「そっちの箱を持って行って良いですよ」
「悪いわねー、でも皆さんウチの者より優秀なんだからしょうがないわよね、じゃあコレは貰っていくわ……まさか……重いとかないわよね……」
カタリナさんは魔石の入った箱を抱えて出て行った。
道具三課と四課が合併した事により仕事の割に人数が多い、それを理由に道具二課が充填済みの魔石を提供する様依頼してきた、それに言い出したのは道具二課だけではない。
「魔石を取りに来たぞ! さっさと寄越せ!」
ドアを開けて開口一番に怒鳴る獣人。
「あっ……後輩君、薬品二課の人が来たよ」
薬品二課も魔石を融通しろと言い出したのだ。
「この箱を……アンナさんが渡してくれますか? たぶん自分が渡すと角が立ちそうなんで」
「?? いいよ、この箱を渡せば良いのね」
「お願いします」
魔石を取りに来たのは薬品二課の獣人アドバンさんだ、最初に来た時に猫の獣人なんですか? と聞いたらすごく不機嫌になりながら虎の獣人だと教えてくれた、軟弱な猫と一緒にするなとも言っていた。
そのあとに耳を触らせてもらえないか聞いたら、めっちゃキレられた、獣人の常識を知らなかった自分が悪かった、それ以来目も合わせてくれない。
魔石の受け渡しも終わり再度魔石充填作業に戻る。
「アル……手伝う?」
「あぁルイさん、大丈夫です、魔力はまだまだありますから」
ルイさんの事はエル課長から聞いている、エル課長と姉妹である事や薬品一課にいた事などだ。
薬品一課が低迷していた頃、人数を減らす様、上と薬品二課から圧力がかかった時にルイさんと他数名が名乗り出た。
その時ルイさんだけは道具四課に移動して塔に残る事が出来た、本当はエル課長と解呪の研究をしたかったんだろうな、開発部に行ったら課は違うが一緒に研究する時間も作れる事だろう。
「手伝いが必要なら言って、薬品二課は無茶な要求なんかもしてきたから……」
「ありがとうございます、でも魔石ぐらいなら問題ないです」
「そう……わかった、がんばって」
ルイさんが戻って行きアンナさんが帰ってきた。
「今度から一箱につき金貨一枚ぐらい貰おうよ、いい商売になりそうじゃない?」
相変わらずの金である。
「アンナさんは薬品二課の事って何か知ってますか?」
噂好きのアンナさんなら何か知っているかも。
「なんかあんまり良い話は聞かないよ、利益を出してるから横柄な態度をとるとか乱暴な人がいるとか、課長がダークエルフだからそんな人が集まってるらしいね」
「ダークエルフってそんなにイメージ悪いんですか?」
「私はあまり知らないけど闇に堕ちた者とか悪魔の手先だとか言ってる人もいたなぁ」
ダークエルフに対する誹謗中傷がひどい。
「まぁあまり関わらない方がいいんじゃない」
話を聞いて余計にわからなくなった、ギー課長はいい人? 悪い人? 噂を信じず自分で判断するしかない様だ。
寮への短い帰り道、判断する時はすぐに来た、道端にギーさんが座っていたからだ。
「ギーさん、また白虎ちゃんを探しているのですか?」
ギーさんはゆっくり立ち上がりこちらに振り向いた。
「白虎ちゃんいないの……今回は奮発して魔牛の肉を買ってきたんだけど……何でいないの? なけなしのお金をはたいたのに……今日あげないとお肉悪くなっちゃう、もったいないなぁ……」
あぁこの人は絶対良い人だ、噂を信じちゃいけないね。
「こないだも言いましたが、仕事中の白虎ちゃんはエサとか食べないんじゃないですか?」
「エサとか言わないで! 食事よ食事! 豪華な食事をしてもらうはずだったのになぁ、あぁ……そうだ君に会えてよかった、あの……突然なんだけどちょっと悩みを聞いてくれるかな?」
「自分で良ければ聞きますよ、話せば解決する事もありますから」
「ありがとう、やっぱり君は優しいね、あのね……私塔を辞めさせられそうなの……」
「えっ?! 何でですか?」
「それは……私……私が……ダークエルフだから……」
「でも塔は身分や種族には拘らないはずです、それにギーさんは薬品二課の課長ですよね? 課長になる為に信頼と実績を積み上げてきたのにダークエルフだから辞めさせるなんて……そんなのおかしいですよ」
「信頼と実績か……確かに実績はあると思うよ、誰よりも研究をしたしポーションも作った、けど……信頼はされていなかったみたいね……」
「どう言う事ですか?」
「こないだ薬品一課の人達が襲われた事件があったんだけど、私の部下達がその犯人が私だって言い出したの……」
「あの事件の襲撃者達は皆死んでますから犯人も何もないんじゃないですか?」
「だけど私がダークエルフだから……悪魔の魔道具を使って一課を襲わせたんだって……そんな魔道具知らないし、作れないよ……」
「じゃあ辞めさせ様としてるのは塔から、とか総務とか、じゃなくて薬品二課内の話しなんですね?」
「そうね、もともと居心地の良い環境ではなかったけど最近はいるだけで辛いの、だったらもう自分から辞めようかなって……」
このままこの人を辞めさせてはいけないな、じゃあどうすれば? 真犯人を見つける? エル課長と話し合っても見当もつかなかった。
方向を変えて考えてみよう、ギー課長が辞めて得をする人……このパターンは前にもあったな、道具二課でのミスト課長の件だったり、四課のガッカリ長のお粗末な策略など、上が辞めれば単純に下の者が出世する。
となると………。
「なんか話してスッキリしたかも、どうしようか考えてたんだけどもういいかな、私塔を辞めるわ、別にここじゃなくてもポーションは作れるし他にも人の役に立つ事があるかもしれないしね」
「ギーさん、辞めるまで少し時間を下さい、ほんの少しですが何とか出来そうな気がしないでもない様な……」
「ふふっ、出来るの? 出来ないの? 無理しなくていいのよ」
「いや、何とかします! 自分の人脈と、あと道具課ですから道具を使って、だから辞めるのはもう少し待って下さい」
「君にそこまでしてもらわなくてもいいんだけど……でもありがとう、私ももう少し頑張ってみるね、でもほんとに無理はしないでね」
今は無理をする時だ、さて、何から始めようか?




