35.とある課長は猫が好き
「何だ? ケビンから聞いてないのか?」
「えっと……何も知りませんけど……」
ケビンの野郎、何だかわからないが、次に会ったらグーでパンチだ。
「いずれ君にも白の契約をしてもらう事になる、なんせ開発者の一人だからな」
「えっ? 解呪の魔道具のですか?」
「もちろんそうだ」
もちろんと言われても身に覚えがない。
聞けば魔道具を作ったのはケビンなのだが、使った技術があの魔力を速く入れる事だった。
聖属性を込めた棒は呪いを付着させる効果があった、それに今までの技術を組み合わせ解呪の魔道具が出来上がった様だ。
「ケビンが仕様書を作る時に技術提供者に君の名前を
書いていたぞ、私はその時初めて君の事を知ったんだ」
「わかりました、次にケビンあったらグーパンしときます」
「グーパン? まぁケビンも良かれと思ってやったのだろう……君達は仲が良いんだよな? ……それでこの魔道具の作り方は機密性が高いから白の契約をしなければならない」
「あっ、その白の契約ってなんですか?」
「解呪の魔道具や魔剣の制作方法などの機密性の高い情報を漏洩させない契約だ、その事を話したり伝える事が出来なくなる」
白の塔の技術は簡単には外に出さないのか、そうでもしないと独立都市なんて維持出来ないのだろう。
ちなみに冷風機ぐらいの技術では契約はしないで済む。
その後は自分も白の契約をする事、魔力を速く入れる技術の事、前世の記憶のある転生者である事、開発部が出来たらどう動くかなどを話し合った。
しかし何故街で化け物に襲われたかは話し合っても答えは出なかった。
「あーーーー」
勝手に声が漏れる、やっぱり風呂は良い、いつもの大浴場である。
最近立て続けに問題があったから疲れているのだろう。
青龍様やエル課長に前世の話しをした事で風呂好きの元日本人と言う事を再認識した。
「ふーおつかれさん」
「あっ、アルあの後どうなったんだよ?!」
ザブン、と親方とカイトが湯船に浸かった。
「お疲れ様です」
カイトにはどこまで話して良いのか。
「執行役員の方に会って今後の計画を話したんだ、内容は自分達のプライベートの事や魔道具関連の事だから話せないけどね、あと街で襲撃に会った事は何もわからなかった」
「おおっ! 執行役員ってなかなか会えないんだろ? 俺も会ってみたかったなー!」
もうすでに会ってるぞ、とは言えない、今もすぐそこにいるし。
「親方知ってましたよね?」
親方は部長だから青龍様の事も知っていたはずだ。
「だから関わらん方が良い言うとったじゃろ」
知ってても言えない事ってありますよね。
「あっ、アルあっ! 痛! 何すんの!」
ケビンも来たから脳天にチョップをくれてやった、グーじゃないだけありがたいと思え。
「お前は余計なことをしてくれたな」
「えっ?! 何の事?」
「魔道具の事だ、白の契約をする羽目になったじゃないか、それに仕様書に勝手に俺の名前を書くな!」
エル課長と会議した後すぐに白の契約をしたのだ、いずれするなら早い方が良いと言う事で。
「アルは技術提供だけだから契約はしなくていいと思ったんだ、それとあの技術で魔道具を作ったんだから隠すのは無理だよ」
「そこは天から着想が降ってきたとか、夢で見た技術だったとか誤魔化せよ」
「だいぶ前に仕様書は提出したんだから諦めてよ、でも名前があったから昇進にも影響があったんじゃないかな、良かったね」
出世の一部分はケビンの所為だろう。
やっぱりコイツにはグーパンをすべきだと思う。
起きてしまった事を悔やんでも仕方ない、来年からは開発部で上手いこと立ち回ろう。
気付けばだいぶ肌寒い季節になってきたな、しかし風呂を出て食堂で食事をし寮に向かう、仕事も含めて敷地内で全て完結するので季節感があまりない、楽だけど。
塔から寮への短い道を歩いていると道端に白虎ちゃんがいた、少し離れた所に女性がしゃがんでいる。
「今日は鶏肉を持ってきたよ、どう? 少し触らせてくれないかな?」
女性は白虎ちゃんに餌付けをしてる様だ、しかし白虎ちゃんは、プイッとそっぽを向いてスタスタと歩いて行った。
「あぁ……」
女性の背中が悲しみを背負っている。
「あの猫はある方の使い魔ですよ、たぶん仕事中は触らせてもらえないと思います」
女性があまりにも可哀想だったのでフォローしてあげる。
いきなり声をかけられて驚いたのか恥ずかしかったのか勢いよく立ち上がりこちらを向いた。
「そっそうなんだ、たまに見かける子だから誰かが寮で飼ってるのかと思っ……た……あっ……君は……」
暗がりでわからなかったが女性は褐色の肌と尖った耳を持ったダークエルフ、薬品二課の課長さんだった。
「あの子の名前は白虎ちゃんです、自分も触ろうとしたら逃げられましたよ」
街では簡単に捕獲出来た事はわざわざ言う事はないだろう。
「そうか、ビャッコちゃんと言うのね、可愛い名前だな。
私は薬品二課のギージャム、君は開発部に行く予定のアルフレッド君だよね?」
「道具三課のアルフレッドです、アルと呼んで下さい」
「私の事もギーと呼んで、それと先日の会議ではごめんなさい。
君の事を貶めるつもりはなかったの、ただ薬品二課が劣っていると思われるのが嫌だったの」
ギー課長は頭を下げた。
「大丈夫です、気にしてませんから、それに名指しで批判したのは道具二課の人です」
「そっか、ありがとう、君は優しいね、それで……あの……君は私に忌避感はないのかな? その……ダークエルフだし……」
「ダークエルフに会うのはギーさんが初めてですよ、エルフの友達もいますが肌の色が違うぐらいじゃないんですか? それに猫好きに悪い人はいません」
「そっ……そっか、いきなり変なこと聞いてごめんね、じゃ私は帰るね、またねアル君」
ギー課長が足早に去っていった。
薬品一課は薬品二課から嫌がらせを受けていた、ミレーネさん達を襲ったのも薬品二課が疑わしい。
しかし今話した感じ、ギー課長が悪い人とは思えないんだよなぁ。
自分も猫は好きだから。




