33.二人の殿下
夜の白の塔、昼とは違って不気味さがある、今はナムさんを先頭にエル課長と自分の三人で塔の通路を歩いている。
護衛のカレンさんやカイトも一緒に行きたがったが執行役員は部長以上しか会うのが許されないらしい、次期部長のエル課長はいいとして何故自分が会わなければならないのか。
前世の知識を知っている事で転生者である事を疑われたのかも知れない。
この世界の転生者に対する扱いがわからないので自分から言う事はなかったが別段隠してもいない、王国にいる頃に調べたが記述や話はなかった、塔に来たら調べようと思っていたのだが……すっかり忘れていた。
「こんなに早く執行役員に会える事になるとはな」
「部長になると会えるって事をエル課長は知ってたんですか?」
「あぁもちろんだ、その為に部長に成りたがる者もいるぐらいだ」
「何で会いたいんですか? お偉いさんと会っても疲れるだけですよね?」
副塔長も役員だろうが別に会いたいとは思わない。
「君も塔の規約が厳しいのは知っているだろ? 破れば厳しい罰則はあるが、規約に引っかかる案件は執行役員に意見を聞かないとまず通らないからな、それだけの権限を有してるのだ」
「なるほど、無理なお願いをしたい人は部長以上になるしかない訳ですね」
「そうだ、機密性の高い魔道具や薬品は必要だからと言って製造方法や品物を持って行く訳には行かない、その辺りを融通してもらう訳だ、それに白の契約もあるしな」
「白の契約って……」
「二人とも上に上がりますよ」
気付けば六階の受付に着いていた、受付嬢(ナムさんと同じ顔)に会釈をしエレベーターもどきに乗り込む。
ナムさんが扉を開けると、窓の先にはサロニアの夜景が広がっていた。
「おぉ! 今の部屋には転移の魔術を施してあったのか、それに塔の上層に来たのは初めてだ、鳥でもなければこの景色は見れないな!……あぁすまない、少し浮かれてしまった……」
前世のエレベーターを知っていると転移の方が違和感があるね、この世界に夜景の見れる高い建物はこの塔ぐらいなものだろう、自分も最初は昼間でも見惚れたからね。
「お二人とも行きますよ」
ナムさんは少しだけ夜景を楽しむ時間を取ってくれた。
「こちらの部屋に青龍様がいる……かどうかはわかりませんがお二人を紹介するつもりです、青龍様、入りますよ」
こちらが考える間もなくナムさんはノックし、返事も待たずにドアを開けた。
「あぁ……いませんね……すぐに話がしたかったのですが……少し待ってみますか、とりあえず座りましょうか」
ナムさんはそう言って部屋の隅にあるテーブルに案内してくれた。
青龍様? の部屋は異様な光景だった、それほど広くなく、窓際に止まり木があり先程活躍した朱雀君が休んでいる、そして壁という壁には大量の地図が貼り付けられ様々な書き込みがしてあった。
入り口の脇に今自分たちが掛けているテーブルと椅子があり反対側にベッドと執務机がある。
机の上にもベッドにも紙の束が乱雑に置かれていた。
「この部屋の主が執行役員の青龍様なんだな?」
「そうです、今は不在ですが」
質問しながらエル課長は周りを見渡している。
「あちらの鳥は先程化け物を焼き払った聖獣なのか?」
「聖獣ですが名前は朱雀君です、朱雀君は他の方から借りている聖獣です、今はいない白虎ちゃんとそこにいる玄武さんは青龍様が使役している魔獣です」
すると執務机の後ろから椅子がのそのそと動きだした、それは椅子ではなく亀だった。
「玄武さんの普段の仕事は青龍様の椅子です」
座るには丁度良いサイズの亀だが仕事が椅子ってのはどうかと思うよ。
「それで何故急に我々を青龍様に会わせようとしたのだ? 理由があるのだろう?」
「そうですね……今二人に塔を辞められると困るから……ですかね……」
エル課長の現況は知らないが自分は今、塔を辞める気はないけど?
「我々二人が塔を辞めると? ちなみにアル君と話したのは今日が初めてだが?」
「それはアルさんが転生者だからです」
「テンセイシャ? それは何なんだ?」
エル課長は転生と言う物を知らないのか、そしてナムさんは自分が転生者である事に確信がある様だ。
大事な事を聞いておこう。
「えっと、まず転生者で何かマズイ事ってありますか?」
まさか問答無用で死刑とかないよね?
「特にはないですよ、そもそも転生者は滅多にいませんから知っている人もほぼいません、一応聞きますが貴方は転生者ですか?」
ストレートに聞いてきたな、言ってもいいのか? 今更誤魔化しても無駄だろう。
「はい、この世界とは違う前世の記憶を持っているので転生者だと思います」
「やはりそうですか、青龍、朱雀、白虎、玄武の四神の話しはこの世界にはない伝承です、四神の事は他の転生者の方が話したのを青龍様が面白がって採用した結果生まれた物なのでこの世界では知られていません」
そんな事でバレるとは迂闊……でもバレても何もないならいっか。
「アル君が転生者? と言う事はわかったが塔を辞める事には結びつかないが?」
うん、自分もわからない。
「転生者は前世の知識、この世界にはない技術などを持っています、それを使ってかはわかりませんがアルさんは今の時点で塔での出世コースを歩んでいる、この実績を持って王位継承戦に挑むつもりではないんですか? アルさん、いやアルフレッド殿下」
なっ、なんだってー! そんな事は考えもしなかった、むしろコースアウトしたい。
「それと解呪の魔道具が完成した今、一刻も早く世界樹の元に向かいたいのではないのですか? エルメスト殿下」
なっ、なんだってー! エル課長は王女だった? それに世界樹? ちょっと情報が多すぎる。
「あの自分は……」
自分が弁明しようとした時
「私は呪いを解く技術を探す為にこの塔に来た」
エル課長に先を越された。
「確かに先日解呪の魔道具は作製出来たがまだ成功例は少ない、効果も検証中だ、塔は世界樹の現状を知っている様だが、まだ時期尚早なのだ」
「だが可能性があるならすぐにでも試したいのでは? 塔にとっても解呪の魔道具や技術は必要なのです」
「私は今、塔を辞めるつもりはない、それは理解して頂きたい、いずれ技術が確立したら白の契約の件も含めて上の者に相談するつもりだ」
「わかりました、それなら問題ありません」
エル課長は言い切ったな、自分も辞める気がない事を伝えよう、ついでに出世する気もない事を。
「あの自分は…」
「ほぉ、どうしてここにいる? 白の眷属よ、それに人族とエルフ……いやハイエルフか」
部屋に入って来た人にまた話を遮られた。
弁明させて。




